goo

事実証談 神霊部(下) 89~92 秋葉山

(クンシランが咲いた。陽当りが悪かったので、花茎が長くなった。)

事実証談の解読を続ける。

第89話
○周智郡馬ヶ谷村、久永屯という人は、猿楽の謡(うたい)の師にて、その門人数多有りけり。かの屯、海山などにては諷(うた)う事なかれと、堅く戒しむる故、その故を尋ぬるに、掛川駅なる、かの人の門人、秋葉山を日暮れて下りけるに、つれづれなるまゝに、謡をうたいければ、数百人の声と聞こえて、笑う事谷々に響き、物冷(すさま)じく身の毛よだちて、かしこく思い、駈け下り、

麓なる旅宿にてしかじかの事有りしと語りければ、亭主言いけるは、この御山にては山姥の宮とて、本社の裏に祠ありて、供物も現に納むるよし。この故に山姥とやらんの謡をばはばかると聞きしが、さる事は始めて承りぬと言いしと語りし事あり。それ故に海にても、うたう時はいかなる事のあらんも計りがたければ、戒むるなりと言えり。

※ 山姥(やまうば)- 伝説や昔話で,奥深い山に住んでいる女の怪物。背が高く髪は長く,口は大きく目は光って鋭い。やまんば。

第90話
○豊田郡敷地村にて、寛政十年(1798)の冬、山火事有しに、乾風にて、こゝかしこに燃え移り、麓なる家々に火のかゝりけれども、風下にて防ぐ方便(てだて)なき故、ひたすら秋葉山に祈願せしかば、たちまち巽風に吹き変わり、高根の方へ吹き上げしにより、家の辺りの火を消し、火災を免れしといえり。これは乗高(著者中村乗高)そこを通りかゝりて見たりし事なり。
※ 乾風(いぬいかぜ)- 北西の風。
※ 巽風(たつみかぜ)- 東南の風。


第91話
○安永年中(1772~1781)、周智郡天宮村、太右衛門という者の家より出火して、隣家弥助という者の家へ、西風にて吹き付け、防ぐに方便(てだて)なかりければ、川に入りて身滌(みそぎ)し、秋葉山に向いて祈願しければ、たちまち東風に吹き変わり、免れしと、則ち弥助の物語なり。

また天明年中(1781~1789)、同じ里なる町並の所にて出火して、のがるべき家もあらじと見えけるに、その中に又八という者、川に出て身滌し、秋葉山に祈願しつゝ、己が家をかえり見もせず、秋葉山へと駈(は)せ行きしかば、小家にては有りしが、前後左右残りなく焼失せしに、又八の家のみ防ぎ得て残りしと言えり。


第92話
○享和年中(1801~1804)、川勾(かわわの)庄、山家屋の主、秋葉山参詣の留主にて、隣家より出火して、その辺りなべて焼失せしに、町並みなれども、その家ばかり残りしと言えり。すべて秋葉山につきては、火の事にて吉凶を得し事、数多あれども、悉くは記さず。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )