熊澤良尊の将棋駒三昧

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回想記・その10、大局将棋駒、出会いと制作

2020-08-24 19:31:38 | 文章

回想記・その10、大局将棋駒、出会いと制作

  平成9年、国際日本文化センターで将棋学を標榜した「将棋の戦略と日本文化研究」(主宰・尾本恵市教授)がスタートしたのを知った私は、押しかけて参加を許された。メンバーは30人ほど。棋士では木村義徳九段と大学教授に転進されていた飯田弘之七段の二人。その他の人々は将棋好きな大学の先生や研究者の面々で、興福寺駒を発掘した清水康二さんも参加されていた。駒の研究は私一人。400年前の水無瀬駒と将棋馬日記について発表させていただいた。

 ある時、出席者の大阪商業大学の谷岡一郎学長から耳打ちがあって「世界最大の将棋の駒を作ってほしい。駒の文字や大きさは任せる」というものでした。
 私は、駒数354枚の泰将棋だと思って「分かりました」と答えたものの、話を聞くうちに誤りだとわかった。世界最大のそれは普通の将棋の20倍規模で、駒が804枚の超大型の盤の枡目が36✕36の「大局将棋」。江戸時代初期に考案された将棋で、その存在を示す書付けが、将棋博物館にある大橋家古文書の束の中から発見されていたのでした。 
 当時、将棋博物館の顧問を仰せつかっていた私は、不覚にもそれを知らずにいて、直ちに確認したのは言うまでもありません。
 資料は3種類ほど残っていて、駒804枚の配置図、209種類の駒それぞれの名前と行き方、それに実物大と思われる盤の原図でした。

 さて、制作依頼を受けた「大局将棋」の駒はどのような大きさに作るのが良いか、文字はどうするかなどあれこれ考えてイメージしながら2ヵ月ほど過ぎた頃です。
 大学では近くアミューズメント産業研究所部門を創設する計画があり、博物展示館も開設して「大局将棋駒」は、その目玉として常設展示する話を漏れ聞いて、ガゼン、私は全力で向き合って駒をオープンに間に合わせようと思った。残されているのは3ヵ月余り。だが、成算はあった。
 展示目的の駒だとしても、展示することのみ視野に入れて作ることはしない。駒は実用してこそ価値があるというのが、私の考えです。
 大きさは幾分小ぶりでも小さすぎない。厚みは存在感を考えて少し分厚めに。400年前の端正で重厚感ある水無瀬駒をイメージして本物を目指した木地づくりに着手。一番大きい「玉将」から一番小さな「歩兵」まで。盤上に並べたときの微妙な大きさの違いでバランスをとり、例えば「香車」は細く縦長く、「仲人」はやや小さくズングリむっくりと少しずつ大きさを変えながら作る。必要な駒は804枚。でも、倍以上の材料を成型して、その中から色合いなどを揃える。使ったのは薩摩ツゲの古材でした。

 駒の文字は表裏で209通り、一見しただけで表裏の違いが分かるよう、表の文字は楷書でやや太め。裏は行書でやや細く。それを直接、肉筆そのままの漆で書き上げて作る。書き駒なら手早く作れるし、古将棋の雰囲気が出る。
 ここで断っておきたいのは、一般的に書き駒は安物というイメージ。それが世の中に定着してしまったのは、過去大量に彼の町で作られてきた書き駒しか知らない人であり、水無瀬神宮に遺された400年前の水無瀬駒をご存じない人のイメージに過ぎないということ。書き駒にもピンキリある。江戸時代以前のいにしえの能筆家の書いた駒の文字の美しさを見れば、誤りに気付くだろう。
 かねてから私は、水無瀬神宮で水無瀬兼成筆の水無瀬駒に出会って以来、普通の駒づくりとは別に、練習を続けてきたのが自筆での書き駒でした。それを20年以上積み上げてきて、ようやくこのほど「大局将棋駒」作りに試す時が来た。「ヨシ、今度の大局将棋駒は、自筆の書き駒で作る」と決めたのでした。

 書き駒は、下地が何も無い五角形のツゲ木地に、一発勝負の漆で文字を書く。その前提として、モデルとなる「雛型」作りは大切で、それを五角形を描いた紙に墨で書くところから始めました。
 紙に書いたそれぞれの駒文字は、ハサミで切りだして駒木地に貼り付けて雛型とする。一段目、二段目、三段目ごとにバラけないようにまとめて、これを12段分、200枚近く作る。こうして出来上がったのが次の映像。この雛形は、今でも工房においてあるので、ご覧いただくことができます。

 

準備作業はこれで終わり。あとはそれぞれ804枚の木地表裏に文字を書くだけ。残された時間は、ふた月を切っていました。

映像は、完成した間際に撮影した「大局将棋」です。

 

 

 

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