熊澤良尊の将棋駒三昧

生涯2冊目の本「駒と歩む」。ペンクラブ大賞受賞。
送料込み5000円。
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目次

作品 文章 写真 販売品

回想記・その6、「名駒大鑑」

2020-08-14 03:23:31 | 文章

回想記・その6、「名駒大鑑」。

 一介の将棋好きなサラリーマンが、突然作った駒が時の名人と九段の記念対局に使われて、世間に知られるようになった。駒づくりは面白いと「駒づくりを楽しむ会」を作って提案した結果、駒づくりの輪が広まった。
 それから数年が経って、本業として駒づくりをしたいと思うようになった。上京した時などは、仕事が終わった夕刻には、マーケットリサーチのつもりで駒を売っている盤屋周りもした。このころには私を知っている店も多いので、名刺を出して単刀直入に「ここにある駒の仕入値段はいかほどですか」と、聞いたりもしました。
 分かったのは仕入れ値の安いこと。それは半端なことではなく「駒屋は乞食」のたとえ話はその通りで、これでは駒づくりでは生きて行けないとった思いのは当然で、私の選択は、会社勤めを続けるしかない、という判断でした。
 しかし、これで諦めるわけにはゆかない。やるべきことは、もっといい駒を作り続けること、そして名前を売ることに尽きると思いました。
 私にはもう一つの夢がありました。それは「駒の本づくり」です。それを身近な友人にも話したりしていたのですが、丁度そんな折り、Ⅿさんから「二人で本を出そう」との逆提案があり、「よし作ろう」と決めたのは当然のことでした。

 本の資金は二人で折半して、大きな写真はプロカメラマンに依頼して、原稿は私が書く。資料はこれまで私がため込んだりした知識や資料。それを余すことなく持ち寄って二人で構成を決めて行く。コンセプトは駒の専門書、唯一のバイブルとして平易で見やすく読みやすく、活字の大きさにもこだわり、50年経っても陳腐化せずに後世の研究者が資料として活用できるものにしたい。しかも、文字はできるだけ減らして、どのページを開いても写真やイラスト、図表がある絵本感覚にと。
 内容は、第1章・名駒写真集。第2章・将棋駒の歴史。第3章・将棋駒のルーツ水無瀬駒。第4章・象戯(しょうぎ)図。第5章・水無瀬兼成と将棋馬日記。第6章・豊島龍山秘話。第7章・駒関連人名用語集。第8章・駒づくりのすすめ。以上、カラー写真も入れて240ページ。掲載する駒の作者にも渡りをつけて、準備に2年ほどがかかりました。
 価格はいくらにするか。発行部数も判断がつきかねましたが、エイヤーと、1部2800円(後に3500円)で予約販売を受け付けたところ、たちまち大きな反響で、10年が経つ頃には、印刷した2700部のほとんどは底をついてしまいました。
 以上が38歳の時、40年前の記憶です。
 
 

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回想記・その5、水無瀬神宮の歴史史料と水無瀬駒

2020-08-14 03:22:51 | 文章

回想記・その5、水無瀬神宮の歴史史料と水無瀬駒

 大阪府北部の水無瀬神宮を訪ねたのは、駒づくりを始めて2~3年経った頃でした。
 安土桃山時代に作られた「水無瀬駒」が遺されているのを知り、是非見せてほしいと手紙を出したのですが、直ぐには叶わず、どうしたものかと思っていたところ、ラッキーなことに、上司の親戚筋が地元の町会議長だと知って、そのツテを頼りに訪問を許された。
 客殿に通されて畏まっていると、水無瀬忠政宮司は
「ここには学者や大学の先生が歴史調査でよく来られるが、駒については貴方が初めて・・」と言いながら、テーブルに出されたのは紫檀の箱に入ったツゲ駒。
 400年ほど前に作られたものだが、五角形の駒形はあくまで端正。文字は存在感たっぷりで気品ある漆書き。生半可なモノではなく、相当な人が書いた駒だと直感した。この古い水無瀬駒との出会いが、私の駒づくり人生を確定的にした。

 水無瀬神宮には駒のほかに巻物が2巻。一つは表題に「象戯図」とあり、現在の将棋(小将棋)のほか、大将棋や中将棋など6種類の古将棋図が描かれて、最尾には、水無瀬兼成七十九歳の署名がある。
 もう一つは、葉書よりやや大ぶりな厚み1センチほどの綴り。表紙には「将棊馬日記」とある。天正十八年の付箋が挟んであり、年次ごとに名前らしきものが並んでいる。
 拾い読みしてゆくと、公家や武将と思われる名前が並んでいて、知られた武将の名もある。さらにめくると、家康の名も繰り返し書かれている。全部で60数ページ。どうやらこれは400年近く前の水無瀬駒の納入記録であり、思いもしなかったすごい史料が出現したことに心が震えたことを覚えている。 
 すべてを写真に撮って、解読するにはひと月を要したが、それを余さず季刊誌「将棋賛歌・枻」の水無瀬特集として発表できたのは、幸せなめぐりあわせでした。
 以来、水無瀬神宮には、マスコミ関係者や将棋文化に興味ある方々を、ことあるごとにお連れしたりで、それは今でも続けていることの一つです。
 
 
コメント (2)
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駒の写真集

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