A DAY IN THE LIFE

好きなゴルフと古いLPやCDの棚卸しをしながらのJAZZの話題を中心に。

ベイシー亡き後も、ベイシーサウンドを引き継ぐ後継者のお蔭で・・・・

2015-10-28 | MY FAVORITE ALBUM
Long Live The Chief / Count Basie Orchestra

カウントベイシーが亡くなったのは1984年。あのベイシーサウンドも終わりかと思ったが、そのバンドを引き継いだのはサドジョーンズであった。翌85年11月にはそのサドジョーンズ率いるベイシーオーケストラが来日し、変わらぬベイシーサウンドがファンを一安心させた。
というのも、最後はベイシーと意見が合わず長年在籍したベイシーオーケストラを辞めて、自らサドメルを立ち上げたサドジョーンズだったので、古巣のベイシーオーケストラに戻って果たしてどうするかというのが、当時のファンの期待半分、不安半分であった。

その頃元気であった日本のレコード会社は早速新生カウントベイシーオーケストラの録音をしようと交渉に入った。基本OKが出たが、問題はリーダーのサドジョーンズであった。病に倒れ、復帰の目途が立たなく、止む無く同じベイシーオーケストラのOBであるフランクフォスターにリーダーが代わった時には、すでに1986年も半分が過ぎていた。
ベイシーの誕生日の8月21日にはアルバムを出したいと思っていたスタッフにとってはぎりぎりのタイミングの6月、めでたく新リーダー、フランクフォスターの元で制作されたのがこのアルバムである。

ベイシーが健在であった時の最後のドラマーを務め、サドジョーンズとも一緒に来日し、このアルバムにも参加しているのがデニスマクレルである。後にベイシーオーケストラのリーダーを務めたこともあり、ベイシーオーケストラとは関係が深いマクレルだ。

そのマクレルが今、来日中で、モンティーアレキサンダーのトリオの一員として全国を回っている。このマクレルは、自分にとってもベイシーとの関わりが強い印象を受けるが、スインギーで小気味よいドラミングはビッグバンドだけでなく、このモンティーのようなピアノトリオにも良く似合う。

マクレルがニューヨークに出てきて、ブロードウェイでプロとして活動を始めた時、彼の才能に真っ先に目を付けたのは歌手のジョーウィリアムスだったという。ジョーウィリアムというとカウントベイシーとの繋がりが強いが、ベイシーオーケストラにマクレルを紹介したのがこのウィリアムスだった。

御大にも気に入られ晴れてベイシーオーケストラのドラムの席に座ったのが1983年、まだマクレルが21歳の時だった。伝統あるベイシーオーケストラのベテラン揃いのメンバーの中で、ドラマーの最年少記録を更新した。あの若いと思われたブッチマイルスも30歳を過ぎてからの加入だった。
そのままベイシー自ら率いるオーケストラ最後のドラマーを務め、ベイシー亡き後も引き続き在籍したのでベイシーオーケストラの印象が強くなるのもやむを得ない。

何の世界でも、あまり目立たないが実力はNo.1というプレーヤーは必ずいるものだ。このマクレルもその一人かも知れない。ベイシーオーケストラばかりがマクレルの活動歴ではない。

1990年メルルイスオーケストラがリーダーのメルルイスを失った時、その穴をすぐに埋めたのがこのマクレルであった。残されたメンバー達でその年の9月に録音されたメルルイスへのトリビュートアルバムにも参加している。バンガードジャズオーケストラの誕生を支えた一人ということになる。

かと思うと、マリアシュナイダーのデビュー作である”Evanescence”、や、ドンセベスキーの意欲作I Remember Billのドラムもマクレルであった。他にも余り意識はしていなかったが、自分の紹介したアルバムの中でもマクレルが参加しているアルバムは多い。決して、ビッグバンドだけなく、コンボでのスインギーなドラムも素晴らしい。

今更ながら、マクレルが、ビッグバンドでもコンボでも何でもこなすオールラウンドプレーヤーの実力者ということにびっくりする。それを感じさせないのが、また素晴らしい。
オールラウンドぶりを証明するように、彼のドラムのセットはビッグバンドとコンボ用がそれぞれアコースティック編成とエレキ(フュージョン)用の4セットあるようだ。

このマクレルの今回の来日はモンティーのピアノトリオの一員であったが、東京で一日ベイシーサウンドを聴かせてくれる機会があった。橋本龍吾率いるベイシーナンバーばかりをレパートリーとするその名もベイシーサウンドオーケストラにゲスト出演して、懐かしのベイシーサウンドのドラミングを久々に披露してくれた。



1setでは橋本がドラムに座り、マクレルは指揮を。本家ベイシーオーケストラでもリーダーとして指揮をしたので手慣れたもの、オーケストラ全体のサウンドも一段と切れが良くなる。
セカンドセットなるとマクレルが今度はドラムの席に座る。セッティングを多少変えるが、ドラムは橋本のものをそのまま使用する。

いよいよ演奏が始まるが、小気味よいシンバルワークがギターとよくマッチする。昔演奏し慣れた曲に譜面は要らない。ベイシーサウンド特有のメリハリの効いたアンサンブルにドラムがビシバシ決まる。小さい音は限りなく小さく、そして大きな音は限りなく大きく、歯切れよさに加えてダイナミックレンジが実に広いドラミングだ。橋本のドラムも普段素晴らしいと思って聴いていたが、こうやって続けて比較すると違いが分かる。

久々にこのアルバムを、マクレルを意識して聴き返してみた。この時から若さを感じさせない堂々としてドラミングだ。ところが、今回のライブで受けた強烈な印象はアルバムからは感じない。可もなく不可もないプレーぶりだ。ベイシーオーケストラのドラムというと、ソニーペイン、ハロルドジョーンズ、ブッチマイルスと名手が続いた。彼等の切れ味を感じない。若さゆえ、この当時はまだその域に達していなかったのかもしれない。

そして、お馴染みのベイシーナンバーに混じってマクレルのオリジナル曲Bus Dustも含まれていた。曲もアレンジもベイシーにピッタリなジャンプナンバーだ。ドラマーで作編曲をするというのも珍しいが、ドラミングだけでなくこの当時から作編曲の才能も片鱗を見せていたことになる。

先日のライブには、自分のような年代のベイシーファンに加えて若い学バンのメンバーも多く駆けつけていた。
終わった後の挨拶で、「自分はベイシーオーケストラの伝統を引き継いでここまでやってきた。鬚にも白いものが混じるようになったが、今日一緒に演奏したメンバー達にベイシーサウンドが立派に引き継がれていたのを嬉しく思う。そして、会場に来てくれた若い皆さんも、今度来た時には是非素晴らしいベイシーサウンドを聴かせて欲しいと。」

考えてみれば、マクレルは彼らと同じ位の歳で、すでに本家ベイシーオーケストラで叩いていたことになる。代が替わっても、このような伝道者が居る限りベイシーサウンドは不滅だろう。

色々な経緯を経て生まれたこのアルバムだが、予定通り1986年8月21日ベイシーの誕生日に発売された。そして、このアルバムに参加できなかったサドジョーンズは前日の8月20日に息を引き取る。これも何かの因果かも知れない。

1.  You Got It                      Frank Foster 5:37
2.  April in Paris            Vernon Duke / E.Y. "Yip" Harburg 3:38
3.  Misunderstood Blues                 Frank Foster 7:14
4.  Autumn Leaves   Joseph Kosma / Johnny Mercer / Jacques Prévert 5:28
5.  A Foggy Day              George Gershwin / Ira Gershwin 1:44
6.  Good Time Blues                     Ernie Wilkins 4:29
7.  Hey! I See You over There                D. Wilkins 3:45
8.  Lil' Darlin'                       Neal Hefti 4:59
9.  Bus Dust               Dennis Mackrel / D. Mackrell 4:41
10.  Corner Pocket              Freddie Green / Donald Wolf 5:42
11.  Dr. Feelgood             Aretha Franklin / Teddy White 4:40
12.  Four Five Six                     Frank Foster 6:53
13.  Shiny Stockings                    Frank Foster 4:58

Frank Foster (leader,ts)
Sonny Cohn (tp)
Melton Mustafa (flh,tp)
Bob Ojeda (tp)
Byron Stripling (tp)
Dennis Wilson (tb)
Mel Wanzo (tb)
Clarence Banks (tb)
Bill Hughes (btb)
Danny House (as)
Danny Turner (as)
Eric Dixon (ts,fl)
Kenny Hing (ts)
John Williams (bs)
Tee Carson (p)
Freddie Green (g)
Lynn Seaton (b,vocal)
Dennis Mackrel (ds)
Carmen Bradford (vocals)

Produced by Tom Ueno & Takahiro Watanabe
Engineer ; Malcolm Pollack

Recorded at Power Station, N.Y on June 3 & 4 1986

Long Live the Chief
クリエーター情報なし
Denon Records
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