「ママ、それ違うよ」、娘が家人の言葉を直すことが週に一度の割合である。違うとは、誤りのことではなく、イントネーションが茨城弁風でカッコ悪いという意味だ。いうまでもなく、茨城弁は立派な日本語であり、我が家のルーツも茨城であるのだが、娘の言うように、お世辞にもスマートとは言えない方言である。 家人は大阪(現在の東大阪市)で生まれ、そこで8歳まで育ち、茨城に転居し、17年間を過ごしているから、茨城弁に染まってしまったのは当然かもしれぬが、おもしろいのは、自分が関西弁を喋っていたことを思い出せないということだ。 フランスで生まれ、8年間育った日本の少女が、帰国したら、フランス語がゼロということは、まずないと思うのだが、家人がそう言うのだから、仕方ない。それでも、茨城に転居したときは言語ショックがあっただろうとと訊くと、それは多少あったと言う。 私は3歳からの6年間を兵庫県に住んで茨城へ移住したが、言葉の差には驚いた。「ああ、しんど」が「おお、こわい」になり、「かまへん、かまへん」が「ま、しゃあんめぇ」になったのだから、まさに異国に来た感じがあった。家人の鈍感力については前に書いたので省略するが、それにしても、8年間過ごした土地の言葉を忘れてしまうというのはスゴイと思う。 3月29日は家人の誕生日、娘も休日なので、せめて鎌倉プリンスホテルの和風レストランへと思うのだが、腰痛という名の悪魔が通せんぼをする。ま、小田急デパートの地階の鮨(その辺の出前より旨い)でもつまみながら、茨城の昔話でもするしか、あんめぇ。