バスが好きという女性を何人か知っている。 年に6,7回バス旅行を楽しんでいる家人もその一人だ。 旅行の場合は、電車と違って目的地に横づけになるからラクだということもあるだろうが、そういうこととは別に、バスという乗り物そのものが好きと言う老若女性が多い気がする。 その理由の第一は、観光バスに限って言えば、車内にある種のサロン的な雰囲気が漂うからだと思う。 知らぬ同士が気軽に話し合えるような空気があるからだと思う。 それは、決して電車や飛行機にはないものであり、間違いなく女性好みの時間であるはずだ。 17歳から25歳まで、世田谷の若林という街に住んでいて、学生時代には時々、隣家の1ツ年下のA子と渋谷へ映画を観に行くことがあった。渋谷に行く方法は2ツあって、1ツは玉電であり、もう1ツがバスだった。前者は二人とも、通学定期券を持っているからタダであるが、後者は15円の切符を買わねばならぬ。しかも、電車の駅は歩いて5分なのに、バス(始発)停は15分かかり、それも坂道だった。それでも私がバスで行こうかと訊くと、A子は大賛成という顔で頷いた。 つまり、坂道を登ってバス停まで歩き、二人掛けのシートに座って車に揺られることが、幼きデートの大切な時間だった。 コロンビア・ローズさんが唄った『東京のバスガール』という歌がった。あの頃の路線バスにはすべてバスガール(俗に謂う、切符切り)が乗っていた。歌詞にある「若い希望も夢もある」という感じの少女には滅多に会えず、どこか素朴で親切そうな少女が多かった。 それでも、発車オーライ、明るく明るく生きるのよ~という感じはあった。