花はおそかった

2024-04-22 10:25:59 | 青春歌謡
美樹克彦


(台詞)こんな悲しい窓の中を雲は知らないんだ
    どんなに空が晴れたって それが何になるんだ
    大嫌いだ 白い雲なんて!

かおるちゃん おそくなって ごめんね
かおるちゃん おそくなって ごめんね
花をさがしていたんだよ
君が好きだった クロッカスの花を
僕はさがしていたんだよ
かおるちゃん おそくなって ごめんね
かおるちゃん おそくなって ごめんね
君の好きな 花は 花は 花はおそかった

かおるちゃん 君の白い その手に
かおるちゃん 君の白い その手に
花を抱かせて あげようね
君と夢にみた クロッカスの想い出
花を抱かせて あげようね
かおるちゃん おそくなって ごめんね
かおるちゃん おそくなって ごめんね
君の好きな 花は 花は 花はおそかった
 
 (台詞)信じるもんか! 君がもういないなんて……
     僕の命を返してくれ 返してくれよ!
 
君の好きな 花は 花は 花はおそかった
 バカヤロー





亡くなった恋人の名を幾度も呼んで花をささげる、設定は橋幸夫「江梨子」に似ています。

ところで、、「江梨子」が恋人の墓に捧げたのは野菊でした。

野菊は野生の花、一方、クロッカスは園芸品種、主人公(語り手)は花屋をさがしまわったのでしょう。

その分、「花はおそかった」は都会的な印象がし、「こんな悲しい窓の中」も清潔な病院の病室を連想させます。(笑)
 
そしてまた、設定は「江梨子」に似て、「江梨子」以上に劇的です。

恋人の死の直後、彼女を歓ばせようと花をさがしていたがためにその臨終にわずかに遅れてしまった場面です。

その意味で、この劇的設定に匹敵するのは、死の報に接して恋人の死の床に急ぐ舟木一夫「雪国へ」でしょうか。

「雪国へ」も、その末尾で、「好きだった花をささげよう」と歌っていました。

どちらも悲劇ですが、「雪国へ」は遅れて「現場」へ急ぐもどかしい心理的サスペンス、一方「花はおそかった」は悲劇の「現場」に遅れて到着した主人公の嘆き。
 
『伊勢物語』第六段なら、「足ずりをして嘆けどかひなし」と語るところです。

久しく恋いわたった深窓の姫君をとうとう連れ出して逃げたこの主人公、夜の雷雨に遭遇して姫君を野中の無人のあばら家に隠し、自分は追手を警戒して

外で見張っていたところ、なんと鬼が出現して姫君を一口に食ってしまいます。

姫の叫びも雷鳴の轟きで男の耳には届きません。朝になって小屋に入ってみればもう手遅れ。

彼もまた、悲劇の主人公でありながら、恋人のためを思う行為によってかえって恋人の死の「現場」に遅れてしまったのでした。

男は最後に歌を詠みます。

白玉か何ぞと人の問ひしとき露と答へて消えなましものを(夜の闇の底にいくつも白玉みたいに光るあれは何?、と姫君が尋ねた時、「夜露が光っているのですよ」

と答えて、露のように二人一緒に消えてしまったなら、ひとり取り残されてこんな嘆きをせずにすんだものを)もう取り返しがつかない、という嘆きを凝縮した

歌です。

(ちなみに、戦時中の坂口安吾に、『伊勢物語』のこの説話に言及した「文学のふるさと」という名エッセイがあります。)
 
ロック歌謡ともいうべきスタイルで登場した美樹克彦は、ステージ上での身体パフォーマンスを最初に解放した青春歌手でした。

デビュー曲「俺の涙は俺がふく」では指を鳴らし、「回転禁止の青春さ」では激しく踊ってみせました。

「花はおそかった」はその美樹克彦が初めて歌ったバラード調。身体表現は抑制されます。

しかし、その代わりを台詞が務めているのだ、といえるでしょう。

つまり、身体表現としてのパフォーマンスの代わりに、台詞というパフォーマンスがあるのです。

とりわけ、抑制に抑制をつづけた感情を一気に爆発させる最後の絶叫、「バカヤロー」は印象的でした。
 
美樹克彦はこの曲で年末の紅白歌合戦に出場します。

そして、これ以後、「手紙」(昭42-9)「海は青かった」(昭43-11)と情感をこめたバラード調が続くことになります。













































































































































































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