暇つぶし日記

思いつくままに記してみよう

ドレンテ州を歩く 8  スコティッシュ・ハイランド種の牛

2009年11月07日 21時26分31秒 | 日常


オランダは酪農の国として世界に知られ、乳牛は大抵、日本でも主流の白黒縞のホルスタイン種だ。 といってもここではホルスタインとは呼ばず、フリース・クー(Fries Koe)と言っている。 それはホルスタインの原種はオランダ北部フリースランド州のものだからだ。 郊外に広がる見渡す限りの牧草地には白黒縞が遠くから見ると緑の中にごま塩模様のように点々と見えるのだが、一方、茶色の牛は白黒の牛に見慣れた目には時には珍しく見える。 大抵、黒や茶色のものは肉牛なのだから比較的雑草が茂った土地や、牧草地でも小さな土地で飼われているのが時々見かけらる。 それに、肉の旨さからこの10年ほど、日本の和牛も高級食肉用として飼育されていて、そういう農場は高級レストラン、精肉店チェーンと契約して飼育しているようだし、大量生産の乳牛と違い付加価値生産ということから和牛生産農家がネットで品質と自家製品の宣伝をする、ということも多く見られるようだ。

一方、国土の緑地化、自然公園化も進んでおり、生態系を保護するためにも同じような風土で育つからからなのか、荒れ野で育つスコティッシュ・ハイランド種の牛を放牧しているところが多い。 家の近くの自然公園にも、ある部分には柵がしてあり時には危険を伴うから注意、というような札がかかっていたりするのだが、それは都市部のこと、広大なドレンテ州の荒れ野では柵も何もなく動植物が管理局の監督の下、見るからに野生を思わせるこの牛をここの自然に適したものとして放し飼いにしている。 

この牛は普通の乳牛と比べても性格がおとなしいようだ。 乳牛を放ってある牧草地を横切ることがあって、時には必要上、乳牛が集まったところを抜けていくこともあるのだがゆっくり歩いていくと何頭も固まっていてもこちらが歩いていくと両側に退いて道を明けてくれ、大概は問題はないのだが、それでも油断はできず中には好奇心が強いか意地が悪いものもいて、こちらにのっそりと歩み寄ってくることがある。 親指と人差し指で作ったマルよりも大きいような相手の目を見ながら互いに測りあい、通り抜けるなり立ち止まって数秒見合ったり、こちらが避けるということをするのだが、時には何を思ったのか相手が早足でこちらに寄ってくることもある。 そんな時は逃げずに適当な距離から両手を広げて大声で叫ぶと大抵は止まる。 それでそのあと、どこかに行くかその辺で草を食むかするのだが、たまには止まらないそうでそういうときには逃げるしかないそうだ。 逃げてどうなったかというようなことはまだ聞いたことがない。 幸いには私にはそういう経験がないけれど追いかけられることに興味がないこともない。 

8月にイギリスの湖水地方を歩いたときにもたくさんそういう牧草地を歩いたのだが、そこには肉牛、乳牛がいろいろといて、時には肉牛の種付け牛、雄牛が放たれているところもある。 そういうところは我々には「危険地帯」であるからイギリスの風景で特徴的な、イギリスの万里の長城とも見えなくもない石垣の中には入らないで外から、あいつすごいな、動物として尊敬するぞ、と言って眺めるだけだった。 けれど、ある日、その日の夜、宿舎でこのルートを何日か付かず離れず歩いている自然と知り合いになった何人かの夫婦のグループの一つが午後4時ごろ、もうかなり疲れていて遠く向こうにこの村が見えてきており、地図のルートにある牧草地の石垣を乗り越えるポイントに来て見ればどういうわけかそこに雄の種牛がいて、動く気配もない。 そこを抜けなければ何キロも迂回しなければならず、彼らなりにいろいろやってみてもだめで結局、疲労困憊の体で牛に負けてコテージにたどり着いたんだわ、と他のグループも交えた夕食の卓で笑いあったのだった。 我々がそこを通ったときには何も見えなかったのに彼らが通過しようとしたときには丘の向こうから現れたのだろうか。 運、不運というものはあるようだ。

けれど、ここはオランダの自然公園で、こういう場所は子供から年寄りまでが歩くのだから荒くれ牛を放牧するはずもなく、先ほどは遠くに白い毛をもじゃもじゃにした同種の大きな雄牛とおぼしきものがみえたのだが、今、目の前のものは柔らかな茶色の、ミルクキャラメルのような毛を持った、まだ比較的若そうで小柄な牛が水辺に足を入れて静かに立っている。