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いつでも君のこと好きだったよ

谷とも子 第一歌集『やはらかい水』

2017-09-25 22:28:36 | 日記

 谷とも子さんとは神楽岡歌会で毎月ご一緒していて、参加し始めたのもほぼ同時期だったように記憶しています。

 

 わくわくしながら読み始めました。すると、毎月一首ずつ読んできた谷さんの歌が、別の顔をしてそこにある。そして私が知らなかった歌も当然たくさんあったのでした。谷さんの明るくて、パワフルで、どんどん前へ進んでいくイメージと、ナイーヴな側面があって、自然との一体感がありながら、感じ取っているのは大らかさというより、繊細さ。

 

 ・近づけば近づくほどにさみしさを増やしてしまふ苔の花さく

 ・爪やすりひと方向にすべらせて触つたものを粉にしてゆく

 ・ふくらはぎ揉みつつ思ふ立ち枯れてゆく間のながい痛みのことを

 ・なんだらうこのしづけさはと思ふときほたるぶくろの花のうちがは

 ・沢の面のひかりをうすく削ぐやうにカワトンボゆく前へ前へと

 

 とてもささやかなものや、弱いものに気持ちと視線が注がれる。苔の花、爪やすり、ふくらはぎ、ほたるぶくろ、カワトンボ。それぞれにささやかなものが、谷さんの歌のなかでは存在感があって、そこへ集中していく過程でさみしさが増えたり、粉になったり。自分のふくらはぎを揉むときに立ち枯れてゆく(木でしょうか)ものの長い痛みに思いを馳せるのは、普段からの心寄せがあるからなのでしょう。

 

 花の内側だったり、うすく削いだり、に視線が向くのは、「独り」でいるから。実際には誰かといっしょだったとしても、対象と向き合っているときはいつも「独り」のはずだ、ということに気づかせてくれます。

 

 ・突風にゆがんでしまつた傘を捨てどうなつてもいい傘を買ひたり

 ・深すぎる帽子に狭い視野だけどそのうち慣れて下をよく見る

 

 こういう、開き直りというか、思い切りのいい歌も面白い。こういうどうなってもいい傘に限ってなかなか壊れずなくさず、いつまでもそばにあったりするものだし、深すぎる帽子も慣れれば結構世界観がかわっていいじゃない、と思えてきたりします。「帽子に狭い視野だけど」の繋ぎ方がとてもよくて、下句の「そのうち慣れて下をよく見る」って、拍子抜けするような展開にヤラレタ感が漂います。

 

 ・陽のあたるほうもやつぱり冷たくて電柱はずつとそこに立つ影

 

 陽のあたるほうはあったかいだろう、と思うのだけど、ちゃんとさわってみて冷たい、ってことに気づく。ほんとうにさわったんだろうな、という信頼のようなものが歌集を読んでいくうちに生まれてきて、私も冷たさに触れた気がします。

 

 私がいちばん好きな歌は

 

 ・次の世は苔になりたい湧きながら流れやまない水に洗はれ

 

 いいなぁ。谷さんといっしょに山を歩いてみたくなります。

コメント
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