鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

吉野桜図鐔 加賀

2010-03-15 | 
吉野桜図鐔・小柄 加賀

 
① 吉野桜図鐔 無銘加賀後藤


② 吉野桜図小柄 無銘加賀後藤

 秋草の図ではずいぶんと季節感に温度差が出てきたので、春を題材に桜図の装剣小道具を紹介する。まずは、加賀後藤(かがごとう)の手になる爛漫の吉野の桜樹図鐔、同じく加賀後藤の桜樹に鳥居を描き添えて春の吉野を表現した小柄。
 Photo①の鐔は秋草の解説中で紹介している。吉野桜は古くから知られており、幾重にも折り重なるようにして花を咲かせる桜樹の、その連なる様が美しく、この鐔でも写実を超越して文様化が追求されている。鐔の中心を軸とする円周方向に魚子を打ち施して空間の広がりを感覚的なものとし、桜樹に包まれて眩暈を起こしたような、非現実の空間に立っているような錯覚を楽しんだ構成。金は蕾部分に施しているだけだが豪奢で贅沢感に満ち溢れている。漆黒の赤銅地の魅力は、金との対比によって明確となる。後藤家の作品に見られる伝統的な美意観がその代表であり、赤銅を魚子地とし、ここに鏨を効かせた図柄を高彫とし、金色絵を施すを通常とする。赤銅魚子地に施された銀の魅力も、作品によっては金さえも足元に及ばない場合があろう。ここでは、銀の花に散し配された金の蕾が活きている。
 Photo②の小柄は金魚子地で、柔らかな春の陽を受けて輝く下草と大地の様子が明るく表現されており、これを背景にして密集した花が、たなびく雲のように描き表わされている。これも文様表現だが、鳥居を添えて単調になりがちな画面に強い印象を与えている。花の連なりが屏風絵の雲に似ているのは、もちろん屏風絵を意識しての構成。盛り上がるように、画面から溢れ出るように桜花が表現され、この量感こそ贅沢の極みに感じられよう。
 作品表面が綺麗に揃った微細な点の連続であるため、モニターによってはモアレが生じて
見難い場合があります。ご容赦下さい。


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