鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

桜花文図鐔 光忠

2010-03-30 | 
桜花文図鐔 光忠

 
桜花文図鐔 無銘 光忠

 かつて紹介したこともあるが、資料的な価値が高いので再度提示する。江戸時代の金工芸術の基礎になったとも考えられる、桃山時代の京都金工、埋忠派の一人、光忠(みつただ)の作と鑑られる桜花文図鐔である。装剣金工における芸術性の開花は、実はこの時代と考えられている。古い例では唐草文や霊鳥や霊獣図を装飾としたものが多くみられ、室町時代の装剣小道具における文様は、このような古様式の流れを受けたものであり、強い創造性や芸術性はない。この鐔も素見しただけでは古様式の流れの中での作とも見られるが、天地左右に切り込みを設けた特異な造り込み、耳際を厚く打ち返し状に仕立てた微妙に抑揚のある平面、殊に桜花を金と銀の繊細な線描としている装飾性の高い文様など、明らかに新時代の到来を感じさせるものがある。その背景には、京都に育まれた織物文化があると筆者は考えている。埋忠派とは埋忠明壽に代表される、桃山時代の金工の流派で、活躍は琳派の美意識の興隆期に当り、後藤やいわゆる古金工、古美濃などの作風とは全く異なる世界観、創造性を抱いていたと考えられる。それが故に埋忠明壽は、刀造りにおいても時代の上がる古様式を捨て去って新しい技術の模索をしている。
 さてこの鐔は、先に述べたように、真鍮地を薄手に、耳際を厚く仕立て、造形は天地左右に切り込みを設けた木瓜形(木瓜形は太刀鐔の一様式だが、ここでは天地左右に切り込みを設けることによって刀を床などに置いた際に転げないよう考慮している。丸い鐔では容易に転げてしまい、咄嗟の場合に探り取れないということにもなりかねない。それ故に、実用鐔としては全く転げない角鐔が重宝されているのである)。真鍮地の表面には黒漆が塗られて自然味のある叢が生じ、これを分けるように金の桜が浮かび上がり、その背後の銀の桜が潜んでいる。素朴な風合いで、手捻りの茶器のような美しさがある。


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