鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

花桐九曜紋桜花散図鐔 西垣

2009-10-13 | 



 



 埋忠派の作風とは趣が異なるも、同様に真鍮地の渋い色調を作品の要とした肥後金工(ひごきんこう)の作品を紹介する。作者は江戸時代前期の西垣勘四郎(にしがきかんしろう)である。勘四郎が鏨で表わした茶に通じる作品には、侘びや寂びのみならず華があることに気付く。この鐔がその典型で、渋い色合いの真鍮地を土手耳仕立ての竪丸形に造り込み、唐草文を平滑な薄肉に彫り表わし、これを背景に動きのある花桐文を主に桜花紋と九曜紋(くようもん)を薄肉に浮かび上がらせている。土手耳の表面には、切り込んだ鏨の痕跡を活かした唐草文と桜花文を毛彫で廻らせ、鐔全体に黒漆(うるし)を擦り込んで古調な風合いを高めている。時を経て滑らかになった地面、ごく浅く彫り込んだ地に施された漆、耳の毛彫の線刻など、いずれも指先を心地よく刺激する要素である。
 これも古典的な文様を近世の美意識に変質させた一例。肥後金工の美意識の背景には千利休に学んだ細川三斎の茶がある。茶を通した肥後金工の芸術は、たとえ肥後という地方において発展したとは言え京の文化を色濃く残しており、さらに、他の誰もが真似をできなかった三斎独自の世界が展開されているのである。


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