鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

鉢の木透図鐔 西垣勘平 Kanpei Tsuba

2011-01-12 | 
鉢の木透図鐔 西垣勘平


鉢の木透図鐔 無銘 西垣勘平

 松、桜、梅の組み合わせは菅原図であるとして紹介したことを記憶しておられると思う。この三要素に雪が加わると、物語は全く別のものとなる。
 鎌倉時代、執権職にあった北条時頼は、僧の風体で諸国を行脚し、隠密裏に人々の生活や武家の有りようを視察してまわったという。そのような中で、下野国佐野源左衛門の領地を訪れたときのことである。季節は真冬。源左衛門は領地を横領されて貧しい生活をしていたが、雪に降り込められた僧を哀れに思ったのであろう、冷え切った屋敷に招き入れた。だが暖かい食べ物もないことから、源左衛門は自らが大切にしていた鉢植えの松、桜、梅の古木を薪として暖をとり、見ず知らずの僧をもてなしたという。その後、鎌倉に戻った時頼が諸国に触れを出し、武士を鎌倉に集めた際、一番乗りで駆けつけたのが、貧弱な鎧を身にしてはいたが源左衛門であった。武士たるものこのようにあるべきと、これに感じ、横領されていた土地を取り戻させ、松、桜、梅に擬え、上野の松井田、越中の桜井、加賀の梅田の領地を加増したという。このように、松、桜、梅に雪、あるいは鉢植えの木を切る鉈という要素を加えて「鉢の木」と呼んでいる。
 この鐔は、肥後西垣派の勘平の作。鉄地を巧みに構成し、毛彫と金布目象嵌を加えている。櫃穴の構成が雪輪ではないが雪である。