遊行柳図鐔 三題
この辺りから奥州路。
「歌枕」でしか知らぬ、まだ見ぬ憧れの異国を前にする西行。
「道の辺に清水流るる柳陰 しばしとてこそ立ちどまりつれ」
柳の陰にうたた寝をしている図が多い 長義
しばしの休憩から腰を上げて・・・
正光
奥州への想いをふかめているのであろうか 宜時
西行と思われる僧が佇むこの場面はどこであろうか。奥州のいずれか・・・小柄と同じ宜時の作。
遊行柳図鐔 三題
この辺りから奥州路。
「歌枕」でしか知らぬ、まだ見ぬ憧れの異国を前にする西行。
「道の辺に清水流るる柳陰 しばしとてこそ立ちどまりつれ」
柳の陰にうたた寝をしている図が多い 長義
しばしの休憩から腰を上げて・・・
正光
奥州への想いをふかめているのであろうか 宜時
西行と思われる僧が佇むこの場面はどこであろうか。奥州のいずれか・・・小柄と同じ宜時の作。
富士見西行図縁頭 二題
歌枕を訪ねての旅の途中、雄大な富岳を前にする西行の一首。自らの行く末を想って詠んだもの。
「風になびく富士の煙の空に消えて ゆくへもしらぬわが思ひかな」
富士見西行は、装剣小道具では好まれて描かれた。
この後に奥州へと足を運んだのであ
吉野桜図鐔 加賀
吉野に暮らした西行は桜の和歌をたくさん遺している
「吉野山人に心を付けがほに 花より先にかかる白雲」
「空はただ雲なりけりな吉野山 花もて渡る風と見たれば」
「山人よ吉野の奥にしるべせよ 花も尋ねんまた思ひあり」
「何となく春になりぬと聞く日より 心にかかるみ吉野の山」
「深く入るは月ゆゑとしもなきものを 憂き世忍ばんみ吉野の山」
「吉野山花の散りにし木の本に とめし心はわれを待つらん」
「吉野山高嶺の桜咲きそめば 懸からんものか花の薄雲」
「人はみな吉野の山へいりぬめり 都の花にわれはとまらん」
柳竹に鶯図小柄 堀江興成
藤原定家自選歌集『拾遺愚草』に取材。
花鳥十二ヶ月図揃い小柄より一月
花 「うちなびき春くるかぜの色なれや 日をへてそむる青柳のいと」
鳥 「春きてはいく夜も過ぎぬ朝といでに 鶯なきゐる里のむらたけ」
筒井筒図縁頭 夏雄
恋物語である『伊勢物語』に取材した一首。幼馴染の恋歌だが・・・
男 「筒井筒井筒にかけしまろがたけ 過ぎにけらしな妹見ざるまに]
女 「比べ来し振り分け髪も肩過ぎぬ 君ならずして誰か上ぐべき」
金工作品としては余りにも有名であることから、敢えて説明しないでおこう。
桜に雉図小柄 堀江興成
藤原定家自選歌集『拾遺愚草』に取材。二
花鳥十二ヶ月図揃い小柄より二月
花 「かざしをる道行く人のたもとまで 桜に匂うきさらぎの空」
鳥 「かり人のかすみにたどる春の日を つまどふ雉のこゑにたるらん」
藤壺に雲雀図小柄 堀江興成
藤原定家自選歌集『拾遺愚草』に取材。
花鳥十二ヶ月図揃い小柄より三月
花 「ゆく春のかたみとやさく藤の花 そをだに後の色のゆかりに」
鳥 「すみれさくひばりの床にやどかりて 野をなつかしみくらす春かな」
三夕図小柄
『新古今和歌集』に取材した、夕暮れ時を描いた小柄。
寂蓮「さびしさは其の色としもなかりけり まき立つ山の秋の夕暮」
西行「心なき身にもあはれはしられけり 鴫立つ沢の秋の夕暮」
藤原定家「み渡せば花ももみぢもなかりけり 浦の苫屋の秋の夕ぐれ」
江ノ島図縁頭
江戸時代には観光地として隆盛した江ノ島。古くは鴨長明も詠んでいる。
「浦近き砥上ヶ原に駒止めて 固瀬の川の潮干をぞ待」『鴨長明集』
今はビルが建ち並んで見えないが、龍口寺門前の砂丘辺りから眺めた江ノ島。
柿本人麻呂図目貫
「ほのぼのとあかしの浦の朝霧に 島がくれゆく舟をしぞ思ふ」
柿本人麻呂作と伝える和歌の一つで、装剣小道具では好んで採られた画題。絵画にも採られて有名。多くが人麻呂像と明石の海原を対比の構成とする。
武蔵野図鐔 三題
『続古今和歌集』に、源通方の「武蔵野は月の入るべき峯もなし 尾花が末にかかる白雲」がある。これを本歌とりに、江戸時代につくられたのが「武蔵野は月の入るべき山もなし 草より出でて草にこそ入れ」
すすき野に沈む月を描いた作品が間々みられ、この図が大いに好まれたことが判る。古くからの東国の印象を、江戸時代においてもこのように表現していたのは面白い。
起伏のないススキ原といった景色を想定しているようだ。朧銀地に銀の平象嵌で三日月を描き、ススキは片切彫。図の下端に月を描いている。
亀眼の鐔は鉄地高彫、満月を同様に下方に描いている。
友直の鐔はススキのみの描写のようだが、鐔の外形が満月。耳に金覆輪を施して月の印象を高めている。
富士見業平図鐔
『伊勢物語』の東下りから。
富岳を越えると異国。富士を眺める貴人(業平)の都への想い。
「時しらぬ山は富士のねいつとてか 鹿の子まだらに雪のふるらん」
『伊勢物語』は悲恋物語。壊れたハートを癒すために出た東国への旅だが、業平は都への想いをいっそう深めている。
この図もあまりにも有名であり、幾つかの作品を見ている。
蔦の細道図鐔 鵜飼清好
『伊勢物語』より。
「駿河なる宇津の山辺の現にも 夢にも人に逢はぬなりけり」
東国へと向かう在原業平が、宇津ノ谷峠(蔦の細道)を越える際に詠んだ歌。
蔦藪の茂る寂しい道を東国へと向かう。京への思いを深める作者だが、後の武士がなぜこの図を装剣小道具に採ったのだろう。
人物が描かれていない留守模様とされているのが気持ちいい。
八橋図鐔 京透
「唐衣着つつなれにしつましあれば はるばる来ぬる旅をしぞ思ふ」
『伊勢物語』より、在原業平が詠んだとされる和歌。この「かきつばた」を詠み込んだ、あまりにも有名な図。様々な文様にも表現されている。
ここでは写実味のある彫口の小柄と、簡潔な文様表現とされた京透の鐔を紹介する。
文様表現ながら八ッ橋が描かれている。
赤銅魚子地高彫金銀色絵の技法で写実味のある表現。
ただし八ッ橋は描かれていない。
芥川図目貫
むかし男ありけり・・・と始まる『伊勢物語』。在原業平が昔を思い出して歌に詠んだものであろうか。喪失感の漂う一首である。
「白玉か何ぞと人の問ひし時 露と答へて消えなましものを」
目貫の図は、男が女を奪って逃げる場面。後に捕らえられてしまうのだが・・・なぜこの図を装剣小道具の図に採ったのであろうか、こちらの方も興味深い。