goo blog サービス終了のお知らせ 

鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

鴨川畔図鐔 細野政守 Masamori Tsuba

2013-03-12 | 
鴨川畔図鐔 細野政守


鴨川畔図鐔 銘 細野惣左衛門政守(花押)

 鴨川の河原において繰り広げられた遊興の場。川辺に設けられた台座で涼む人々、物売りがあり、食べ物を商っているのであろう団扇で火加減を調整している様子、矢場があり、橋の上からそれらを眺めている人々がいる。裏面には万歳らしきを演じている者、煙管を使う者、早く料理を持って来いと催促する者などなどが描かれている。申し訳ない、裏の写真を紛失してしまって紹介できない。このような時代の一場面を記録している、まさにスナップ写真のような魅力、面白さを再確認してほしい。

農村風景図鐔 細野政守 Masamori Tsuba

2013-03-08 | 
農村風景図鐔 細野政守


農村風景図鐔 銘 細野惣左衛門政守(花押)

 遠くに寺院の塔が見える農村を描いた鐔。京都近辺に取材したものであろう、表は種まき、裏は収穫の頃の風景だ。細野政守はこのような市井の風景をパノラマ風に表現するを得意とした。描かれている人物をそれぞれ追ってみると、小さく描かれていることと毛彫表現である点で表情までは分からないが、仕草や動きが一様でなく頗る面白い。四分一地毛彫金銀素銅平象嵌。

木賊刈図鐔 玄松斎政春 Masaharu Tsuba

2013-02-23 | 
木賊刈図鐔 玄松斎政春


木賊刈図鐔 銘 玄松斎政春

 この政春は水戸金工玉川派の工。石黒家に学んでおり、作風は精密な高彫。古典に題を求め、水戸金工らしい正確な構成としている。謡曲にも採られている木賊刈は、遠い昔に幼いわが子を誘拐された父親が、月を眺めながら我が子を思うというあらすじ。ここでも月は揺るがない存在。素銅地が漂わせる空気感もいい。叢な石目地に処理し、微妙に色合いを違えた金銀朧銀赤銅などの色金を巧みに構成している。素朴な風合いに見えて、実は周到な計算が為されている作品でもある。

釜洗図鐔 額川元重 Motoshige Tsuba

2013-02-22 | 
釜洗図鐔 額川元重


釜洗図鐔 銘 北松斎額川元重(花押)

 岩本昆寛の同図の鐔を手本としたもの。赤銅地高彫色絵象嵌。先に紹介した漁師図の印象もこれに連続する。水際に生きる者への暖かい視線のありようが作品から感じ取れるのは、この図の本歌があまりにも優れているから。昆寛の名品と比較するのは無粋なのでやめておこう。


鵜飼図鐔 Tsuba

2013-02-20 | 
鵜飼図鐔


鵜飼図鐔 

 夏の風物である鵜飼の漁師の姿を捉えた作。肩にしているのは柄杓だが、何に用いるのであろうか。その先に一羽の鵜。見上げる漁師の目線の優しさが表現されており、鵜と漁師とが一体となった漁であることが想像されよう。山銅地の地面は縮緬のような石目地に仕上げ、高彫に金、朧銀、銀の色絵を巧みに施している。
 岩本昆寛も鵜飼に取材した作品を遺している。《Tsuba鐔 装剣小道具の世界》を更新したので参照されたい。

夕立雨宿り図鐔 鉄元堂正楽 Shoraku Tsuba

2013-02-19 | 
夕立雨宿り図鐔 鉄元堂正楽


夕立雨宿り図鐔 銘 鉄元堂正楽(金印)

 夏と言えば夕立。突然の雨に駆け出す人物、のんびりと天を仰いでいるのは降り始めであろうか、あるいはどうせすぐに止むとみているのか、小屋の中には雨を逃れた御師などがいる。人物描写を得意とした京都金工の鉄元堂正楽はこの場面を得意として何点かの作品を遺している。とにかく様々な人物描写が一枚の中にあって楽しい。《鐔Tsuba 装剣小道具の世界 バックナンバーから》を参照されたい。

菖蒲花束図鐔 Tsuba

2013-02-07 | 
菖蒲花束図鐔


菖蒲花束図鐔 

 薬種として描く菖蒲の季節は五月。この鐔では秋を代表する菊を併せて描いており、対比の妙を示しているが、いずれも薬種に関わる題材。薬玉が病魔退散を目的に端午節句に飾るのものであることは度々紹介してきた。同様に菊節句とも呼ばれる九月の重陽節句には、菊など秋の植物を中心とした薬種を袋などに入れて飾り、厄除けとし、あるいはその香りを楽しんだ。ぐみ袋である。この鐔ではそこまでは描かないものの、同様に薬種として見られている植物に焦点を当てている。

野遊び図鐔 細野政守 Masamori Tsuba

2013-02-04 | 
野遊び図鐔 細野政守


野遊び図鐔 銘 細野惣左衛門政守(花押)

 陽気が暖かくなると、自然の中での野遊びが盛んに行われるようになる。この鐔に描かれている時節が花見の頃であろうか不明だが、萌え出た下草を踏み、野に遊ぶ風情が良く表わされている。細野政守は本作のような俯瞰やパノラマのような広い視野を採り、状況描写を主体に人物は毛彫平象嵌で簡潔に、しかも素描風に動きのある図とするなど、活きいきとした空間表現を得意とした。この鐔にも野歩きを楽しむ人々が鮮明に描かれている。

《鐔Tsuba装剣小道具の世界》記事が更新されています

雛祭図鐔 吉岡因幡介 Inabanosuke

2013-02-01 | 
雛祭図鐔 吉岡因幡介


雛祭図鐔 銘 吉岡因幡介

 雛祭りと関わりのある行事の一つが潮干狩り。大地には花が咲き始め、海の生き物も同様に動きはじめており、周りを海に囲まれている我が国では、それを自然の恵みとして意識し、大切にしている。陽も暖かくなり、野遊びと同時に磯遊びも盛んに行われるようになる。そのような要素をも採り入れた作。極上質の赤銅地を磨地に仕上げ、金銀朧銀の平象嵌と毛彫の手法を用いて洒落た、しかも洗練味のある描法で、風雅な世界観を表現している。

追難 やいかかがし図目貫 Morichika Tsuba

2013-01-24 | 
土屋守親作年中行事図一作金具から


追難 やいかかがし図目貫

 鬼やらい、即ち寒い冬に流行する風邪など、人に難をもたらす様々な悪を、鬼の仕業とし、これを追い払う行事の一つ。西洋ではニンニクを吊るしてその悪臭で吸血鬼を追い払う。我が国では腐った鰯の頭を門口に飾り、その悪臭で鬼を追いやる。通じるところがある。柊は葉の縁が尖っていて触れると痛いことから、これも鬼を追い払う目的で用いる。
 鉄地高彫象嵌の手法で、これを脇差鐔の表に描き、大刀の鐔は正月飾りで装っている。即ち、この鐔が製作された頃は、正月と節分の行事は一対のものであった。

大黒天ねずみ回し図鐔 Tsuba

2013-01-12 | 
大黒天ねずみ回し図鐔


大黒天ねずみ回し図鐔

 猿回しに擬えたものであろう、猿の代わりに鼠が操られている図である。綱を引いているのは七福神の一人でもある大黒天。大黒様と呼ばれて親しまれており、鼠はその遣いであることから、装剣小道具としては俵、鼠、大黒天の三要素が描かれることも多い。お大尽の座敷で演じていることを想定しているのであろう、屏風があり、宝珠が飾り物として添えられている。素銅地高彫金銀朧銀色絵。

猿と注連縄図鐔 Tsuba

2013-01-10 | 
猿と注連縄図鐔


猿と注連縄図鐔

 注連縄の下で猿が遊ぶ図にも見えるが、被り物をみると、どうやら猿回しの猿のようだ。即ち、正月を祝って家々を廻る門付芸の一つ。現代でも演芸の一つとしてみることが出来るも、江戸時代には主に正月を彩る風習の一つであった。赤銅魚子地を高彫にし、金銀素銅の色絵を巧みに配している。裏の注連縄の構成も美しい。無銘で、京都金工一宮派と極められている。

羽子板図鐔 壽盧 Toshiyoshi Tsuba

2013-01-08 | 
羽子板図鐔 壽盧


羽子板図鐔 銘 壽盧

 正月の風物に題を得た鐔。羽根突きなどは見る機会も少なくなったし、凧は新種のカイトに替わってしまった。カイトは誰でも揚げられることから人気らしいが、揚げることへの工夫という面白みが失われてしまった。地域に残る大凧や連凧は伝統としてうれしいが、正月、広い野原で昔ながらの凧が揚がっているのを見つけると、本当にうれしい。朧銀地高彫金銀赤銅素銅のカラフルな色絵平象嵌。壽盧は岩間政盧の門人。
 鉄地地透になる羽子板図鐔も併せて紹介する。この図になる鐔もちょっと珍しい。

海老正月飾図鐔 戸張直知 Naotomo Tsuba

2013-01-05 | 
海老正月飾図鐔 戸張直知


海老正月飾図鐔 銘 戸張直知(花押)

 極上質の赤銅魚子地。それだけでも贅沢な風情が漂っているにもかかわらず、ここに大きな海老、注連縄を描いて正月飾りを演出している。金の色合いを違えているのも巧みであり、注連縄を尾で弾いているかのように、まさに生きているかのような海老の姿が魅力。
小柄笄も正月飾りの図。海老は素銅地で色合いを再現しようと試みたようだが、鐔の金地の海老のほうが非現実的ではあるが贅沢感があり、視覚的にも面白い。


萬歳図鐔 源左衛門桑村克久 Tsuba

2013-01-02 | 
萬歳図鐔 源左衛門桑村克久


萬歳図鐔 銘 源左衛門桑村克久(花押)

 加賀金工を代表する名工。正月の風俗でもある万歳に題を得た鐔で、動きのある空間構成が巧みな作品。加賀金工は、赤銅地などに金銀の平象嵌と毛彫を組み合わせた簡潔な描法で、秋草に虫図などのような洒落た平面構成を得意としたが、この鐔では、同時代に生きていたであろう人物に焦点を定め、激しく踊る人物を写真で捉えたように再現している。動きのある顔の表情、手足の伸び伸びとした様子、太鼓を打つ手指、扇を振り上げるのの仕草なども面白い。強く切り込んだ片切彫も活きている。
 お正月の風物詩とも捉えられる萬歳は、三河万歳、尾張萬歳などで良く知られているが、実は各地にあり、この鐔に描かれているのは、越前にて隆盛し加賀に伝わった加賀萬歳。現在でも保存会があるそうだ。