鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

時鳥図鐔 奈良喜時 Yoshitoki Tsuba

2014-04-14 | 
時鳥図鐔 奈良喜時


時鳥図鐔 銘奈良喜時(花押)

 赤銅石目地で省略した背景に、極肉高の描法で打ち捨てられた瓦を表現、その上に飛翔する時鳥を配している。瓦の脇には歯朶(しのぶ草)が生えており、戦乱の世を経て遠い昔の栄華の時代を想わせる構成(同時に定家の古歌も想わせる)。近代における時鳥の印象は、鰹と組み合わせた初夏の風物ではあるが、かつては戦場を経巡る武士の姿に擬らえられたことがあったのではないかと想像される。

 
参考 初夏風物時鳥に鰹図目貫

藤に燕図鐔 柳明子一英 Kazuteru Tsuba

2014-04-05 | 
藤に燕図鐔 柳明子一英


藤に燕図鐔 銘柳明子一英

 一英は石黒(加藤)英明の門人。石黒派は赤銅魚子地に高彫金銀朧銀素銅などを用いた色彩の構成を得意とし、花鳥を題に得て華やかな空間を創出した。その流れを汲み、赤銅石目地に後藤一乗一門からも学んだものか、造り込みに江戸後期という時代観があるも、一乗一門とは異なる風をみせ、構成は大胆で華やか。大きく描いているところに個性があるのであろうか。色の組み合わせが巧みでしかも美しい。

藤に燕図鐔 Tsuba

2014-04-04 | 
藤に燕図鐔


藤に燕図鐔

藤棚の下をすり抜けてゆく燕。季節感を良く示した作。素銅地に平象嵌と毛彫を用い、各々の特徴を良く捉えている。殊に、目の前をすうっと過ぎゆく燕の流れるような翼の様子が巧みである。印象は文様化された風景。

松樹に雉子図鐔 荒井辰成 Tatsunari Tsuba

2014-03-31 | 
松樹に雉子図鐔 荒井辰成


松樹に雉子図鐔 銘荒井辰成(花押)

 朧銀地高彫金銀素銅色絵象嵌。老松に蔦の絡まる様子は秋。その下に独り立つ雉子は高彫に翼文様は素銅の色を活かした平象嵌で鮮やか。独特の世界観が窺える作品である。ちょっとシュールに感じられるところが魅力であり、辰成なる金工については有名ではないものの、その感性を再確認したいところである。

雉子図鐔 石黒是美 Koreyoshi Tsuba

2014-03-29 | 
雉子図鐔 石黒是美


雉子図鐔 銘石黒是美(花押)

 石黒派が最も得意とした正確な構成で精巧細密に彫り出し、写実表現した花鳥図。雉子は桜などと共に描かれることが多く春の鳥として捉えられることが多いのだが、このように眺めてみると、春に留まらない、夏から秋にかけて活躍する鳥、即ち季節感を特に持たない鳥とされているようだ。草の陰に寄り添う雌雄の雉子。ただ眺めていたい作品である。是美は政美の子で、後にその二代目を襲う。幕末の名工の一人である。






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鳥刺に猟犬図鐔 岩本昆壽 Konju Tsuba

2014-03-24 | 
鳥刺に猟犬図鐔 岩本昆壽


鳥刺に猟犬図鐔 銘猩々夫岩本昆壽(花押)

 昆壽は岩本昆寛の高弟。鳥刺は、鷹狩に使われる鷹の餌を獲る職。犬を使って鳥を追い出すのであろうか。草の茂みから鳥が追い立てられた瞬間を巧みに描いている。装剣小道具に、このような成犬を描いた作が比較的少ないのは理由があるのだろうか。先に数点紹介したように、仔犬はとにかく愛らしいものだ。この鐔で飛び立つのは雀であろうか、あるいは雲雀か。師である岩本昆寛は、市井の人物に取材した作品や、様々な鳥の図の作品を遺している。昆壽のこの作品は、師の求めた世界観に通じている。

仔犬に早蕨図鐔 宗光 Munemitsu Tsuba

2014-03-14 | 
仔犬に早蕨図鐔 宗光


仔犬に早蕨図鐔 銘宗光作


 生まれたばかりの子犬の脇に、やはり萌え出たばかりの蕨。両者の丸々と膨らんだ様子が愛らしい。暖かい太陽の存在が明示されている作品である。こんな季節が最も好きだという方が多いと思う。筆者もそんな一人であり、暖かな日差しの下での散策がしてみたくなり、丹沢辺りを目指すのが例年である。

芍薬図鐔

2014-03-13 | 
芍薬図鐔


芍薬図鐔

芍薬
 「立てば芍薬、座れば牡丹…」などという言い回しがあるのだが、よく似た牡丹と芍薬の違いはどこにあるのだろうか。芍薬は草で冬枯れがあり、牡丹は木のままで冬を越える、というように違いは明確だが、それでもよく似ているし、花が咲いている頃には普通に混同して「牡丹」と思ってしまう。一般に背丈は芍薬の方が低く、牡丹が大きく育つ。とすれば「立てば芍薬…」は逆か。葉も違い、牡丹は掌のように大きく広がり、芍薬は比較的細くなるそうだ。すると、この鐔の図は芍薬に違いない。

春蘭図鐔 荒井成利 Naritoshi Tsuba

2014-03-10 | 
春蘭図鐔 荒井成利


春蘭図鐔 銘荒井成利(花押)

春蘭
 この鐔のように、枝葉を描かずに花のみを構成した作もままみられる。春蘭などは蝶のようにも見えることから、その繊細さが好まれたのであろう。葉をなくすことによって、美観が際立つ例でもある。赤銅魚子地高彫金色絵。

春蘭図鐔 政富

2014-03-07 | 
春蘭図鐔 政富


春蘭図鐔 銘長州住政富作

春蘭
 春を代表する花の一つ。理由は不明だが装剣小道具には比較的多く見られる。早春の山を歩くと、可憐なこの花を見つけることがあるのだが、画題ほどにはあまり目立たないのが現実。憧れが強く影響しているのであろう。文様として捉えると美しい。この鐔は鉄地を肉彫として春蘭の様子を写実描写したもの。長州鐔工らしい、特徴が良く捉えられた精巧な作となっている。

ひな祭り図鐔 吉岡因幡介 Inabanosuke 

2014-03-05 | 
 ふと気づいたらもう三月。今年は殊に雪が多く、いつもに比べて春の到来が待ち遠しい。一足はやく、春を感じさせる植物をいくつか・・・。



ひな祭り図鐔 銘吉岡因幡介



 暦が異なることから、この時期に桃の花はないが、ひな祭りというと桃の花。以前にも紹介したが、春と言えば桃の花。古くは生命の源とも捉えられ、この実は邪気を祓うと考えられていた。イザナギが小鬼に追われ黄泉国から逃れようとした際、桃を投げつけて鬼の足を留めようとしている。雛人形を川に流すのも、穢れを人形に託して禊する意味がある。長い冬が去って春、緑の増す中で桃が一せいに開花する様は、まさに生命のありようを感じさせよう。

蓑亀図鐔 松寿軒矩随 Noriyuki Tsuba

2014-03-03 | 
蓑亀図鐔 松寿軒矩随


蓑亀図鐔 銘松寿軒矩随(花押)

 空間を活かした静かな空気感の漂う作品。赤銅魚子地高彫据紋金色絵。水の流れなどは琳派の影響を受けて頗る絵画的描法。


蓑亀図小柄 銘佐野直好

 これも簡潔な作。矩随に比して古典的な描法。顔つきなどは、先に紹介した京金工の作に似て恐ろしげでもある。

蓬莱蓑亀図鐔 京金工 Kyokinko Tsuba

2014-02-28 | 
蓬莱蓑亀図鐔 京金工


蓬莱蓑亀図鐔 無銘京金工

 海原に大きく張り出した松樹。その下に遠く会場を眺める蓑亀。波がその身を包み込むように繰り返して訪れている。古典的な意識によって表現された生命の喜びを表現したものであり、それはまさしく蓬莱。長寿の象徴である亀、松樹もまた長寿を持ち、寄せては返す波は無限に繰り返される自然の力の存在を意味し、これらの背景にある魚子地による円周状の文様は、明らかに太陽の存在を暗示している。81.5ミリ。□


四羽鶴透図鐔 大野 Oono Tsuba

2014-02-27 | 
四羽鶴透図鐔 大野


四羽鶴透図鐔 無銘大野

 金山に似て、さらに骨太な風合いが魅力の大野の鐔。地造りは厚くがっしりとし、地鉄は鍛えた鎚の痕跡が明瞭に現れて激しい表情。所々に山吉兵へに見られるような鉄骨が現れており、地鉄そのものも楽しめる。江戸時代の作。図柄は鶴を巴状に構成したもので、頗る面白い。73.5ミリ。□