鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

三羽鶴透図鐔 佐州住利姓 Toshiuji Tsuba

2014-02-26 | 
三羽鶴透図鐔 佐州住利姓


三羽鶴透図鐔 銘佐州住利姓

 佐渡の鐔工。江戸でも製作している。この一派は鉄地を地透とした簡潔な図柄の鐔を遺している。三羽の鶴を丸く巴状に構成したこの鐔の洒落た風合いを愉しみたい。わずかに対称性を崩しているところがいい。70.5ミリ。

鶴丸透図鐔 正阿弥 Shoami Tsuba

2014-02-25 | 
鶴丸透図鐔 正阿弥


鶴丸透図鐔 無銘正阿弥

 線が細く上品な仕立ての鐔。京透もそうだが、文化の中心であった京都人の意識により、繊細な文様美が構築されたものと思われる。江戸時代の正阿弥派の作で、地鉄は比較的緻密に揃っている。
 桃山時代以前に時代の上がる正阿弥派を古正阿弥と呼び分けているが、文様表現に古風な所があり、また地鉄の表情にも一段と古びたところがあって面白い流派と言える。江戸時代に各地に移住していることからその流派の特異性が希薄となったためであろうか、他の尾張や赤坂や肥後など、地域と強く結びついたように感じられる金工に比較して低く評価されがちだが、実は頗る面白い存在である。特に時代の上がる鐔には、図柄の妙を愉しむ作例もあるが、地鉄の味わいにも視点が置かれる作に出会うことがある。古正阿弥と極められた鐔を見つけたら、よくよく比較鑑賞されたい。必ず心を打つ作に出会えるだろう。83ミリ。

鶴丸透図鐔 赤坂 Akasaka Tsuba

2014-02-24 | 
鶴丸透図鐔 赤坂


鶴丸透図鐔 無銘赤坂

 日本航空のマークにも似ていることで良く知られている。もちろん鶴丸(つるまる)の家紋の意匠の方が古い。鐔としてはいつごろから登場したのであろうか。肥後金工の平田彦三や林又七極めの作にみられることから、江戸時代初期と推定してよかろう。もちろん先に紹介した対鶴図に先行したものであろう。翼の構成線に多趣あり、印象の異なる鶴丸が生み出されている。赤坂派は肥後金工と交流があったとみられ、似た図柄が遺されていることも良く知られている。81.5ミリ。

喰い合い対鶴透図鐔 Tsuba

2014-02-21 | 
喰い合い対鶴透図鐔


喰い合い対鶴透図鐔 無銘

 左右に向かい合わせで意匠した作。これも家紋にある。赤銅地陰透。線の幅に強弱変化を付け、翼と羽根を猪目による網目のように複雑に構成している。文様化の進んだ対鶴であり、殊に嘴を交差しているところなど、自然の情景に取材したものと思われ、とても素敵だ。家紋と鐔の構成の妙なる関連を、改めて感じさせるものである。78ミリ。


対鶴図鐔 政富 Masatomi Tsuba

2014-02-20 | 
対鶴図鐔 政富


対鶴図鐔 銘長州萩住政富作

 先に紹介した神吉の作に比してより実体的表現になる対鶴図。美しく開いた翼は、肉彫表現により小羽の先まで丁寧な描写とされている。精密描写によりすっきりとした構成であるが、これも家紋を意識している作品である。岡田政富は江戸時代後期の文化文政頃を活躍期とする長州鐔を代表する工。精巧で精密な植物図を得意としている。その技法を採ったものであろう、翼の先端まで美しい。

対鶴図鐔 神吉 Kamiyoshi Tsuba

2014-02-19 | 
対鶴図鐔 神吉


対鶴図鐔 無銘神吉

 鐔の円形を家紋の円形に見立てたものであろう、明らかに上下の対鶴は家紋の構成である。簡潔な陰影に毛彫を加えて鶴らしさを高めている。もう一つ、上下の鶴によって囲まれた透かしの空間が松皮菱(まつかわびし)の家紋になっている点にも注意したい。江戸後期の肥後金工、神吉の手になる巧みな作品である。81ミリ。

鶴に貴人図鐔 弘親 Hirochika Tsuba

2014-02-12 | 
鶴に貴人図鐔 弘親


鶴に貴人図鐔 銘弘親

 水戸金工打越弘親は弘壽の門人。水戸金工は古典に取材した図柄を好んで作品化している。精巧な彫口で朧銀地高彫に処理し、赤銅、金銀素銅の色絵を巧みに加えている。鶴が大空を旋回しながら地上を見下ろす姿は、いかにも絵画の題材として格好がよく、この鐔でも細部まで丁寧な彫刻処理がなされている。画題は良く分らない。74.8ミリ。

林和靖図鐔 藻柄子宗典 Soten Tsuba

2014-02-10 | 
林和靖図鐔 藻柄子宗典


林和靖図鐔 銘藻柄子宗典

 鉄地を鋤き込んで風景を背景に人物図を立体的に彫り出し、金銀素銅の象嵌を加えて写実味を高めた作風を得意とした。彦根金工藻柄子宗典の作。図柄は宋代の詩人林和靖に取材したもの。林和靖は西湖のほとりに棲み、梅と鶴を好んでこれらと共に生き、二十数年のあいだ街に出ることがなかったともいう。煩わしい世を捨てて深山に隠棲することを理想とした古代中国の詩人たちと同様、我が国でも画題としては好まれたものである。ここでの鶴は、花咲く梅樹を背景に古典的な構成とされている。80.6ミリ。

蓬莱図鐔 後藤通乗 Tujo Tsuba

2014-02-08 | 
蓬莱図鐔 後藤通乗


蓬莱図鐔 無銘後藤通乗

 水辺の鶴を華やかに描いた作。後藤通乗と極められている。後藤家は目貫、小柄、笄を専らとしており、鐔など他の金具の製作は極めて少ないことは度々紹介してきた。
 目にしただけでこの鐔に吸い込まれてしまいそうなほどに美しい。図柄構成には琳派の美観がある。水の流れに遊ぶ鶴。周りには豊かな自然のありようを証明するように木々が茂り水草や秋草が花を咲かせている。蛇籠は、川辺に水たまりを生み出し、新たな生命をそこに宿す働きを成す。自然の景観を壊すような存在ではあるが、装剣小道具や絵画の題材としては普通に採られている。面白い視点の置きようでもある。赤銅魚子地高彫金銀色絵。74ミリ。□

舞鶴蓬莱図鐔 梅忠就方 Narimasa Tsuba

2014-02-07 | 
舞鶴蓬莱図鐔 梅忠就方


舞鶴蓬莱図鐔 銘梅忠就方(花押)

 江戸埋忠派の巧手。朧銀地に松の枝葉を密集させた押し合いの文様に仕上げ、これを背景に飛翔する鶴を高彫金色絵で印象的に描き出している。松の枝葉の茂る様子は自然の豊かさを意味し、鶴は伸びやかで鮮やかであり、存在するだけでありがた味が感じられる。また、この発想がいい。透かしによる簡略化された意匠も素敵と感じたが、この鐔を見ると、細密に彫り出す描法も脳内を刺激してくれる。70ミリ。

鶴亀蓬莱透図鐔 古赤坂 Ko-Akasaka Tsuba

2014-02-06 | 
鶴亀蓬莱透図鐔 古赤坂


鶴亀蓬莱透図鐔 無銘古赤坂

 古赤坂、即ちこれまでに紹介した鶴亀の透鐔の中では最も古い、江戸時代初期の作。左右に松と竹、天地に鶴亀を配して頗る簡潔な陰影に仕上げている。ちょっと見ただけでは分り難いが、何だろうと目を近づけて観察すると、正体が判る。赤坂らしいデザインである。このような洒落た意匠が、後に江戸の文化の一つとして流行してゆく。鉄地毛彫地透。81.5ミリ。


鶴亀蓬莱透図鐔 肥後 Higo Tsuba

2014-02-05 | 
蓬莱透図鐔 肥後


蓬莱透図鐔 無銘肥後

 鐔の上部に翼を広げた鶴を、下には亀を布置した、簡潔な意匠ながら味わい深い肥後金工の作。二点は別の作者で、風合いが異なるも、画面を巴に意匠して動きと生命感を生み出している。鉄地毛彫地透。80ミリ。


蓬莱図鐔 美卿 Yoshiaki Tsuba

2014-02-04 | 
蓬莱図鐔 美卿


蓬莱図鐔 銘美卿作

 石黒政美の門人。肥前長崎の金工。波間に顔を出している小島の上に翼を広げ飛翔する鶴を大胆に構成している作。小島は蓬莱であろう、陰陽に簡略化されたデザインが優れている。実はこの意匠に似た作が安親にある。岩がすべて荒波とされているのだが、やや横長の障泥形という造り込みからくる総体の印象も似ている。好みはあろうが、陰陽に表現された図柄としては美卿の本作の方が洗練味が感じられる。86ミリ。

蓬莱図鐔 元孚 Motozane Tsuba

2014-02-01 | 
蓬莱図鐔 元孚・元貞・元籌


蓬莱図鐔 金印元孚・元貞・元籌

 大山元孚、大川元貞、泰山元籌の三者による合作。その印銘が金象嵌されている。木瓜形の鉄地を高彫し、金銀赤銅の象嵌を加えている。松樹も霊芝も、もちろん鶴も長寿の象徴。銀と赤銅を巧みに組み合わせて鶴の姿を写実表現している。
 蓬莱思想は古代中国に起こった。中国大陸の東の海上にあると伝説された島がそれ。温暖な環境から植物が繁り、自然が生み出す恵みを得て動物は長生きをしており、長寿の象徴とされる鶴と亀の蓬莱図もここから生じたもの。秦の始皇帝がこの理想郷の探索を試みたことも良く知られている。この島国が我が国であろうことは、縄文時代の自然環境が頗る豊かであったと研究されていることからも、想像上だけでのものではなくなっている。

巣籠鶴図鐔 西垣勘平 Kanpei Tsuba

2014-01-31 | 
巣籠鶴図鐔 西垣勘平


巣籠鶴図鐔 銘西垣勘平作

 先に紹介した忠重の鐔と同じ意匠だが、ちょっと違った表現の作。鉄地に松樹を覆うように翼を広げた鶴を配し、松樹に金の布目象嵌を加えて情感を高めている。この鐔の風合いは肥後の特質。先の赤坂忠重もまた、肥後鐔に学んでいるのである。まさに陰陽に処理された図案の面白さだが、単純な切り絵とは異なって、透かしの切り口に生じた自然味のある凹凸が、鉄の素材や錆から生じたものであり、もちろん製作されて三百年以上を経たが故の鉄の魅力もあり、興味のポイントは一様ではない。75.2ミリ。