春. 夏. 秋. 冬. 河童の散歩

八王子の与太郎河童、
つまづき、すべって転んで、たちあがり・・。
明日も、滑って、転んで・・。

(30)ミツの手紙を落とした、節三

2016-03-10 00:49:26 | 節三・Memo


抗夫相手の岡場所で節三は、酔っ払いに
「書生、お前もやるのう」
と、言った抗夫を足払いで、あっという間に宙に飛ばすと二人目、三人目払い腰
払いで飲み屋の入り口に投げつけた。

その頃、戍太郎の嫁アヤはクニと濡れ縁から拾ったミツの手紙の皺を、膝の上で
伸ばし、かみしめるように読んでいた。
「可愛そうな事したねぇ」
年老えたクニが小いさな背中を震わせた。
この年数え年で五十八歳になったばかり、十人の子に恵まれ、六男の六郎以外の
子供たちは、立派に育ち、今のクニは気弱になっていた。
「あの子は、一人っ子のような感じだったのですよ。兄弟とは年が離れているし、
決め事になんでも外れていたから、太田の家のことは何も知らなかったと思いますよ」
お父さんは最初は可愛いといってたけど、喧嘩するようになってからは、まったく
馬鹿なって奴だ。馬鹿野郎、が口癖になって、近寄らないし、節三もわかるんだろうね、
父さんには近寄らなかったし、みんなに怒られて、育った様なもの、考えりゃあ
不憫な事をしましたよ」
「そんなとこ、全然感じませんでしたけど・・」
アヤはクニの手を握った。
「ミツまで、黙っていなくなって、誰も節三の味方がいなくなったかねぇ」
「悌三さんがいますよ。養子にって前からいってたではありませんか」
「アヤさん、悌三は節三が可愛いから養子にするわけではありませんよ、自分には
子供がいないから、跡取りがほしいだけですよ。悌三は優しいが、後生節三を面倒
見きれるかどうか。親の私が言ってはいけないことでしょうが、親だからわかるも
のもあってねぇ」
アヤは初めて見た節三への優しさを言葉にする義母に、実母には無かった愛おし
さを感じた。
「ミツさんのことは節三さんも許してくれますよ」
「節三さんは優しい心を持ってますもの、きっと、きっとわかってくれるはずです・・ね」
そんなアヤもミツの手紙を見ては、年頃になって迄縁談を断り、言いたい放題の
あの生意気な小姑のミツを初めて理解し、涙を流した。

あくる朝、節三は、岡場所から駅に向かうと甥の昌男がアヤの作った弁当を持って
駅舎で待っていた。

コメント (3)
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(29)ミツ・節三に命令

2016-03-07 12:21:25 | 節三・Memo
何よりねぇちゃんのほうがみんなよりはるかに、黙っていこうと思っていました。でも、悩んだのですよ・・・・・
節三は胡坐をかいたまま電灯の真下まですり寄った。{(28)ミツの手紙、節三は}

姉ちゃんはお嫁に行かないと決めていました。
腰から下の火傷の痕をあなたも、見たことがあるでしょう。
あなたを背負って、どうして竈の上に煮え湯があったのか,
ねぇちゃん、蓋をあけた途端、ひっくり返しました。
その時のあなたも今では大事な足も火傷をしたのです。
あとで
俺の足なんでこうなったと、母さんに聞いたとき、
ねぇちゃんは、息が止まりそうでした。
母さん
お前が悪さして、お湯をかぶったと、私をかばいました。
その時から、ねぇちゃんは、節三が大人になるまでは、
お嫁に行かない。そう決めました。
どうせお嫁の貰いてもない、と、あきらめてもいました。
でも、くじける時もありました。
ウメねぇちゃんと、ヤエねえちゃんがお嫁に行くときは、
部屋の中でいつまでも泣いていました。
もっといやだったのは
戍太郎兄さんに、南部出の偉いお嬢さんがお嫁に来た日でした。
体のことは知られたくない、
どんなことがあっても、火傷の痕は見せたくない。
そればかりでした。
節三、知っていましたか。
節三の足を見るたびに、
ねぇちゃんは、どんなお転婆をしていても、
おとなしくなっていたのを」

節三は幼い頃が走馬灯に鮮明に浮かんでいた。走馬灯はミツの思いを鮮明に浮かび上がらせていた。

「七滝ので、俺は柔道をやると叫んだそうですね、小作さんが教えてくれました。
何をバカなことをしている、どこまで馬鹿なことをする男なのだ。
私なら滝に行かなくても、決めたらそこで、実行するのに、なんて暇人だと思いました。
でも、どんな決め方でも、節三は今日の今日まで、柔道だけを考える人になりました。
ねぇちゃんはそんな節三を偉いと思いました。
新聞の記事は、切り抜いて大事にとってありますよ。
仲良くしてくれた、節三に打ち明けるか、どうか。
あなたは今、大事な柔道の時でしょう。
ねぇちゃんは決めました。
あなたには挨拶をしないでこの家を出る事にしょう。
身内だけのお披露目は明日ですが、
あなただけには、言いたくない。言いたくありません。
どうしてか言えません。
明日は盛岡で試合ですね。怪我をしないようにしてください。

嫁ぎ先を探してくれた、父さんと戍太郎兄さんは大変だったでしょう。
有難く思わなければなりません。
ねぇちゃんは、黙って嫁いで行く事を節三が解ってもらえるかどうか、それだけが心残りです。

最後にねぇちゃんから命令です。
節三、お前は誰にも負けない強い柔道家になれるのだから、わき目を振ってはいけません。
ねえちゃんはいつでもお前ことを思っています。
私が離縁されたらお前が私を養うのです。
解りましたか。
解からなかったら解るまで、滝に打たれなさい。

さようなら
                      ミツより
 節三へ                      」  

節三は小刻みに震える手で引いた建付けの悪い障子が、
「ピシッ」と大田の家に響いた。               

{(28)ミツの手紙、節三は}の書き出しに・・・・
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(28)ミツの手紙・節三は

2016-03-06 02:31:42 | 節三・Memo


建付けの悪い障子が「ピシッ」と空を切った。
節三は廊下を走り。ミツの部屋の襖両手で開き
「ねぇちゃん」とありったけの声で呼んだ。
人影はなく、鏡台も、箪笥が消えていて、暗いがらんとした部屋は小さい窓からの月の明かりだけが、かろうじて主になっていた。
節三は、甥の昌男の部屋、父新助の部屋、戍太郎の部屋、納戸、風呂場。便所、客間と家中の部屋を、
「ねぇちゃん、ねぇちゃん」と叫びながら、ミツを探した。
「父さん、ミツねぇちゃんはどこにだ、どこにいる」
「昌男、おばちゃんを知らないか」と叫んだ。
廊下で新助と戍太郎が、母クニと戍太郎の妻アヤが、節三の取り乱し様をじっと見ていた。

泊りがけの遠征から帰った節三に義姉のアヤさんが夕食を運びながら、
「節三さん、今日はな・・・」
と言ったきり、後を続けないアヤさんを見て、「マッいいか」と言葉を待つまもなく、食の礼を言い、歩きながら両肘を背中の後ろにそらし部屋に入った。
電灯をつけると、
「おっ」と口から洩れた。
布団がたたまれ、教科書が机の隅に並らんでいる。汚れて投げ捨ててあった衣類は洗濯をされきれいになって部屋の真ん中にたたまれていた。。
「散らかっていても、どこに何があるかわかっているから部屋には入るな」
と言われている手伝いの「タエ」が「節三さん嫌がるんですよね」云いながらもと母のクに、
「これと、これは洗濯して、後は部屋を履いておいて頂戴」
と言われると、従わざるを得ない。
「タエの苦情」は母に言われて十分承知している節三は、ただ自分では片付けないことも知っている。母のクニには少し腹が立つが、タエには心底怒っている訳ではなかった。
押入れから布団を持ち上げ、足で洗濯ものを寄せようとしたとき、電灯に揺れた白い封筒が目に入った。
布団を「ポイ」と放り、封筒を「スゥッ」と手にした。
封筒を持つ手が少し震えたような気がした。
「節三さんへ・・・・」青いインクのミツの字の一行目。

「毎日稽古稽古で大変ですね。
節三にとっては突然のことで、心苦しく思いますが、ねぇちゃん明日お嫁に行くことになりました。
父さん、母さん、兄さんたちと話し合い、節三にはねぇちゃんが嫁いでから話そうということになりましたが黙ってたことに、みんなを恨まないでください。お願いします。
何よりねぇちゃんのほうがみんなよりはるかに、黙っていこうと思っていました。でも、悩んだのですよ・・・・・

節三は胡坐をかいたまま電灯の真下まですり寄った。
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(25)節三冬眠する

2016-03-01 22:41:33 | Extra
停学になった。大叔父・太田節三の慕情の節三。

2泊3日の冬眠に入ります。

この男どうもマイべースで困った者だが。


冬眠前、私に捨て台詞を言った。

お前はいい友達を持ったもんだ

上の瞼と下の瞼は誰もが羨む、間柄ではないか。
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