とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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おじさん入門

2005年08月16日 13時02分21秒 | 書評
おじさん入門といタイトルの「おじさん」という言葉の部分に引っ掛かりを感じ、一瞬、書店で平積みされている中から一冊を取り上げようとした手を止めてしまった。
「おじさん入門って。まだ『おじさん』と呼ばれるのには抵抗あるな」
とか、
「こんな本持ってレジに行ったら『あら、こんな本買うて。おじさんのイントロダクトリーやねんね』」
などと店員に思われてしまうのではないか、などとしょーもないことを色々想像してしまったのだ。
しかしそこはお気に入りの作家・夏目房之介の新刊なので買わねばならぬ、という義務観念の方が優先されたのは言うまでもない。

夏目房之介の作品、つまり氏の本業のマンガに出会ったのは20年以上も前、週刊朝日に連載されていたデキゴトロジーというコーナーの挿し絵マンガでだった。
この「デキゴトロジー」というコーナーは世の中のおかしな出来事を紹介した連載ミニ記事だった。
「ほんまかいな」と疑いたくなるような話がコンパクトにまとめられていて、とても楽しめたのだ。
もっとも、雑誌そのものが週刊「朝日」なので「ほんま」ではないかもしれないが。
どういう記事が載っていたかというと、たとえば「日頃楽だからという理由で亭主のパンツ履いて生活している若い主婦がちょっとした事故に巻き込まれ、骨折をしてしまうが、医者の前で「トランクス」を履いていることがバレルのが恥ずかしく、必死に這って家へ戻り、自分の下着に着替えてから救急車を呼んだ話」や「大学で日本史を専攻し一心に勉学に勤しんだ結果、大好きだったテレビの時代劇が「嘘ばかりなので」ちっとも楽しめなくなってしまった大学のセンセイ」の話など、ちょっと変な実話が紹介されていたのだ。
その記事に添えられていたのが夏目房之介のマンガだったのだ。

本書はマンガではない。
エッセイ集だ。
夏目房之介の作品にしては、かなり小品で、どちらかというとプライベートなことが多く書かれており、本人も「あとがき」で述べているとおり、どこが「おじさん入門」なの?というところが確かになくもない。
正直いって、団塊の世代の老後の過ごし方が書かれているのではないか、と思えるような内容なのだ。
どっちかというと夏目房之介の書物にしては、ちと詰まらんのでは、というのが率直な感想だ。
マンガ評論や自身の祖父・夏目漱石について書いた最近の書籍と比べると、プライベートな部分とはいえ、かなりライトな話が多いのだ。

ともかく、今作も各エピソードにマンガがちょこっと添えられていて、気軽に楽しめるエッセイ集だといえるだろう。

~「おじさん入門」 夏目房之介著 イーストプレス刊~

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