とりがら時事放談『コラム新喜劇』

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ザ・ホテル

2006年12月20日 22時46分11秒 | 書評
人生40年ほど生きてきたが、未だに5つ星のホテルには宿泊をしたことがない。
せいぜい4つ星が止まりである。

かといって1つ星のホテルになんぞ泊まったことはまったくないし、だいたい1つ星のホテルがあるのかどうか知らないが、バンコク・カオサンのドミトリーにも泊まったことはない(キッパリ)。

この「なんとか星」というホテルのグレードはいったい誰がどのようにランク付けしているのか正直、私は知らない。
きっと宿泊料金の高低で決めているのだろうと思っていたのだが、それだけでもないようだ。
第一、宿泊料金の高いホテルと安いホテルはどのように異なるのか。
そのへんもはっきりとしていなかった。

この春にミャンマーを訪れた時、私はヤンゴンで1泊10ドルの安ホテルに泊まることになった。
これは旅費をケチッタための措置であったが、ホテルそのものは悪くなかった。
ホテルのスタッフは気が利くし、清潔だし、街の繁華街の近くに位置しているし、戸締まりもしっかりとしていたのだ。
ところが、この10ドルのホテルに宿泊し、私は猛烈に疲れたのだった。
まず、エアコンが家庭用ルームクーラーなのは結構だが、ミャンマー名物の停電の度に停止するのには参った。
そのつどリセットボタンを押して再起動をかけなければ成らないのだ。
これでは漢字トーク時代のマッキントッシュ・コンピューターである。
それにベッドが狭い。
シングル用(シングル・ルームだから当たり前だが)の病院で使用しているようなパイプベッド。
おまけに繁華街に位置するため夜遅くまでガヤガヤ喧しいし、朝も早くから喧しい。

すっかり参ってしまったのだ。

この時のホテルでの宿泊が私に「バックパッカー卒業」を意識させた原因の1つにもなった。

で、これに懲りた私はビザを取得した日本ミャンマー友好協会のおじさんの「もう、バックパッカーなんて歳じゃないでしょ」との忠告も聞き入れ、先月のミャンマー旅行ではオール4つ星ホテルに予約を入れたのであった。
とりわけヤンゴンのホテルは快適で、日本にいる以上にリラックスした時間を過ごすことができた。

もちろん自家発があるので停電しない。
エアコンは埋め込み式。
ドアのキーはカード式の電子錠。
ベッドはセミダブル。
ボーイは礼儀正しく気さくであった。

つまり、ホテルのグレード付けというものは、いかに自宅にいるのと同じように、またそれ以上に過ごすことが出来るかどうか、ということに大きく左右されているのだ、と気づいたのだ。

ジェフリー・ロビンソン著の「ザ・ホテル ~扉の向こうに隠された世界~」はロンドンにあるクラリッジホテルに著者が半年も泊まり込んで取材したホテルの裏側ドキュメンタリーだ。
クラリッジホテルは世界でも最高級のホテルで1泊日本円で最低5万円。
ここに2泊するだけで私の一週間のタイ旅行の全額予算と同じになってしまうくらい凄いのだ。
ともかく宿泊料が凄いだけに、その豪華さも半端じゃない。
半端ではないがホテルの豪華さとはいったい何ぞい、と考えると、これも実はよく分らなかった。

本書では高級ホテルで展開されるホテルマンたちと客たちの様々な人間模様は映画を越えた面白さがあった。
しかしその面白さよりも、シンプルな一言が、私を大きく感動させてくれたのであった。

「よいホテルとは、ゆっくりと安心して眠れる場所のことだ」

この一見単純で簡単なように思えることが、なかなか実現できないのが普通だろう。
ホテルの一番重要な機能は「よく眠れる」ことなのだ。

マニュアルだけでは商売のできないホテル。
そのホテルの運営を、いったい誰が、どうやってこなしているのか。
ビジネスの神髄をのぞき見するような、そんなタメになる一冊だった。

~「ザ・ホテル ~扉の向こうに隠された世界~」ジェフリー・ロビンソン著 春日倫子訳 文春文庫~


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