8日(金)。昨日の日経朝刊に「ミューザ川崎ホール 観客参加し避難訓練 公演中の災害想定」という小さな記事が載りました 記事を要約すると、
「川崎市と川崎市文化財団は25日、東日本大震災による天井崩落の修復工事を終えた音楽堂”ミューザ川崎シンフォニーホール”で一般の観客や楽団員も参加した避難訓練を実施する 参加者は東京交響楽団の団員約80人、公募した観客約200人、財団スタッフ約70人、市関係者らで合計約550人。”コンサート中に大きな地震が起きた”想定で財団スタッフが観客らを安全な場所に誘導する
当日は午後2時からワーグナーの歌劇などの演奏会を始め、途中で地震が起こるという想定。訓練の終了後は観客に再び楽団の演奏を楽しんでもらう
」
避難訓練の日に演奏するのはワーグナーのどの曲か分かりません。ひょっとして”鳥巣探と急流出”(変換ミス)かも知れませんが、どの曲にしても参加者が”さまよえるオランダ人”にならないようにしっかり誘導して欲しいと思います
閑話休題
昨夕、すみだトリフォニーホールで、新日本フィルの室内楽シリーズ「音楽家たちの饗宴」を聴きましたプログラムは①ドヴォルジャーク「三重奏曲ハ長調」、②ベートーヴェン「七重奏曲変ホ長調」です
開演前に、恒例の新日本フィル第2ヴァイオリン奏者・篠原英和さんによるプレ・トークがありました この日は、早くも今年度前半最後の演奏会です
篠原さんは最初にクワルテット・エクセルシオについて紹介、「1994年に結成され、現在年間70公演を行う常設の弦楽四重奏団であること、かのイタリア弦楽四重奏団のヴァイオリン奏者の名前を冠した第5回パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクールで1位なしの2位に輝いたこと、途中から第2ヴァイオリン奏者が山田百子さんに変わったこと」などについて”原稿なし、立て板に水”の流暢な日本語で(!)解説されました
次いで長年にわたりウィーン・フィルでコンサートマスターを務め、後に弦楽四重奏団を結成したワルター・バリリについて、これまた正確な年代知識とともに紹介しました
バリリは現在も92歳でご健在とのことです。私はモーツアルトとベートーヴェンの弦楽四重奏曲を中心にウエストミンスター・レーベルのCD全集を持っており、たまに引っ張り出して聴いています
それにつけても篠原さんのトークの才覚はどのように表現すればいいのか
天才的な記憶力と表現力です
彼のトークもあと4回しか聴けないと思うと寂しい思いがします
会場には次期のプレ・トーク夢先案内人に内定しているコントラバス奏者・村松裕子さんが”偵察”に見えていましたが、先人が天才だけに後が本当に大変だと思います
村松さんの持ち味(今のところ未知の世界)を生かしたトークを期待したいと思います。わたし祈ってます
第1曲目のドヴォルジャーク「三重奏曲ハ長調」は、第1ヴァイオリン=田村直貴(ピアニスト田村響のお兄さん)、第2ヴァイオリン=山本のり子、ヴィオラ=吉鶴洋一というメンバーです。3人は立ったまま演奏します。田村直貴がプログラムに「懐が深く、温かい洋一父ちゃん。いつも元気で優しい、のりこ母ちゃん、ドラ息子のナオタカ・・・・・って感じの演奏」と書いていますが、まさにそんな感じの家庭的な雰囲気の演奏です 特に最終楽章で、お父ちゃん、お母ちゃんのトレモロに乗せてドラ息子の弾く演奏は絶好調でした
2曲目のベートーヴェン「七重奏曲変ホ長調」は、クラリネット=澤村康恵、ファゴット=石川晃、ホルン=藤田麻理絵(唯一の超若手)、ヴァイオリン=竹中勇人、ヴィオラ=高橋正人、チェロ=竹澤秀平、コントラバス=石田常文というメンバーです
この曲は以前このシリーズで山田容子のヴァイオリン、重松希巳江のクラリネット他の演奏で聴いてすっかり好きになった曲です あの演奏は本当に素晴らしかった
それが記憶にあったので、今回の演奏が待ち遠しかったのです
第1楽章は最初にゆったりと始まりますが、途中からアレグロに変わり、前へ前へと推進していきますこの切り替えが何とも言えず快感です
第2楽章はアダージョ・カンタービレですが、最初に澤村康江のクラリネットが、次いで竹中勇人のヴァイオリンがゆったりと歌うようなメロディーを演奏します
これがすごく良い感じなのです。第3楽章のメヌエットはヴァイオリンとクラリネット、ヴァイオリンとホルンの掛け合いが絶妙です
第4楽章は変奏曲ですが、ヴァイオリンの竹中勇人、ヴィオラの高橋正人にチェロの武澤秀平が加わった弦楽三重奏のアンサンブルを、7人の真ん中でデンと構えるコントラバスの石田常文が「わが子たちもなかなかやるじゃないか
」と言わんばかりに温かく見守っている姿が何とも微笑ましく感じました
第5楽章のスケルツォはホルンで開始されますが、藤田麻理絵のホルンが実にいい響きで、後に続くファゴットの石川晃やクラリネットの澤村康江の演奏にアクセントを与えています そして最終楽章のアンダンテ~プレストに移りますが、ここでも第1楽章といっしょで最初ゆったりと開始されますが、途中から急にテンポアップして前進していきます。これがまた快感なのです
ものすごくご機嫌な演奏でした。こういう演奏を聴くと”ベートーヴェンって本当にいいな”と思いますプレ・トークで篠原さんが「この曲は明らかにモーツアルトを意識した曲で、ベートーヴェン一世一代の娯楽音楽です
」と表現されましたが、まさにその通りの楽しい音楽です
演奏後に500円を払って、ワンコイン・パーティーに参加しましたが、ベートーヴェンの第1ヴァイオリンを弾いた竹中勇人が篠原さんのインタビューに答えて「ベートーヴェンの七重奏曲の練習は困難な時も幾度かあったのですが、その都度、澤村康江さんが”大丈夫、大丈夫”と言ってくれて、その後は不思議にその通りうまくいくようになりました。これを私は”康江マジック”と呼んでいます 今度演奏するシューマンの交響曲第4番は好きな曲ですが、演奏するのが非常に難しい曲です
この曲をうまく弾けるようになれば演奏家として一段階上に上がれるのではないかと思います
」と言っていたのが印象的でした。また、これを受けて篠原さんが「シューマンの交響曲第4番をシモン・ゴールドベルクの指揮で演奏した時は、まさに今、自分が名演奏の最中にいることを実感しながら弾いていた。あの演奏以降、あえてこの曲を演奏することを避けるようになった。それ程すごい演奏だった
」とおっしゃっていました。
ワンコイン・パーティーは500円でワイン飲み放題なので、毎回2杯は飲んで、篠原さんとその日の出演者の楽しいやり取りを楽しんでいますが、それが済んだら帰ることにしています その日の演奏を頭の中で整理して翌日のブログの組み立てを考えなければならないからです。まあ、それも楽しみの一つですが