人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

ウォルトン「ベルシャザールの饗宴」を聴く~東響第604回サントリーホール・シリーズ

2012年10月29日 07時00分00秒 | 日記

29日(月)。昨日、サントリーホールで東京交響楽団の第604回サントリーホール・シリーズ定期演奏会を聴きました プログラムは①武満徹「波の盆」、②マーラー「リュッケルトによる5つの歌」、③ウォルトン「ペルシャザールの饗宴」です。指揮は尾高忠明、バリトン独唱はローマン・トレ―ケルです

1曲目の武満徹「波の盆」は,1983年に日本テレビのスペシャル・ドラマ『波の盆』のために作られた音楽を,演奏会用に編曲したものです 監督の実相寺昭雄と脚本の倉本総が,太平洋戦争時のハワイの日系1世の男性を主人公に,日系ハワイアンの世代間の葛藤を描いた作品とのことです 第1曲「波の盆」から第6曲「終曲」まで6つの曲から成りますが,弦楽器を中心に美しいメロディーが全体を支配します 私は武満徹の曲はあまり積極的に聴こうとしないのですが,この曲は耳に入り易く,美しい曲だと思います

2曲目のマーラー「リュッケルトによる5つの詩」の演奏のため,バリトンのローマン・トレーケルが指揮者・尾高忠明とともに登場します.頭髪を剃り,上下黒一色のスタイリッシュな衣装に身を包まれた背丈の高い男を会場の拍手が迎えます 彼は指揮台に登った尾高と頭の位置がほぼ同じくらい背が高いのです 顔は,強いて言えばユル・ブリンナー似といったところでしょうか トレーケルは楽譜を携えていますが,それに頼らず歌うようです.プログラムのプロフィールを見ると「フィッシャー・ディースカウの元で研鑽を積んだ.日本では新国立劇場で”神々の黄昏”のグンター役など活躍した」とあります.どこかで見たような気がしました

トレーケルは深みのあるバリトンで,無理なくマーラーの世界を歌い上げました オケのバックも素晴らしく,とくに第4曲「私はこの世に棄てられて」におけるイングリッシュ・ホルン,ファゴット,ホルンの序奏は特筆に値する素晴らしさでした トレーケルは最後の第5曲「真夜中に」を歌うに当たり初めて楽譜を開きました.しかし,ほとんどそれを見ませんでした

最後の1音が鳴り終わると拍手とブラボーが会場を満たしました.素晴らしいバリトン歌手です

休憩後のウォルトンのオラトリオ「べルシャザールの饗宴」は作曲者が29歳の時,英国BBCから依頼を受け1929年~31年に書かれた作品です 通常の管弦楽器に加え,アルト・サクソフォーン,シロフォン,タム・タム,ムチ,オルガン,ピアノ,さらに舞台左右の2階席後ろにトランペット3,トロンボーン3,バスチューバ1のブラス・グループが控え,指揮者わきにはバリトンがスタンバイ,舞台後ろのP席(パイプオルガンの下)には約180名の合唱陣が控えるという大規模編成を取ります 合唱陣は平均年齢がそれほど若いとは思えないにもかかわらず誰一人楽譜を持っていません

ユダヤ人のバビロン捕囚をテーマにしたテクストは旧約聖書の「ダニエル書」,「イザヤ書」,「詩編」,新約聖書の「ヨハネ黙示録」から適宜採用されたとのこと 曲全体は単一楽章で,通して演奏されますが,内容的に①ユダヤ人の嘆き②ベルシャザールの饗宴と王の死③ユダヤ人の解放の喜びーの3つの部分に分けられます

曲の冒頭,トロンボーンのファンファーレとともにイザヤの預言が始まり,囚われの身となったユダヤ人の嘆きを合唱が歌います 次いで,舞台左右2階席のブラス・グループを加えた大管弦楽がペルシャザールの饗宴の場面を華々しく演奏します そして,王の死をバリトンが物語り,合唱が勝利の喜びを歌い上げます

フィナーレは,まるでジャズ・オーケストラの総奏のように華々しく終結します 本当に今から80年前にこの音楽が作曲されたのかと驚きます.会場は興奮の坩堝です 東京交響楽団はこういう音楽が得意ですね この日の選曲は指揮者・尾高忠明氏によるものでしょうが,日本に馴染みのない知られざる名曲を紹介したいという意欲と英国音楽へのこだわりを感じます 私は初めてこの曲を聴きましたが,もう一度聴いてみたいと思うほど素晴らしい音楽,演奏でした

 

          

               (プログラム表紙の絵はクリムト「音楽Ⅰ」)

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