守田です。(20150823 07:00)
21日に復水器付近でトラブルを起こした川内原発は、依然、稼働を続けています。ただし出力を段階的にあげ95%までもっていくスケジュールの延期を発表しました。
まだこれぐらいですむ段階で稼働を止めた方が絶対にいい。なぜならさらに何らかのトラブルが発生する可能性が高いことが前例から分かるからです。
今回はこの点を論じたいと思いますが、まずは以下の記事を示したいと思います。
長期停止原発が複数再稼働へ、世界的な未知圏-川内原発先陣(訂正)
ブルームバーグ 2015/08/10 09:18 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NS4J5H6JIJUR01.html
この記事が伝えている核心的内容は以下の点です。
「長期間停止している複数の原子炉の再稼働。国内電力各社は、これまで世界のどの国の電力会社も経験したことがないことに取り組もうとしている。」
「国際原子力機関や米国、カナダの規制当局のデータによると、最低でも4年間停止した原発の運転が再開されたケースは世界で14基。そのすべてが運転再開後にトラブルに見舞われている。」
「原子力技術コンサルティング会社、ラージ&アソシエイトのジョン・ラージ社長は、日本は「国中の原子炉がすべて4年間停止した状態」にあり、原子力規制委員会は想定外の事態に備えなければならないと指摘。
規制委がいま直面している状況は「他のどの国に存在しないまったく固有の事態」だと話した。」
僕が記事に感心したのは、「4年間停止した原発の運転が再開されたケースは世界で14基」という事実だけでなく、日本の原発の現状を「国内の原子炉すべてが4年間停止した状態」と指摘していることです。
この点でみなさんにも注意を喚起したいのは「原発ゼロ状態が終わった」という言葉に惑わされてはならないということです。
確かに原発ゼロ状態は終わりました。1基動いています。しかし依然、残りの原発はすべて止まっているのです。「ほぼゼロ状態」です。正確なデータを示すために以下のページをご覧下さい。グリーンピースジャパンのページです。
日本全国で「稼動原発ゼロ1年」達成
グリーンピースジャパン 2014年9月15日
http://www.greenpeace.org/japan/Global/japan/pdf/20140910nuke-zero_jp.pdf
とくに注目して欲しいのは「図1 日本の原発全48基の稼働ゼロの期間」です。昨年9月15日段階で作成されてものですから、今日現在ではこれに約11カ月強を足すことを忘れないで下さい。
これを見ると「すべての原発が4年間停止した状態」というのは正確性を欠いた言い方であることも分かるのですが、大飯原発3号機4号機をのぞけばすべて3年以上と言えばもう間違いはありません。
さらにすべての原発の非稼働年月を足し合わせて平均をとってみると、僕の計算で、この8月15日の段階で平均4年3ヶ月停まっていることが分かります。
すでに規制委から新規制基準への合格が出されてる高浜原発3号機が3年5カ月、4号機が4年、伊方原発3号機で4年4カ月停止中です。繰り返しますが今日現在の段階でです。
最も長く動いてないのは柏崎刈刃原発2~4号機でもう8年間も停まっている。ブルームバーグの記事で問題にされている年月の倍です。
重要なのはこの柏崎刈刃原発が世界最大の出力を誇る原発だということです。それが停まっているということは世界で一番ウランを消費する原発が8年間も動いてないことを意味します。
当然にもウラン燃料会社は困っている。このためアメリカのウラン濃縮企業ユーゼックが2014年3月に経営破綻しています。 ちなみにこの会社にも東芝は出資していました。
これらが示すのは日本の核産業だけでなく、世界の原子力村が日本の全原発の停止によって打撃を受け、崩壊しつつある現実です。日本でも東芝が焦げ付きを起こし、一方で三菱がアメリカで納入した蒸気発生器が事故を起こし、訴えられて大ピンチに陥っています。
この事実を作り出しているのは、私たち日本民衆の力です。私たちがすべての原発の稼働を停めてきたし、今も川内原発以外を停めていることがこのような事態に繋がっているのです。
こうした中で行われた4年以上停止した原発の再稼働は、瀕死の状態にある原子力産業を生き延びさせるための最後の一手とも言えるようなものです。だからこそ危険性をかえりみず、遮二無二行われていることを見据える必要があります。
このためもあって再稼働は巨大な危険性を抱えています。この点でぜひ再度、参照して欲しいのは、ここ数回にわたって文字起こしを掲載した後藤政志さんと僕の対談です。(8月14日)
僕は後藤さんに、ブルームバーグの記事踏まえて、4年間も停まっていた原発を動かすことは技術論的にどういう意味を持つのか後藤さんにお聞きしました。その回答が以下の内容です。
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当然ですけれども、そもそも停まっているプラントを立ち上げるということ自身が、ある種のトライなのです。ものが壊れている可能性もあるし、ミスってバルブを開け忘れている可能性もある。
スリーマイル島事故などはそうですからね。点検の時に給水ポンプのバルブを開け忘れたのです。それで立ち上げてしまって事故が起こってしまった。そういうリスクもあります。だから立ち上げるときはそれなりの緊張感があるのです。
さらに今、おっしゃったように4年も停まっていると、結構、長いので、プラントの水が溜まっているところ、つまり水が普段、流れているところと溜まっているところがあって、場所によっては腐食環境になりやすい。
そこで4年も淀んだまま腐食が進んでいることがないとは言えません。そうするとそれをきちんと検査をしたのかということになります。
建前は検査をやることになっているのだけれど、実際にはすべてが検査にかかるとは限らない。実際には欠陥とかあったときに運転してみて、「ボン」となって慌てて欠陥が分かるということもあるのです。
美浜の3号機で昔、タービンのところの配管が切れたのがそうです。厚さ10ミリのものが1.4ミリまで減っていた。そこに流れが当たってぐっと力が生じたときに破裂したわけです。
普通は「10ミリあるものが2ミリ以下に減ってくるまで気が付かないことがあるのか」と思いますよね。でも現実にはそういうことがある。管理が間違っているということなのです。
物事を「建前としてこうあるはずだ」と考えていると事故というのは分からない。事故と言うのはそういう形で起こるのです。そういう潜在的な欠陥が生じやすいのが4年です、ということになります。
福島原発事故からつかむべきこと
2015年8月14日 後藤政志&守田敏也 対談 東京品川にて
https://www.youtube.com/watch?v=TKJNkgNOgaI&feature=youtu.be
当該内容は9分23秒ぐらいから。文字起こしでは以下の記事に掲載
明日に向けて(1124)川内原発再稼働の危険性と「過酷事故」の曖昧化の問題
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/6e90c7394a36315234d435aeb267da78
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前回の記事「明日に向けて(1127)」で、僕はこれまで加圧水型原発が、主要には「蒸気発生器」という大きな欠陥を抱えており、深刻な事故やトラブルが繰り返されてきたことを指摘しました。
またこの蒸気発生器や一次冷却水の配管の点検などに力を奪われることから、二次系統の点検がおろそかになり、美浜3号機で配管が切れて、5人の死者が出る大惨事になったことも述べましたが、その点をここで後藤さんも指摘されています。
後藤さんは「建前は検査をやることになっているのだけれど、実際にはすべてが検査にかかるとは限らない」とも述べられたのですが、今回、21日に発覚したトラブルは約8万本もあってサンプル検査しかできてない復水器の配管あたりで起こりました。
もともと配管が長くて複雑で十分に点検しきれない加圧水型原発が4年も動かすことができてなくて、あちこちに腐食が進んでいる可能性が高いのです。今回その一部が発覚したわけですが、今後、さらなるトラブルが起きる可能性が極めて高い。
今回も後藤さんの指摘があまりに的確で予言のようでしたが、もちろん後藤さんが超能力を持っているわけでもなんでもなくて、これは、純技術論的に考えれば当たり前に出てくる推論なのです。
繰り返しますがそれほどに長い間、停めておいた原発の再稼働は危険性に満ちています。また加圧水型原発には、蒸気発生器の欠陥ほか、固有の弱点=危険性を持っており、しかも過酷事故に、沸騰水型原発よりもなりやすい構造も持っています。
私たちは何よりもこの危険性についての認識をもっと大きく広め、小さなトラブルの発生の段階で、原子炉を停止すべきことを強く訴えていく必要があります。
同時に九電が無謀な延命策に走っていることを踏まえ、万が一にも大きな事故が発生した時のことを考えての事故対策を個人的にも共同体的にも重ねるべきことを訴えたいと思います。川内原発再稼働の危険性ときちんと向かい合いましょう!