守田です。(20170602 17:30)
5月30日に、アメリカスリーマイル島原発の閉鎖が、所有者のエクセロンから発表されました。同原発は1979年に2号機が大事故を起こしたものの、1号機が運転を続けていましたが、今後、米政府による特別の支援等がない限り、2019年9月30日までに閉鎖されるのだそうです。理由は採算悪化だとされています。シェールガスの価格低下などを背景に電力市場で苦戦が続いてきたことが、エクセロンから明らかにされており、報道各社もこの点のみを伝えています。
実際にはシェールガスの豊富な供給だけが原因なのではありません。むしろ福島原発事故後の世界的な脱原発運動の発展の中で、世界中の規制当局が規制基準をあげざるを得なくなり、どこでも採算割れを起こしていることこそが本質的な要因なのです。要するに原発は安全性を少し深く考えたらそれだけでもう採算に合わないしろものなのです。アメリカだけではなく世界各地で同じようなことが起こっています。危険性の固まりである原発にもはや未来などないことを私たち民衆の脱原発運動が突きつけているのです!
アメリカの規制当局は、とくに真っ先にこうした要求を取り上げざるを得ませんでした。なぜか。「アメリカの規制当局が日本よりましだから」という論調もありますが正しくはありません。そもそもアメリカ国内には、福島第一原発で次々とメルトダウンを起こした「マークⅠ」型格納容器を使った原発がたくさんあることのです。しかもその上、これまでのアメリカでの試算では、そのマークⅠ型原発=沸騰水型原発よりも、加圧水型原発の方が事故の可能性が高いという統計が出ていたのです。そのため沸騰水型にとどまらず、すべての原発の対策強化が求められたのでした。そもそも1979年に大事故を起こしたスリーマイル島原発も、沸騰水型ではなく加圧水型です。
このため2012年3月にアメリカ原子力規制委員会から、安全対策強化に向けた指令が国内全原発の所有者に対して出されました。内容は(1)複数のユニットの事故も想定し設計基準を超える事故に耐えられる自然災害対策を行う。911事件以降に各原発内に配備して来た仮設の電源やポンプなどをさらに強化する。(2)使用済み燃料プールに水位計を設置して水位監視を強化する。(3)マークⅠ及びマークⅡ型格納容器に関しては、格納容器ベント系統を強化し、過酷事故でもベント弁を確実に開放できるようにする。というものでした。
これとともに「情報要求文書」の提出も義務づけられました。そこでは以下の評価や解析が求められました。(1)最新の知見を用いて地震と洪水リスクの評価を行う。(2)地震と洪水に対する対処能力について現場での詳細な検査を実施する。(3)複数ユニットでの過酷事故に対応できる人員配置と情報伝達に関する評価を行う。僕自身はこれでもまだ足りないというか、原発はそもそも安全性の面では完成などしようのないテクノロジーなので、こうした対処でも安全性は確保できず、廃炉以外に道がないと思っていますが、ともあれこれらによって安全対策のためのコストが大幅に上がったことはよく分かります。
さらにこうした対処にバックフィット制度が適用されたのも大きなことでした。この点は日本の規制当局も「新規性基準」において採用したのですが、通例さまざまなプラントの規制は、建設された当時のものを満たしていればよく、新たに加わった規制が過去にさかのぼって適用されることはまれだと言えます。しかし危険性の大きな原発ではそんなことを言っていたら恐ろしいわけですから、上記の指令が新たに建設する原発だけでなく、過去に作られた全ての原発にも当然のこととして採用されることになったのです。そしてこのように新たな知見を採用して安全対策を重ねたら、どんどんコストが上がってしまい、そこにシェールガスの価格低下が相まって、まったく採算があわなくなってしまったのでした。これがスリーマイル島原発が廃炉になる理由ですが、当然にもこれは他の原発にも共通する問題です。このためアメリカではこのところ原発廃炉が続いているのです。
東芝の大崩壊もこのことと大きく関連しています。福島第一原発事故時に東芝は、子会社のウェスチングハウス社が6基、東芝本体が2基の原発を受注していました。しかしどの原発の現場でも建設費が高騰しはじめました。アメリカの資本主義は新自由主義のなかで情け容赦のない儲け主義体質を極めてきていますから、すぐに高騰したリスクの押し付け合いがはじまり、訴訟の泥沼が現出。現場の作業も遅れるばかりでさらに建設費があがるという悪循環のスパイラルにはまってしまいました。
一方で東芝本体が受注した原発(サウステキサスプロジェクト)は、GEの技術を元にマークⅠ型原発を手がけて来た東芝本体による設計だったため、即刻、資金の大半を供出していた電力会社が逃げ出してしまい、計画が頓挫してしまいました。しかし自分に都合の悪い事態を直視できなかった東芝は、もはや幻となった計画への新たな出資者が現れるのを待ち続け、あたら無駄な出費を拡大し、年々、傷口を拡大して、崩壊の要因の一つを形成してしまったのでした。そもそも東芝は福島第一原発事故を起こした責任企業そのものでありながら、自らの責任を捉え返すまっとうな視点を持てなかったために、崩壊へと突き進んでしまったのでもあります。スリーマイル島原発の閉鎖の報も、こうした流れの中で必然的に出て来たことであり、今後、アメリカのみならず、世界各地で原発の閉鎖が確実に続くのです。ここには原発に将来的展望などまったくないこと、民衆の脱原発の声が歴史を変えつつあることがはっきりと現れています。
このことは、都合の悪いことはなんでも無視して突っ走って来た安倍政権にとってもかなりの大ピンチなのです。原発は投資すればするだけ損益を拡大するしかないどうしようもないものになってしまったことが明らかだからです。にもかかわらず安倍政権は相変わらず東芝と同じ崩壊の道を歩んでいます。しかも自ら「トップセールス」と銘打って旗ふりして来た原発輸出路線の頓挫に変えて、強引に各原発の再稼働を強行し出しましたが、現実を直視できないものにけして未来はありません。世界の流れは明らかに脱原発なのです。
実際に台湾では完成目前の第4原発(通称日の丸原発)が凍結され、新政権で鮮明に脱原発が打ち出されました。日本が官民一体の売り込みをかけてきたベトナムも昨年暮れに輸入計画を白紙撤回しました。台湾もベトナムも世界の趨勢の中から原発推進がまったく国益にならないことをつかみとったのです。これらのことからいま、世界中で原発計画に大きな動揺が走っています。
みなさん。いまこそ正念場です。脱原発の流れをさらに確かなものにするために、奮闘を続けましょう。核のない未来に向けて歴史は大きく動きつつあります!
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原発講演会「大きく拓けてきた脱原発の展望を語る」。原発メーカー東芝が崩壊!どうなる?トルコへの原発輸出‥高浜原発は? 脱原発の可能性を世界的視点から展望します。午後2時からJR城陽駅そば鴻ノ巣会館ホールにて。入場無料。主催は原発ゼロをめざす城陽の会。http://www.geocities.jp/genpatudame/
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