明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1248)なぜ大地震に襲われる前に川内原発を停めるべきなのか

2016年04月20日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160420 23:30)

熊本・九州地震が拡大を続けており、収束の気配が見えません。
(注・政府はこの地震を「熊本地震」と名付けていますが、すでに九州全域で震度1以上の地震が繰り返し起こっていること、その中で鹿児島の川内原発の運転継続があまりに危険であることを踏まえ、ここでは「熊本・九州地震」と呼ぶこととします。

19日夕から夜にかけて熊本県八代市で震度5強や5弱の地震が観測されました。活動範囲は布田川(ふたがわ)断層帯と日奈久(ひなぐ)断層帯の一部です。
14日午後9時代の「前震」、16日午前1時代の「本震」のあった地域から南西方向にあたります。地震活動はいっこうに収束する気配がないと気象庁が発表しており、南西方面でもより大きな地震が起こる可能性があります。

またこの「前震」と「本震」の時に、熊本県益城市では双方ともに震度7が観測されたことが分かりました。また16日には震度7は西原村でも観測されました。
同じ地点で震度7以上の地震が2度起こったのも、同時に2か所で震度7が記録されたのも、観測史上、始めただそうです。14日午後9時26分の震度7から、20日午後6時までに観測した震度1以上は706回。これもまた過去最多のペースです。

このようにこの地震災害は「観測史上初めて」のことが大きく重なっていることが一つの特徴です。
今回の「本震」の北東方向、中央構造線の上には伊方原発があり、南西方向には川内原発がありますが、地震がそちらに向かいつつある兆候が見られるものの、何が起こっているのか、これまでの知見ではつかみ切れていないのが現実です。
地震に人間の知力がまったく追いついていないのです。だからこそ、川内原発が巨大地震に見舞われることもありうることを考えて、川内原発を即時停止させることが必要です。

ところがネット上に、「原発は停めるべきではない」という意見が幾つか散見されます。
根拠として電力が足りないことと、運転停止しても原発が熱を持ち続けるので、今、停めても意味がないことなどがあげられていますが、どちらも大きく間違っています。
さらに今、停めると電源が足りなくなって原発がメルトダウンしてしまうという荒唐無稽な論も出ているようです。今回はこれら点にきちんと反論しておきたいと思います。

1、原発を停めても電気は十分に足りている!

まず原発が停まったら電力が足りなくなるというのはまったく事実ではありません。
そもそも現在起きている停電は、発電所の問題ではなく、送電線の切断などが原因で起きているものです。電気が足りないのではなく届いていないのです。こんなことは調べれば誰にでもすぐに分かります。

この点についてはFacebook上で鎌仲みとみさんがいち早く反論を行っていたのでご紹介しておきます。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=10206542002373481&set=a.2509755187894.2111254.1373542493&type=3&theater

そもそも原発は安定性の低い電源なのです。何かトラブルがあると危険性が高いのですぐに停まってしまいます。そもそも基本設計は何十年も前のもので多くがポンコツですから、トラブルが多いのです。
このため原発はバックアップ電源としての火力発電所をそれぞれの近くに持っているのです。だから日本中の原発が停まっても、この国は、まったく、何も、困らなかったのです。

福島原発事故以前は、原発が無くなると化石時代に戻るかのような言説が飛び交っていましたが、それどころか原発が停まっている間に株価は上がり続け、アベノミクスの大成功が喧伝されていました。
ただしこれは問題の多い経済政策で演出された株価上昇でしかなかったし、しかもこの間、貧富の差が開き続けたので、「経済が順調だった」とは全く言えないのですが、それでも原発の稼働と経済が実は連動してないことは明白です。
皮肉なことに、むしろ昨年の夏に川内原発が動きだしたころから、株価は落ち初め、安定性を失って激しく乱高下し続けています。もちろんそれも原発の稼働とは関係ない。いずれにせよ、電気はいつも足りていたのです。

同時にもっと大事なことは、人口密集地から遠く離れた過疎地に原発を作り、そこから高圧電線で電力を供給している今のあり方こそが、地震災害などが多いこの国のあり方に不向きだということです。
もっと発電設備を小さく多く分けていくことが必要です。そもそも送電の間に失う電力ロスも大きいので、その方が経済的にも合理的であり、なんといっても災害に強くなります。

2、地震の恐怖はスクラム(緊急停止)が間に合わなくなり、壊滅的な被害が出る可能性があることにある!

二つ目になぜ地震の前に停めておくべきなのかと言えば、大きな地震に原発が直撃された時に、原子炉の安全停止ができなくなる可能性があるからです。これが最も恐ろしい。本当にものすごく恐ろしい。
原子炉の中では中性子が飛び交ってウランの核分裂が連鎖的に行われています。運転を停めるときには燃料棒の間に「制御棒」を差し込みます。ホウ酸など中性子を吸収する物質でできていて、これで核分裂の連鎖が止まるのです。
加圧水型原発の場合は、上からこの制御棒が降りてくる仕組みになっています。それ自身の自重をバネなどで支えているのですが、これを外して差し込むのです。

緊急時の停止は「スクラム」と言われていて、一気に制御棒を差し込むのですが、怖いのはこの時に大きな横揺れが起こっていると、うまく制御棒が入らなくなる可能性があることです。
これに大きく関わってくるのが「基準地震動」です。設計上、どれぐらいの揺れにまで設備が耐えられるかの基準値で、地震がこれを超えた場合、制御棒がうまく差し込めず、スクラムが働かない可能性があるのです。
では川内原発の基準地震動はどれぐらいなのかと言えば620ガルです。ところが今回、益城市では14日の「前震」のときになんと1580ガルの揺れを記録しているのです。基準地震動をはるかに上回っています。

福島原発事故でもこのスクラムの失敗という最悪の事態だけは免れ、ともあれ核分裂反応を停めることはできたのです。
しかし同じように次もうまくいくとは限らない。そもそも福島原発を襲った地震は、直近でのものではありませんでした。それでも大規模な配管切断が起こってメルトダウンした可能性が高いのですが、ともあれ制御棒だけは入った。
これに対して川内原発の近くで断層が大きくズレる地震が起こって重大事故にいたったら、今度は制御棒が入らないかもしれない。そうしたら福島原発事故のレベルではまったくすまなくなります。

原子炉を停められないまま出力が一気に上がって原子炉が吹き飛んでしまったら、福島原発事故とはけた違いの量の放射能が飛び出してしまいます。繰り返しますがけた違いの量です。
しかも悪いことに川内原発は沖縄などをのぞいた日本列島の最も西にあります。その上を偏西風が吹いているので、台風が辿るのと同じように、放射能が列島を総なめしていく可能性があります。
海に落ちた放射能は、黒潮や日本海流に乗って、日本列島を取り巻くように流れる可能性があります。まさに日本壊滅の恐れがあるのです。

だから絶対に今、停めなくてはならないのです。何せ観測史上、初めてのことが直近で起こっているのです。震度7という大地震が2回も起こったり、本震だと思った地震の直後にもっと大きな地震が来たりしているのです。
なぜ安倍政権はこんなに危険性があるのに停めようとしないのでしょうか。理由は単純で、反知性主義の道を歩む安倍首相とスタッフたちには、もはや自分に都合の悪いことを感知する能力がなくなっているからです。
このような、あまりに無謀で、愚かで、命を軽視している首相に、災害対策を任していたら危険すぎます。日本壊滅の可能性をなくすために、なんとしても川内原発を停める必要があります。

3、崩壊熱は急速に下がっていくので早く停めればそれだけ危険性を下げられる!

次に原発を停めれば破局的な爆発の可能性はかなり低められますが、しかし確かに停まってもそれですぐに安全になるわけではありません。
問題は二つあります。一つに原子炉内の核燃料が崩壊熱を出し続けることです。またこのために運転が終わった核燃料をプールに入れて冷やさなくてはならないのですが、そのプールが構造上、極めて脆弱なため、危険性に満ちていることです。
ただそれでも大事なポイントは崩壊熱が当初は急速に下がっていくことにあります。

この点については東京電力が提出した実際の資料を参照しましょう。
2011年5月26日に提出されたものですが、これを見ると崩壊熱は、原子炉停止後にまずは急速に下がり、時間と同時に下がり方が遅くなって、なかなか下がらなくなる曲線を描いていることが分かります。

 炉内燃料の崩壊熱
 東京電力 2011年5月26日
 http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/images/handouts_110526_01-j.pdf

何故なのか。この熱の正体は、炉内にある放射性物質が、それぞれに放射線を出して違う物質に変わっていく「崩壊」という過程で出るものだからです。そのためこの曲線はそれぞれの物質の半減期に規定されるのです。
当初、炉内には半減期の短いものがたくさんあり、単位時間当たり猛烈な量の放射線が出ます。だから熱も極めて高いのです。
しかしどんどん半減期の短いものが減衰していくため、熱量が急速に下がっていくのです。しかしある程度立つと、今度は半減期の長いものしか残らなくなるため、放射線の出方が比較的ゆっくりになり、熱の下がり方もゆっくりになるのです。

このため原子炉を停めてから時間が経てば経つだけ、原子炉の安全性は増します。とくに最初の数日間ほど、急速に熱量が減りますが、恐ろしいのはこれですからきるだけ少なくした方が良いのです。これこそがメルトダウンを引き起こすのですから。
もちろん熱量は非常に長い時間が経たなければゼロに近づきませんから、冷却は延々行っていかなくてはなりません。そこに原発が停めたあとも危険な理由があります。
しかしそのリスクの度合いは、停めた直後から急速に下がっていくので、停まってからの時間が長ければ長いだけ危険度が低くなるのです。

ただしもちろんリスクはあり続けるのですから、早く解体してしまうことこそが肝心です。そのためにもうこれ以上、運転して熱量が高くリスクの高い使用済み核燃料を増やさないことこそが核心です。
その点で伊方原発は停まってから長く経っているので、崩壊熱自身はかなり下がっています。同時にそれは放射能量の総量が低減していることも意味しています。だから伊方原発は川内原発と比べれば危険度ははるかに低いのです。
しかもそれでも放射線を出し続け、熱を発している物体が、脆弱なプールの中に沈んでいるのですから、危険性があることは間違いありません。だからこそ早く燃料をプールから降ろし、安全度を高めることこそが必要なのです。

続く

次回に「原発を停めると電源がなくなって原発の冷却自身ができなくなり、メルトダウンを招いてしまう可能性がある・・・という荒唐無稽な論にも反論したいと思います。
同時に燃料プールの抱えている構造的な問題、とくに実は当初の設計仕様を無視して、核燃料の間を詰めてしまう「リラッキング」という無茶が横行しており、それが危険性を高めていることも論じたいと思います。

コメント (2)
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