守田です。(20150529 09:30)
一昨日の続きです。(上)の内容をしっかりと頭に入れてはじめて外部被曝と内部被曝の違いが見えてきます。
外部被曝は人体の外から放射線に当たることですが、α線は空気中で40ミリしか飛ばないし、紙一枚で隔てられてもその紙を激しく分子切断してそこで止まっているので、滅多なことでは外部被曝しません。
β線の場合は、ものによって違うもののセシウムの場合だと1メートルは飛ぶので、地面に近いところでは外部被曝します。一番、被曝しやすいのは足の裏です。足の筋肉などもに当たります。しかしその場合も最大で1センチぐらいしか入ってきません。
このため外部被曝でもっぱら当たるのはγ線だと言えます。β線の場合、足への被曝や地面にしゃがみ込んだときの生殖器への被曝の危険性などは無視できませんが、しかし他の臓器で考えると外部被曝することはまれです。
γ線は身体の内部のどこにでも当たります。空気中でも長い距離を飛ぶし、遮蔽物もすり抜けてしまうことが多いので、どこから飛んで来てもあたりやすい。
これに対して内部被曝は、これらの放射線を出すもとである放射能を体内に入れてしまうのですから、すべての放射線に当たります。
しかもα線やβ線はすべてのエネルギーを身体の中で使い果たします。α線は40マイクロメートルの球状に放射され、その部分で激しく分子切断を行います。被曝のあり方がきわめて集中しています。
β線の場合も約1センチの球状に放射され、α線ほどではないものの、激しい分子切断を行います。この場合も身体の外までは出てくることがなく、外から測ることはできません。
γ線も球状に放射されますが、繰り返し述べてきたように体内でエネルギーを使い果たさないので外にまで出てきます。ちなみにこれを外でキャッチして、人体内部にある放射能の量を類推するのが「ホールボディカウンター」です。
このため同じ量の放射線微粒子からの被曝では内部被曝の方が圧倒的に危険であることが分かると思います。外側からだとγ線が主に当たることに対して内側からだとα線、β線、γ線のどれにもあたるからです。
ちなみにこの3種類の放射線を同時に出すものはなくて、α線とγ線、β線とγ線という組み合わせが多いですが、いずれにせよ内部被曝の方がずっとあたりやすいことは明白です。
さらにγ線をみてもやはり放射状=球状に発せられるわけですから、外からあたる場合はその一部に被曝するのに対して、内側からはすべてに被曝することになります。同一量の微粒子からのγ線の被曝量も内側からの方が圧倒的に多くなるのです。
重要なのはこの先です。外部被曝と内部被曝では人体への当たり方の具体性も違うということです。
外側から飛んでくる主にγ線にあたる外部被曝では、放射線に晒された部分に均等に当たります。そのため被曝のあり方はまばらになります。ところが内部被曝では身体の一点から放射状に被曝が起こり、α線やβ線の場合はごく小さい地域への被曝となります。
この被曝の具体性の違いが、人体の回復力を大きく左右することになるのです。
私たちにとってDNAは命の鎖であり、まさに生命線です。このため人間や霊長類はDNAが切れた場合にもう一度つなぎ直す高い修復力を持っています。あらゆる生物の中でも最もその力が強いと言われています。
切断されたDNAのつなぎ直しが可能なのかどうかは、切断が二重の鎖で構成されているDNAの1本だけなのか、二重切断になっているのかなど被曝の具体性によって大きく変わってきますが、α線の場合にはもっとも回復の難しい集中的な切断がなされてしまいます。
つまりα線は電離作用が強いだけでなく局所を集中的に襲うことからも生命体にとって脅威なのです。β線はこれにつぐ密集力をもっており、一番、被曝がまばらになるのがγ線です。
つまり大事なのは、人体にあたった放射線のエネルギーが同じであっても、被曝の具体性によってダメージが変わってくるということです。
まったく同じ力でダメージを与えられても、局所的に与えられるのか、全身に均一に与えられるのかによって被曝のあり方、人体のダメージのあり方、修復の可能性に当然にも大きな開きが出るのです。
この点でも、密集被曝となる内部被曝は外部被曝よりも激しいダメージをもたらすのです。
ここまでのことを踏まえた上で、押さえておきたいのは、放射線の人体へのダメージの国際的な基準を出している国際放射線防護委員会(ICRP)が、被曝のこの具体性をまったく評価しようとしていないことです。
実際の被曝のリアリティを見ることなく、被曝をせいぜい臓器ごとの被曝に還元してしまいます。その場合も臓器の一部に集中的にあたったのか、それとも臓器に均一にあたったのかなどの具体性を無視しています。
その上で被曝が人体にあたった放射線のエネルギー量だけに還元されてしまうのです。こうなると集中被曝によって生じる具体的なダメージが、まばらな被曝によるダメージと変わりないものにされてしまい、被曝被害が過小評価されてしまいます。
しかもICRPは、臓器ごとの被曝を一見、考慮しているように見えながら、その実、がん死亡率だけを放射線のリスクと考え、それぞれの臓器に恣意的な係数をかけて被曝を評価しています。
「組織加重係数」というものがその場合の係数ですが、全身に放射線があたったとき、各臓器にどれだけのリスクがもたらせられるのかを係数にしています。これをかけて被曝を評価したものが「実効線量」と呼ばれています。単位はシーベルトです。
この点、多くの方が取り違えていますが、シーベルトは身体にあたった物理量ではないのです。人間が恣意的に判断した係数が加味されているからです。それを客観的な物理量かのようにICRPが扱っていることも、科学からの逸脱と言わざるを得ない点です。
「組織加重係数」についてはあらためてじっくりと批判を行わなければなりませんが、例えば一つのポイントを紹介すると、心臓の係数が大変小さく見積もられています。放射線の被害をガンに限定しているからです。
しかもこうした結論も、心臓の被曝を具体的に観察した科学的知見から導き出したものではないのです。心臓の被曝の具体性についての研究など実際にはないに等しい状態です。ガンのみをリスクに取り上げるために心臓のリスクは非常に小さく見積もられてしまっているのです。
実はここにも国際放射線防護委員会(ICRP)の非科学性が浮き彫りになっています。組織加重係数は恣意的に決められたものであって、内臓の被曝の丹念な研究に基づいた実証的なデータではありません。
いやもっと重要な問題があります。そもそも内部被曝の実相は現代科学ではほとんど把握できないのです。
放射能は身体の隅々にまで運ばれていきます。ヨウ素は甲状腺に、ストロンチウムは骨髄に集まりやすいですが、それとても100%がそうであるわけではありません。体内に入った放射能がどこでどのように被曝を与えているかを把握するのは極めて難しい。
しかもガン退治のための医療的な放射性ヨウ素の投入ならまだしも、核事故による被曝においては、放射能そのものがどのような形状で飛散し、身体の中に入ってきたのかをつかむことそのものが困難です。
例えばセシウムの場合でも、水溶性の化合物となっているのか、非水溶性なのかによって、身体の中への滞留の仕方がまるで変わってきます。
あるいはある放射線微粒子の中にいったいどれだけの核種が混ざり合わさっているのかを捉えるのも極めて困難で、現代科学の最先端でようやく解明されつつあるところです。
ようするに内部被曝はその具体性をつかむことがもともと極めて困難なのです。
肝腎なことは、それでは内部被曝に対する管理値を設けることができないことです。とてもではないけれども、ここまでは安全などという言うだけの科学的根拠を導出することなどできない。
しかしそれでは被曝管理ができないので、放射線防護体系が作れません。そのために核推進派は、あたかも内部被曝を「分かったかのような」顔をしてきたのです。そう言わないと核産業が成り立たないからです。
事実はこれまで見てきたように、内部被曝は、単一の核種を使った限定的な医療使用以外ではとても管理できません。だから被曝防護も成り立ちません。そのため、放射能漏れを必然として伴う核産業は禁止されるべきなのです。
以上が内部被曝問題の核心です。
そのことを解明する糸口として「透過力」問題を把握し、核のない世の中をへのアピールに役立てて欲しいと思います。
終わり
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高槻・市民放射能測定所開設2周年 ”内部被ばく”を考える講演・学習会
日時:2015年5月31日(日)13:30開場 14:00開始~16:30終了予定
場所:本澄寺
参加費:500円(資料代)※避難者・被災者無料
福島第一原発事故の発生から4年あまりが経過しました。
事故収束の見通しが立たない中、一般食品は上限100Bq/kgまで流通が許されるなど、内部被ばくを軽視した政策がとられ続けています。
政府にはこのような甘い基準の撤回を求めるとともに、内部被ばくによる健康被害の拡大を防ぐために、市民自身が意識を持って生活を見直す必要があります。
高槻・市民放射能測定所は開設2年を迎えるにあたり、 今一度、内部被ばくについて考える機会を設けたいという思いから、講演・学習会を開催します。
プログラム
■14:00 高槻・市民放射能測定所より「測定所2年間の歩み」
■14:20 守田敏也さん講演 「内部被曝について」
主催:高槻・市民放射能測定所
〒569-0003 高槻市上牧町2-6-31 本澄寺内
ブログ http://takatsuki-sokuteisyo.blog.so-net.ne.jp/
申込み・問合せ先
電 話:072-669-1897(本澄寺)
090-1023-6809(時枝)
メール:hsnk@tcn.zaq.ne.jp
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