TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」133

2019年03月12日 | 物語「約束の夜」


彼女は歩く。

それは、ごく自然に。

北一族の村を、いつものように

買い物をするかのように。

「予定通りね」

横を歩く者に、そう呟く。

「今夜にでも京子を連れ出しましょう」

「判っている」
「時間を使いすぎたわ」
「急ぐのか」
「そう、耀に云われている」

「でも、美和子」

その者が首を傾げる。

「何やら横にいた北一族が厄介だ」
「ああ。あの守り役ね」
「チドリ、とか云っていたな」
「何よ」

美和子は云う。

「本気でこちらの相手になると?」
「注意すべき相手だ」
「まさか」
「お前は魔法は使えん」
「は?」

その言葉に、美和子は目を細める。

「当たり前よ、西一族なんだから。でも、狩りの技術で、」
「そう云う話ではない」

その者が云う。

「魔法を使う者同士の感覚だ」
「感覚?」
「そう」

その者が頷く。

「お前は判らないかもしれないが、魔法を使う自分が感じ取る」
「つまり?」
「単純に、相手が自分より強い魔法を使えるかどうか、判ると云うこと」

「へえ」

「おそらく、あの北一族は十分な魔法を扱う」

「・・・・・・ふーん」

美和子は、立ち止まる。

「だから何よ」
「美和子、」
「京子を裏一族の場所まで連れて行けば、こちらのものよ」

さあ、と、美和子は空を見上げる。
時間を確認する。

「あなた、感知魔法を使ってちょうだい」

美和子が云う。

「京子の居場所の確認を、」

「いや、それは必要ない」
「・・・・・・え?」

美和子は振り返る。

その声。

「ああ、京子の、」

チドリ。

ひとりだ。

杖を持っている。

辺りには、誰もいない。
何か見計らったように、ここだけの空間。

「あら、ひとり?」
「もちろん」
「ちょうどよかった。今から京子のところへ行こうと思っていたの」
「そうか」
「案内してもらえる?」
「まだ、早すぎるようだ」
「え?」

美和子と仲間は構える。

「お前たちには、」

何かの、力。

「これは!?」

魔法。

「少々、がっかりしたよ」

チドリの声が聞こえる。
けれども、もはや、その姿は見えない。

「いったい、何が起きているの!!?」

美和子が叫ぶ。

「もう、用済みだ」

大きな大きな力が、動く。

北一族の村の一角で。

けれども、この、瞬間のことを、

ここに住む北一族たちは、誰も、

何も気付かない。



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「約束の夜」132

2019年03月08日 | 物語「約束の夜」

彼らの思惑通りというのなら、
今、満樹達にも
危機が迫っているのでは。

「どうしよう」

手分けをして、と言い出したのは京子だ。

「みんなが危ない目に」

皆、北一族の村を離れて
あちこちに向かったばかりだ。

「追いかけて知らせなきゃ」
「落ち着け京子。
 それもはったりかもしれないぞ」
「で、でも。
 みんなが!!私のせいで!!」

「京子」

チドリが言う。

「耀らしき人物が谷に向かったと
 その情報を仕入れたのは俺だ」
「チドリ」
「責任は俺にもある」

それに、とチドリは続ける。

「満樹もツイナも
 耀だって、それぞれに実力はある。
 簡単にはやられないさ」

信じて、約束の日を待とう、と。

「……ヨシノも毒の専門家だもんね」
「そうそう」
「それにしても、ちょっと
 ぐちゃぐちゃしてきたわ~」

一度に沢山の情報が来て
何が何やらになっている京子。

「それならちょうど良い。
 はい、どうぞ」

チドリはとある家の前で立ち止まると
はい、と扉を開ける。

「えっと?」
「俺の家。
 お茶でも飲んで落ち着こう」
「あ、そうか。
 チドリは北一族だったわね。
 家も、そりゃそうか」

おじゃましまーすと
入っていく京子に若干の不安を覚えるチドリ。

「……京子、一応警戒しよう。うん」
「え?なに?」
「満樹の気持ちが分かるという話」
「んんん?」

「お茶を入れるよ」

「手伝わなくて良い?」
「それじゃあ、好きなカップを取って
 後は座ってて」
「はーい」

カチャカチャと食器の音が聞こえる中
京子は椅子に座り
ぼやーっと辺りを見回す。

兄の部屋に雰囲気は似ているが
置いてある品がシンプルで片付いている。
小物が多い京子の部屋とは大違い。

「どうぞ」
「わ、ありがとう」
「好みでミルクと砂糖を入れて」
「至れり尽くせり!!」

ん?と京子は首を捻る。
入れられたお茶は一杯のみ。

「チドリの分は?」

「ちょうどミルクが切れたんだ。
 買いに行ってくるから、好きにしていて」
「そんな悪いわ」
「どうせ必要な物だから。
 それと、俺が帰ってくるまで
 誰が来てもドアは開けない」
「はーい」

すぐ戻るから、と
チドリは出掛けていく。

1人残された京子は
ゆっくりをお茶を飲む。

「うん。あったまる」

カップを置き一呼吸。

少し1人で考える時間が欲しかった。
チドリも気を使ってくれたのだろう。
手伝いをしたとき、
ミルクがまだ沢山あるのを京子は見ている。

「1人だったら
 今頃大混乱だったわね」

チドリが側に居てくれて良かった。

兄の、耀のことは結局何も分からないまま。
それでもヒントのような物が
分かった気がする。

あとは、満樹達を信じて祈るしかない。

「みんな、どうか無事でいて」



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「約束の夜」131

2019年03月05日 | 物語「約束の夜」

「守り役、守り役って」

むぅっと京子が言う。

「子守かーい!!」

「あら、京子」

今それなの、と
美和子がぽかんとした顔をする。

「いや、京子。
 変な意味じゃなく、うーん。
 ナイト?騎士?みたいな」

チドリもよく分からないフォローに回る。

ははは、と
美和子が笑う。

「相変わらずね、京子。
 そういう所は結構好きよ」

もっと、
西一族の村に居た時に
話していれば良かった、と。

「良い事を教えてあげる」

チドリが渋い表情を浮かべ、
杖を握り直す。

「私達は、裏一族は」

パン、と
何かが弾けるような音がして
今まで辺りを覆っていた膜のような物が
ガラスのように散らばり落ちる。

「―――達を探しているの」

「え、美和子、
 ………いま、なに?」

辺りの景色が元通りになる。

「悪い、京子。
 術が解けた」

チドリが杖を構え直すが。

いつの間にか美和子は
チドリの魔法を破った仲間達と合流し
距離を取っている。

「その守り役は想定外だったわね。
 今日はここまで。出直すわ」

「待って美和子。
 まだ、聞きたいことが!!」

去り際に、ひとつ美和子は付け加える。

「京子さっきのはだめよ。
 子守扱いが不満なら、
 もっと上手に甘えなきゃ」


一瞬。
彼らの姿は見えなくなる。

あぁ、と京子はうなだれる。

「行っちゃった」

「大丈夫か京子」
「えぇ、ありがとう」

よし、と言って
チドリは辺りを見回す。

「あいつらは去ったが
 まだ追っ手が居るとも限らない。
 いったん移動しよう」

手を引かれ、
京子はその後に付いていく。

「そういえば、さっきの美和子の言葉
 聞こえたか?」

チドリの術が解けたあの時。

「少しだけ」
「美和子は何て?」
「私には、『子ども達』って聞こえた、けど」

京子は首を振る。

「肝心な所が分からなくて」

「子ども達、ね。
 京子や満樹を子ども達って言うのもおかしいな」
「子守りとかけてるのかしら?」
「悪かったって」

冗談よ、と京子は笑うが、
じわじわと元気が無くなり、
うつむいてしまう。

「京子?」

自分の手のひらを
京子はじっと見つめる。

「ねぇ、このアザ。
 生まれつきあるものなのよ」

さっき美和子は言っていた。

魔法で体に仕組まれた物だと。

「私達、
 一体いつから狙われていたの?」

生まれたその時から?

「私達、どこまで
 裏一族の思うように動かされているんだろう」




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「約束の夜」130

2019年03月01日 | 物語「約束の夜」


「何よ」

美和子が呟く。

「いったい、あなたは何? 京子にそこまでするほどの関係?」
「先ほども答えただろう。俺は京子の守り役だ、と」

京子はチドリを見る。

「ふん。守り役、ね」

美和子は、息を吐く。

「どうせ、この魔法が解除されるのも、時間の問題」

云いながら、美和子は、外の方を見ている。
おそらく
美和子の仲間・・・裏一族が外から解除試みているのだろう。

「そう簡単に行くかな?」
「裏一族をなめないでほしいわ」

裏一族の魔法技術は、常識の範囲を超えているとも。

「いいでしょ。そう時間はかからないわ」

美和子は、京子とチドリに向く。

「京子に、守り役さん。知りたいのね、耀のこと」
「もちろんよ!」
「耀の、一体何を知りたいの?」
「お兄ちゃんがどこで何をしているのかよ!」

京子は云う。

「美和子。この北の村で、お兄ちゃんと一緒にいたんでしょう!?」
「あら、それ知っているの?」

あははと、美和子が笑う。

「もちろんよ! この北での情報なんだから!」
「そりゃそうよね」

笑いながら、美和子は口元に手をやる。

「見られるように。あなたに情報が行くように、やったんだもの」
「・・・え?」
「耀と一緒に、この北を私が動いたこと」
「つまり」

チドリが云う。

「京子をおびき出すために?」

美和子は答えない。
ただ、笑顔のまま。

「でも、お兄ちゃんはそれから谷一族の村へ向かったって」
「そう情報が届くようにしたんだもの」

京子の目が見開く。

「そうすれば、あなたたち、別行動をするでしょ」

「・・・・・・」

「さっき聞いたわよね。ほかのふたりはどうしたの?」

「それは、つまり。満樹とツイナがここにいなくて、がっかりとか・・・」

「と、云うよりも、予定通り、力が分散して助かるわってこと」

「まさか・・・」

すべて

すべてが、裏一族の思い通り、とは。

「京子」

チドリが、京子の肩に手をやる。
頷く。

心配するな、と。

「チドリ・・・」

「せいぜい、がっかりした京子を慰めることね。守り役さん」

「がっかりなんかっ!」

京子は云う。

このチドリの魔法もいつ解除されるか判らない。

このまま、裏一族に襲われてしまうのか。
美和子をまた、逃がすのか。

「お兄ちゃんはっ、今っ」

「まあ、耀も忙しそうよ」

京子が云い終わる前に、美和子が云う。

「何に、とは云えないけど」
「忙しそうって・・・」
「目的のために、ね」
「お兄ちゃんは、今はどこに!?」
「さあ~、どこかしらねー??」

美和子は再度笑う。

「ねえ、守り役さん」

何かの音。

チドリは、あたりを見る。

「そろそろ、か」
「え、もしや・・・。解除?」
「大丈夫だって、京子。俺はお前の守り役なんだから」
「・・・チドリ」

「ねえ、京子」

美和子が一歩、下がる。

「ほら、手のひら」

「え?」

「気付いてはいるだろうけど、すごく大切な目印なの」

「めじる、し?」

「魔法で体に組み込まれた、アザ。だからね」
「魔法??」

京子は、思わず、自身の手のひらを見る。

「京子と一緒に来たんだから、アザがある者かと思ったけど」

チドリは目を細める。

「あなたにはないのね、守り役さん」
「何のことだ」
「ふふ」
「アザがあろうとなかろうと、俺は守り役として、京子を守る」
「あら。素敵ね」

美和子はさらに一歩下がる。
チドリは、杖を握りしめる。

・・・と云うか、

京子はひとり、思う。

さっきから連呼してる、その守り役って。

なんか、・・・ねぇ。



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