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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」27

2017年11月14日 | 物語「約束の夜」

飛鳥とその子ども達が眠りに就くと
南一族のその家は
やっと静寂が訪れる。

「いや、いびきがうるさい」

満樹は用意された部屋で
誰にでも無く一人呟く。

母親の弥生も子どもを
寝かしつけるため
横になって居るのだろう。

というか、
飛鳥、子どもの就寝時間と同じって。

満樹は窓から外を眺める。
雨は小降りになっている。

「………どうぞ」

そんな小さくなった雨音に紛れて
聞こえたノックの音に
返事を返す。

控えめな音はこの家の住人ではない。

「こんな時間に、ごめんなさい」

西一族の京子が
おずおずと顔を出す。

東一族を警戒してか、
部屋には入ることなく、探るように問いかける。

「あの、覚えて無いかもしれないけど、私」
「北一族の村で会った子」
「ええ、あの時はありがとう」

京子は安堵の息を吐く。

「お礼が言えて良かった」

気にすることは無いのに
律儀だな、と
満樹は感心する。

「それで、行くのか」
「……えぇ」

京子は荷物を抱えている。
とても
これから就寝するという格好ではない。

「出て行くなら、今しかないな」

現に、満樹も
同じ事をしようとしていた。

「ご飯、美味しかったし、
 一生懸命してくれて、いい人達ってのは
 分かっているのだけど」
「どうせそうやって
 出れなくなったんだろう。
 はっきり断らないと」
「いや、あなたこそ」

すごく、捕まっていたじゃない、と
反論する京子に満樹は笑う。

「満樹だ」
「京子よ」

「さ、行こう」
「家の人に、手紙は置いてきたわ」
「完璧だ」

入り口を静かに開け、
二人は外に出る。

「じゃあ元気で」
「どこに行くんだ?」
「美和子、宿屋に居ると思うのだけど」

来ないという連れの事だと
満樹は理解する。

それにしても
京子の所在は分かっているだろうに
向こうから探しに来ないというのも
気に掛かる。

「そこまで、送るよ」
「いいわよ」
「こんな時間だし、夜だ」
「……そう、だけど」

この雨の暗闇を
一人で進むのと
敵対している東一族に送って貰うのは
どちらが危ないのだろう、と考え

この人なら大丈夫かしら、と
京子は判断する。

「それじゃあ。
 お願いします」



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