TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」29

2017年11月21日 | 物語「約束の夜」

「どう、ですか!?」

京子はカウンターに身を乗り出して問いかける。

「うーん
 申し訳無いけれども
 美和子という名の泊まり客は居ないよ」

宿屋の主人は
難しい顔で答える。

「じゃあ、私の名前で予約は」
「それも無いねぇ」

この宿にも美和子は居ない。
京子はため息をつく。

「……三件目を探すか」

でも
今日はこの宿に泊まった方が良いと
満樹が言っていた。

悩んでいた所に
おや、と主人か問いかける。

「もう一件を見てきたのなら
 他は無いよ。
 この村には二件しか宿屋が無いからね」
「そうなんですか!?」
「宿じゃないなら
 村人の家に泊まっているのかもしれない。
 この村はおもてなしが大好きだから」
「あ、あぁ。なるほど」

先程までの記憶が蘇り、
妙に納得する。

宿ならともかく、
この時間に家を訪ねて回るわけにはいかない。

「仕方ないわね、こういう事情だし」

少し心配だが、今日はここで腰を落ち着けよう。

「えっと、それじゃあ。
 今から2名、泊まれます?」
「もちろん。
 お部屋を準備するよ」
「良かった~」

先に宿帳を書き込みながら
京子は首を捻る。

「えっと、まきって言ってたわね。
 まきってどんな字かしら?」
「お連れさん?
 なんだか東一族の様な名前だね」
「そうなの?」
「東一族は“樹”が付く名前が多いらしい。
 ……おっと、すまないね、西一族にこんな話」
「ふふふ、それが実は」

ざぁっと急に雨音が強くなる。

「わっ!!
 本降りになってきた」

いけない、と
京子は慌ててペンを置く。

「外で待たせてるの、
 もう1人を呼んでくる!!」
「ほら、これを使って」

宿屋の主人から
体を拭く布を預かり、
京子は宿の外に飛び出す。

「ごめんなさい、満樹!!」

元々灯りが少ない所に
雨が降り出し
視界が悪い。

京子は暗闇の中に満樹を探す。

「……え?」



NEXT