小雨。
暗闇の中を、京子と満樹は進む。
「場所は判るのか」
「ええ」
京子は頷く。
「大体の場所は美和子から聞いたから」
南一族の村の、広大な畑を通り過ぎ
中心部へと向かう。
少なくとも、そこに店や宿屋が集まっているはずだ。
が、
もちろん、夜中。
たどり着いても、ほとんどの店に灯りはない。
「南一族は早く寝るのか・・・」
満樹の呟きに、京子は続ける。
「朝の畑仕事のために?」
「ありうる」
「うちも、狩りの当番のときは早く寝るけど」
京子の言葉を、ふぅんと満樹は流す。
他一族の情報として、
出来るだけ、聞かないように。
「北一族の村なら、夜通し明るいんだが・・・」
「そうよね」
「・・・・・・」
「そんなに何度も、北に?」
「あなたこそ、・・・あ!!」
京子が指差した方を、満樹は見る。
宿屋。
「美和子!」
京子は走る。
満樹も追う。
が
京子が宿屋に入ったのを確認して、そこで立ち止まる。
待つ。
この宿屋に、連れがいたのなら、京子は出てこない。
それならばそれで、いい。
もし、連れが、東一族の自分を見たら驚くだろう。
場合によっては、
西一族から、京子は咎めを受けるかもしれない。
だから、満樹は宿屋へと入らなかった。
小雨が降る中、満樹は待つ。
「・・・・・・」
満樹は首を傾げる。
京子が、宿屋から出てくる。
「連れはいなかったのか?」
「・・・ええ」
「なら、ほかの宿を探してみよう」
満樹は歩き出す。
京子も続く。
小雨。
京子が呟く。
「美和子、どの宿屋にいるのかしら・・・」
その顔は不安げだ。
満樹は歩く。
少しずつ、歩みを早める。
「ねえ。どうしたの? 急ぎ足」
満樹は指差す。
「あれ、宿屋じゃないのか」
「本当だ!」
京子は満樹を見る。
「中を見てくる!」
満樹は頷く。
「連れがいるといいけど」
「ええ」
「もし、連れがいなくても」
満樹が云う。
「そのまま、その宿に泊まればいい」
「・・・え?」
「このままだと、雨が強くなるかもしれない」
「そう、か・・・」
京子は考える。
「じゃあ、あなたの部屋もないか見てくるわ!」
「俺は大丈夫だけど」
「見てくるから!」
京子は宿屋の中に入る。
満樹は、その姿を確認する。
小雨。
まだ、夜は明けない。
満樹は振り返る。
云う。
「そこにいるのは誰だ。なぜ付いてくる?」
ゆっくりと、誰かが姿を現す。
雨に紛れ
足音を消すように。
「お前、・・・」
誰かが云う。
「東の満樹、だな・・・?」
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