TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」189

2017年03月14日 | 物語「水辺ノ夢」

「圭!!」

杏子の声に、圭は辺りを見回す。
僅かな灯りに照らされているのは
見慣れた寝室。

「……え?」

杏子が心配そうに覗き込んでくる。

「うなされていたわ」

は、と圭は短く息を吐き、
首を振る。

「うなされていた?俺が?」

気が付けば全身に冷や汗をかいていて
辺りが寒く感じる。

「ええ、
 悪い夢でも見た?」

「何でもない。
 真都葉は?」
「大丈夫、寝ているわ」
「そうか」

圭は、寝ている真都葉を見つめる。
自分のせいで起こしてしまわなくて良かった。

近くのタオルで汗を拭くと、
もう平気だから、と
圭は杏子に言う。

「夜中にごめん」
「気にしないで。
 本当にもう、いいの?」

圭が頷くと杏子は、それなら、と
布団に潜る。

杏子の寝息が聞こえてくると
圭は、天井を見つめる。

眠れない。

あれは夢だったのだろうか。
そのはずだ、光は、
杏子の恋人は死んでいる。

現実味の無い世界だった。
けれど、どろどろと溶ける感覚や
光が言い放った言葉が
頭を離れない。

自分が、杏子を殺す、だって?

そんな事があるはずがない。

杏子や真都葉が何かをしたわけじゃない。
疑われているだけ。
これから何も起こさないように
静かに、過ごしていれば。
きっと、大丈夫。

本当に?

「……」

呼吸が乱れそうになるのを
圭は抑える。

悟は言っていた。
もう、遅いと。

いや、大丈夫。

鳥は、もう居ない。
圭が殺した。

殺した。

殺してしまった。

いつか、杏子も、同じように。

「……っ!!」

いけない。
発作を起こす。

久しぶりの感覚に背中を丸める。
口元に運ぼうとしていた手が
そっと握られる。

「圭、やっぱり」

杏子が圭の背をなでる。

「……杏子」

「大丈夫よ
 落ち着いて」

「杏子、ごめ」

「いいから、ゆっくり息をして」

圭は、呼吸を整えながら
添えられた杏子の手を握る。
大丈夫。暖かい。

あれは、夢だ。

圭は自分に言い聞かせる。



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「水辺ノ夢」188

2017年03月10日 | 物語「水辺ノ夢」

一羽の鳥がいる。

・・・あれ?

圭は首を傾げる。

あの鳥は・・・。

圭はその鳥に近付く。

周りには何もない。
木も草も、地面も、空も。
不思議なほどに灰色の世界。

けれども、圭は構わず進む。

「・・・・・・!!」

圭はその鳥を見て、息をのむ。

「お前、まさか」

真都葉が友だちと呼んでいた鳥。

圭が殺した・・・鳥。

鳥はただ、圭を見つめる。

圭は恐る恐る近付き、鳥を見る。
どこも怪我はしていない。

「・・・よかった」

安心感。
これで、真都葉に、・・・。

いや

これで、よいのか?
真都葉が喜ぶから?
もし、本当にこの鳥が、

「それ、」

突然、圭の後方から、声。

「俺の鳥なんだ」
「――っ!!」

振り返った圭は、思わず後ずさりをする。

「お前はっ」

圭は動悸を感じる。

そこにいたのは、

「俺が東で大切にしていた、鳥」

東一族の男性。

知っている。
この東一族が誰なのか、圭は知っている。

「・・・光」

杏子が東一族の村で暮らしていたときの、恋人。

圭は動悸を押えようとする。

いつの間にか、鳥は光の腕に止まっている。

「生きものを、安易に殺さないでくれないか」

光が口を開く。

「生きものの声が聞こえる者からすれば、悲惨でならない」
「光・・・」

圭はハッとする。

周りの景色が、どろどろと溶け出す。

あの鳥も。

光も。

「お前はそうやって」

いつか

「この鳥と同じように、東一族である杏子も殺すんだろう」

・・・殺す、んだろう。

圭は慌てて、手を伸ばす。

「待ってくれ!」

そんなはずはない!!

叫ぼうとしても、圭は声を出せない。

殺す?
俺が、・・・杏子を?

「光、待ってくれ!!」

伸ばした圭の腕も、どろどろと溶け出す。



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「水辺ノ夢」187

2017年03月07日 | 物語「水辺ノ夢」

「あまり勝手な事をするな」

村の中心部、広場の近くにある村長の家。
その一室に村長、補佐役、そして悟が居る。

「しばらく様子を見るつもりだったのだが」

村長は詳しくは言わないが
その場にいる皆が
何の事を言っているのか分かっている。

杏子の事。
東一族に通じているかもしれない鳥。
圭と杏子の間に生まれた子どもの事。

「もうそんな時期は過ぎたと
 俺は思っている」

悟は答える。

「もし、あの鳥が東一族に通じていたら、
 これ以上情報が漏れるのはまずい」

「確かにそうだが、
 何も今、西一族と東一族で
 争いが起こるわけではない」

何を焦っているのか、と
村長は問いかける。

「火種ならある。
 東一族の女がこの村に居る。
 それだけで十分だ」

いつ、何のきっかけで
諍いが起こるか分からない。
数十年前の対立も
小さないざこざが続くうちに
ある東一族の男が死んだ事がきっかけだと聞いている。

「捕らえられてすぐに
 返してしまえば良かったんだ」

だが、と補佐役が口を出す。

「あの女は
 西一族を探っているという
 疑いもあった」

「なら、すぐ殺すべきだった。
 あなた達は甘すぎる」

言葉が過ぎると言いかけた補佐役を
村長が制する。

悟は続ける。

「今の西一族は昔とは違う」

「違う?」

「狩りの一族とはいえ
 人を相手にしたことは無い。
 それに加えて、
 水辺を囲う一族の中で唯一魔法を使えない」


「今この水辺で最弱の一族だ」


だから、と悟は言う。

「村長はもう少し
 村を守る決断をするべきだ」

窓の外には、子ども達の遊び場が見える。
年寄り、子ども、狩りが出来ない者、
戦えない者も多い。

もしも、杏子が東一族に通じていて
攻め入られればあっという間だ。

家から出るなと言うのも
村の内情や主要な建物の位置を知るな、と
そう言う事にもなる。

「分かった」

村長はため息をつく。

「この件について何かしらの結論は出す。
 しばらく待て」

村長の言葉に悟は頭を下げる。

「逆に問うが」

去ろうとする悟に
村長は言う。

「もし、情報が洩れているのならば
 それを本人に知らせるのは
 逆効果じゃないか?」

そうだろう、と。

「お前は、猶予を与えてきた様にも
 見えるが」

悟は答えず、再度頭を下げて
その場を立ち去る。

残された補佐役は
村長に言う。

「甘いのはどちらですかね」



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「水辺ノ夢」186

2017年03月03日 | 物語「水辺ノ夢」

「杏子、雨よ!」

云いながら扉を開け、沢子は洗濯物を取り込む。

「沢子、ありがとう!」

杏子と沢子は、洗濯物を中へとしまう。
それが終わるころ、雨は本格的に降り出す。

「助かったわ」
「いいえ。ちょうど来たところだったから」
「沢子、このタオルを使ってちょうだい。お茶を淹れるわね」
「ありがとう」

杏子が台所へ行く。
代わりに真都葉がやってくる。

「さわこ!」
「真都葉、こんにちは」
「ちは!」
「あら?」

沢子はかがんで、真都葉をのぞき込む。

「目が腫れているわ」
「め?」
「泣いたのね」
「まつばないた!」
「哀しいことがあったのかしら?」

真都葉は沢子の言葉に頷き、台所へと駆けていく。

沢子は使ったタオルをたたむ。

「沢子よかったら」

杏子がお茶を持って戻ってくる。

「ありがとう」
「これは、昨日焼いたの」
「焼き菓子ね! 杏子上手だわ」
「これは砂糖菓子よ。食べてね」
「あら、うれしい」

杏子はポットからお茶を注ぐ。

「真都葉」

沢子は、杏子の後ろにいる真都葉に声をかける。

「いつものパンよ」
「わあ!」

真都葉は前へと出て、それを受け取る。

「あぃがとう!」
「どういたしまして」

杏子が云う。

「この雨、続くのかしら」
「通り雨みたいなものじゃないかしら?」

沢子はお茶を受け取る。

「夕方には止むと思うわ」
「あめおわるの?」
「そうね」

真都葉は、沢子のパンをちぎる。

「真都葉ったら」
「さわこのぱんすきー!」

えへへ、と、真都葉はパンをほお張る。

しばらく、杏子と沢子はおしゃべりをする。
その横で、真都葉は色紙を折ったりして遊ぶ。

「真都葉、それは何?」
「これね、お花!」
「上手ねー」

沢子は指をさす。

「これは何かな?」
「ふうせんなのー」
「へえ。こっちは?」
「へびー!!」
「蛇!!」
「こうしてへびさんはおそらをとぶのよー」
真都葉は風船と蛇を、ひもで結ぶ。
その様子に沢子は感心する。
「子どもの発想力ってすごいわね」

真都葉はにこりとする。

「そう云えば、真都葉」

お茶やお菓子がなくなったところで、沢子が訊く。

「お目目、どうして泣いたの?」

真都葉は顔を上げず、色紙を折る。

「・・・・・・」
「真都葉?」
「あ、沢子、」
「とうがね、まつばのとりさんやっつけちゃったの」
「え?」
「・・・・・・」

沢子は杏子を見る。

杏子は頷く。

「昨日、ちょっとね」

杏子は昨日会ったことを話す。

「そう」
沢子が云う。
「それで泣いたのね」
「とう、きらい」
「そんなこと云うの?」
「きらいだもん」
「そっか」
沢子は真都葉を見る。
真都葉は顔を上げない。
「お父さん、いなくなっても平気なんだ」
「それは、だめ」
「あら」
「きらいだけど、だめ」
「ふふ」
「・・・・・・」
「真都葉」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「どろのおばけ!」
「ええ!?」

真都葉は手元で折っていた色紙を見せる。
そして、その泥のおばけを、クレヨンで塗る。
茶色とか、黒色とか、紫色とか。

「ふうせんへびとまつばでやっつけるからね!」

「真都葉ったら」

杏子は吹き出す。

「そんな怖いもの、こんなところにはいないのよ」



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