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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」193

2017年03月28日 | 物語「水辺ノ夢」

誰かが外を歩いている。
ふと、聞こえた足音に
圭は顔を上げる。

作業小屋には圭が一人。
同じく小屋を使う村人は
圭とは時間をずらしているはずだ。

そうでなければ、
今日の作業はここまでだな、と
圭は様子を見る。

小屋の扉が開く。

「やはり、ここに居たのか圭。
 探していたんだ」
「………悟」

そうかもしれない、
ここ最近、圭は
悟に会わないようにと過ごしてきた。

「あれから、暫く経つが
 どうするつもりだ?」

思っていた通りの問いかけ。

圭はそれを恐れていた。
尋ねているのは杏子の事。

「鳥は、もう居ない。
 仕留めた」
「へぇ」

悟は頷く。

「圭がやったのか、感心だ」

「だから、もう」

もう、関わらないでくれ、
放って置いてくれ、と圭は懇願する。

「俺が独断でこんな話をしているんじゃないと
 分かっているだろう?」

悟の言葉は村人の代弁。

「じゃあ、どうしろと言うんだ。
 杏子を棄てろ?
 家から放り出せという事では無いのだろう」
「分かっているじゃないか」

物分かりが良いのは助かる、と
悟は言う。

「手を下したくないのか?
 まぁ、子どもの母親だしな」

簡単な事だ、と。

「もうあの女はこの村には置いておけない。
 殺せないというのなら
 山に棄ててくれば良い」

「獣が居る中に
 杏子を一人!!?」

「悪い話じゃないと思うぞ。
 殺すより生きる確率は上がる。
 身を守る武器ぐらいは持たせても良い」

「杏子は西一族じゃない、
 狩りなんて出来ない」

何を言っているのか、と
圭は声を上げる。が。

「あまり色々と言うな。
 子どもを見逃しているだけでも
 かなり譲歩していると思うが」

「なっ」

圭は目の前が真っ暗になる。
悟は、村人は、
真都葉さえ殺せと言っているのか?

「あまりお前が動かないようなら
 不満を抱えた村人が
 いつ、何をするか分からないぞ」

「…………そんな」

「東一族を棄てたのならば
 村人も納得する」

待ってくれ、と
圭は必死に弁明する。

「俺達は何もしていない。
 東にも通じていない。
 目に触れるなというなら
 家に籠もって過ごす、俺達は」

その様子に、悟はため息をつく。

「もし、その女が
 生きて帰って来られたら
 その時はもう咎めない、これでどうだ」

圭の返事を聞く前に
悟はそう言って、小屋を去る。



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