「お帰りなさい」
戻って来た圭と真都葉を、杏子が迎える。
「かあー!」
真都葉はニコニコとして、圭から身を乗り出す。
杏子は、真都葉を抱きかかえる。
「病院はどうだった?」
「せんせーにいろがみあげたのー」
「そう」
「せんせーよろこんでたのー」
「よかったわね」
杏子が笑う。
「先生は、痛い痛いはしたの?」
「してないよー」
「あら、診察はしてないのかしら」
「してないのかしら」
真都葉は杏子の言葉を繰り返し、下へと降りる。
持って帰ってきた色紙を、自分の箱の中に片付ける。
また、別の小道具を取り出す。
杏子は圭に向く。
「圭。高子は何と?」
「ああ、真都葉の怪我は心配ないみたいだ」
「よかったわ」
杏子は、真都葉の寝る支度をする。
「かあ、ごほんよんでー」
「そうね。どのご本にしましょうか」
「まつばこれね」
真都葉は本棚から、いくつか本を取り出す。
圭は、灯りを小さくする。
「さあ、真都葉、隣の部屋に行きましょうね」
「とう、やすみなさい」
「おやすみ、真都葉」
真都葉は手を振る。
圭は居間の椅子に坐ったまま、手を振り返す。
杏子と真都葉は、隣の部屋に行く。
杏子は、真都葉に布団を着せる。
「じゃあ、このご本からね」
「うん」
「昔々、水辺の真ん中には、・・・」
真都葉は本を読んでもらうのが好きだ。
寝る前は、必ず3冊は本を読んでもらう。
「水辺と山には大きな獣がいて、」
「けものこわいねー」
「そう?」
「まつば、みずべもやまもこわいよ」
「人と動物は仲良くなれるのよ」
「なれる?」
「お母さんが昔いたところは、人と動物が仲良しだったのよ」
「ふーん」
「さあ、これでおしまい」
「もいっこ、もってくればよかったー」
「また明日にしましょうね」
「はーい」
真都葉は、杏子を見る。
「かあ」
「なあに?」
「すてるのどうする?」
「え?」
「とうとせんせーが、おはなししてたの」
「真都葉?」
「すてるの、かなしいね・・・」
「真都葉・・・」
「みずべにも、やまにも、かいじゅーいるね」
「・・・・・・」
真都葉は、眠っている。
杏子は、真都葉を見る。
頭をなでる。
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