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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」191

2017年03月21日 | 物語「水辺ノ夢」

「高子の所まで話が来ているのか」

村人に疑心が広まっている。
あれは脅し文句では無かった。

もう、悟達を説得したら解決する話では
無くなっているのかも知れない、と
圭はため息をつく。

「圭」

高子が言う。

「もしかして、
 逃げることを考えている?」

圭は否定もせずに
高子を見つめる。

「……考えているのね」
「1つの手段だと思っている」

現状では、圭にはなんのつても無いが。

「おそらくあなた達は監視されているわ。
 村の警備が強まっている。
 特に湖の付近はかなり厳重よ」

高子は圭に言い聞かせるように言う。

「今、勢いで行動してはダメ。
 失敗したら、どうするの?」

そう言う意味では
西一族のしくみは上手く出来ている。

誰かが裏切る事が無いように。
それと繋がりがある者が
枷の役割をする。

もし失敗したら、
杏子だけではない。
圭も真都葉も殺されるだろう。

南一族の村に居る圭の両親や
兄の湶に至っては、
逃亡が成功しても失敗しても
どういう処分が下されるか分からない。

「湶の事、心配?」
「そういう話はしていないでしょう」
「……ごめん」
「誰か、信頼できる人に相談して、
 杏子にも何が起こっているか伝えるべきよ。
 何も知らないままでは」

は、と圭は薄く笑う。
皮肉気味に。

「杏子に?
 なんて言えばいいんだ」
「圭」
「お前を殺せと言われている、と!?」

「とう?」

「あ」
「真都葉」

真都葉が二人の側にいる。

「とう、ケンカめ、よ」

いつの間にか声が大きくなった圭に
真都葉が言う。

圭は真都葉を抱き上げる。

「ケンカじゃないんだよ。
 ごめんな」

真都葉は出来上がった色紙を高子に差し出す。
高子は表情を切り替えてそれを受け取る。

「せんせー、はい」
「あら、上手に出来たわね、男の子かしら」
「これね、おとも」
「お伴?」
「そう、まつばのともだちよ」

高子は真都葉を抱きかかえる圭を見る。
その手は震えている。

小さな声で、圭に向けて言う。

「そんな話になっているの?」
「棄てろ、と」

高子もため息をつく。

「一人で抱え込まない方がいいわ」

だから、どうすればよい、と
答えが出た訳では無い。

「心配してくれてありがとう」

圭は、診察室を出る。

夜勤なのか、医師見習いの男とすれ違う。
こんばんは、と
彼は声をかけるが、向けられる視線から真都葉を庇うように
圭は足早に病院を立ち去る。



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