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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」186

2017年03月03日 | 物語「水辺ノ夢」

「杏子、雨よ!」

云いながら扉を開け、沢子は洗濯物を取り込む。

「沢子、ありがとう!」

杏子と沢子は、洗濯物を中へとしまう。
それが終わるころ、雨は本格的に降り出す。

「助かったわ」
「いいえ。ちょうど来たところだったから」
「沢子、このタオルを使ってちょうだい。お茶を淹れるわね」
「ありがとう」

杏子が台所へ行く。
代わりに真都葉がやってくる。

「さわこ!」
「真都葉、こんにちは」
「ちは!」
「あら?」

沢子はかがんで、真都葉をのぞき込む。

「目が腫れているわ」
「め?」
「泣いたのね」
「まつばないた!」
「哀しいことがあったのかしら?」

真都葉は沢子の言葉に頷き、台所へと駆けていく。

沢子は使ったタオルをたたむ。

「沢子よかったら」

杏子がお茶を持って戻ってくる。

「ありがとう」
「これは、昨日焼いたの」
「焼き菓子ね! 杏子上手だわ」
「これは砂糖菓子よ。食べてね」
「あら、うれしい」

杏子はポットからお茶を注ぐ。

「真都葉」

沢子は、杏子の後ろにいる真都葉に声をかける。

「いつものパンよ」
「わあ!」

真都葉は前へと出て、それを受け取る。

「あぃがとう!」
「どういたしまして」

杏子が云う。

「この雨、続くのかしら」
「通り雨みたいなものじゃないかしら?」

沢子はお茶を受け取る。

「夕方には止むと思うわ」
「あめおわるの?」
「そうね」

真都葉は、沢子のパンをちぎる。

「真都葉ったら」
「さわこのぱんすきー!」

えへへ、と、真都葉はパンをほお張る。

しばらく、杏子と沢子はおしゃべりをする。
その横で、真都葉は色紙を折ったりして遊ぶ。

「真都葉、それは何?」
「これね、お花!」
「上手ねー」

沢子は指をさす。

「これは何かな?」
「ふうせんなのー」
「へえ。こっちは?」
「へびー!!」
「蛇!!」
「こうしてへびさんはおそらをとぶのよー」
真都葉は風船と蛇を、ひもで結ぶ。
その様子に沢子は感心する。
「子どもの発想力ってすごいわね」

真都葉はにこりとする。

「そう云えば、真都葉」

お茶やお菓子がなくなったところで、沢子が訊く。

「お目目、どうして泣いたの?」

真都葉は顔を上げず、色紙を折る。

「・・・・・・」
「真都葉?」
「あ、沢子、」
「とうがね、まつばのとりさんやっつけちゃったの」
「え?」
「・・・・・・」

沢子は杏子を見る。

杏子は頷く。

「昨日、ちょっとね」

杏子は昨日会ったことを話す。

「そう」
沢子が云う。
「それで泣いたのね」
「とう、きらい」
「そんなこと云うの?」
「きらいだもん」
「そっか」
沢子は真都葉を見る。
真都葉は顔を上げない。
「お父さん、いなくなっても平気なんだ」
「それは、だめ」
「あら」
「きらいだけど、だめ」
「ふふ」
「・・・・・・」
「真都葉」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「どろのおばけ!」
「ええ!?」

真都葉は手元で折っていた色紙を見せる。
そして、その泥のおばけを、クレヨンで塗る。
茶色とか、黒色とか、紫色とか。

「ふうせんへびとまつばでやっつけるからね!」

「真都葉ったら」

杏子は吹き出す。

「そんな怖いもの、こんなところにはいないのよ」



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