「杏子、雨よ!」
云いながら扉を開け、沢子は洗濯物を取り込む。
「沢子、ありがとう!」
杏子と沢子は、洗濯物を中へとしまう。
それが終わるころ、雨は本格的に降り出す。
「助かったわ」
「いいえ。ちょうど来たところだったから」
「沢子、このタオルを使ってちょうだい。お茶を淹れるわね」
「ありがとう」
杏子が台所へ行く。
代わりに真都葉がやってくる。
「さわこ!」
「真都葉、こんにちは」
「ちは!」
「あら?」
沢子はかがんで、真都葉をのぞき込む。
「目が腫れているわ」
「め?」
「泣いたのね」
「まつばないた!」
「哀しいことがあったのかしら?」
真都葉は沢子の言葉に頷き、台所へと駆けていく。
沢子は使ったタオルをたたむ。
「沢子よかったら」
杏子がお茶を持って戻ってくる。
「ありがとう」
「これは、昨日焼いたの」
「焼き菓子ね! 杏子上手だわ」
「これは砂糖菓子よ。食べてね」
「あら、うれしい」
杏子はポットからお茶を注ぐ。
「真都葉」
沢子は、杏子の後ろにいる真都葉に声をかける。
「いつものパンよ」
「わあ!」
真都葉は前へと出て、それを受け取る。
「あぃがとう!」
「どういたしまして」
杏子が云う。
「この雨、続くのかしら」
「通り雨みたいなものじゃないかしら?」
沢子はお茶を受け取る。
「夕方には止むと思うわ」
「あめおわるの?」
「そうね」
真都葉は、沢子のパンをちぎる。
「真都葉ったら」
「さわこのぱんすきー!」
えへへ、と、真都葉はパンをほお張る。
しばらく、杏子と沢子はおしゃべりをする。
その横で、真都葉は色紙を折ったりして遊ぶ。
「真都葉、それは何?」
「これね、お花!」
「上手ねー」
沢子は指をさす。
「これは何かな?」
「ふうせんなのー」
「へえ。こっちは?」
「へびー!!」
「蛇!!」
「こうしてへびさんはおそらをとぶのよー」
真都葉は風船と蛇を、ひもで結ぶ。
その様子に沢子は感心する。
「子どもの発想力ってすごいわね」
真都葉はにこりとする。
「そう云えば、真都葉」
お茶やお菓子がなくなったところで、沢子が訊く。
「お目目、どうして泣いたの?」
真都葉は顔を上げず、色紙を折る。
「・・・・・・」
「真都葉?」
「あ、沢子、」
「とうがね、まつばのとりさんやっつけちゃったの」
「え?」
「・・・・・・」
沢子は杏子を見る。
杏子は頷く。
「昨日、ちょっとね」
杏子は昨日会ったことを話す。
「そう」
沢子が云う。
「それで泣いたのね」
「とう、きらい」
「そんなこと云うの?」
「きらいだもん」
「そっか」
沢子は真都葉を見る。
真都葉は顔を上げない。
「お父さん、いなくなっても平気なんだ」
「それは、だめ」
「あら」
「きらいだけど、だめ」
「ふふ」
「・・・・・・」
「真都葉」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「どろのおばけ!」
「ええ!?」
真都葉は手元で折っていた色紙を見せる。
そして、その泥のおばけを、クレヨンで塗る。
茶色とか、黒色とか、紫色とか。
「ふうせんへびとまつばでやっつけるからね!」
「真都葉ったら」
杏子は吹き出す。
「そんな怖いもの、こんなところにはいないのよ」
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