「少し涼しい風が吹き始めたな」
「そうか?」
「………夏も終わるという事ね」
「そうか?」
「おや、
満樹は、夏はまだ終わらないって言うの?」
ふふふ、そういうのは
好きだよ、とマサシ。
「面白い奴だな」
と、耀が皮肉るように笑う。
満樹は辺りを見回す。
砂埃が舞う谷一族の村から他の村へと通じる道。
暑いというよりは風が強く
マントが必要なこの一帯の気候。
夏、とは。
そして今は秋なのか?
水辺世界の季節感とは。
「…………そう、だな」
満樹は深く考えるのを止めた。
「それはそれとして」
いいのか、と
耀に問いかける。
「わざわざ北一族の村を出て
谷一族の村に来ていたんだろう」
裏一族の目を避けるために。
「京子が、北一族の村に来ているのなら
そう言うわけにもいかない」
「心配か」
「ああ」
例えば、と耀は言う。
「仮に、俺が裏一族ならば、
まずお前達の戦力を分散させる」
すっと、満樹を指差す。
「特にお前のような
実力のある奴は」
「………俺」
耀は頷く。
「それからひとりひとり狙った方が
手間が省けるからな」
満樹は、責めるような視線を感じる。
なぜ京子の側を離れた、と。
「すまない」
「いや、どうせ京子が
ここに向かう様に頼んだんだろ」
まったく、と耀は続ける。
「黙って西一族の村に居れば
危険な目にも会わずに済んだろうに」
「京子がどれだけ
お前の事を心配していたか」
ふうん、とマサシが言う。
そういう事、と。
「だから、京子ちゃんに無事を知らせなかったわけ?」
「どういう意味だ」
「生きている。無事だ。
だが帰れないと知ったら、
家族なら助けたいわよね」
「家族、ね」
耀はマサシと満樹を見る。
「俺にとって大切な兄妹は京子だけだ」
「………それって、ワタシの事を言っている?」
「いいや、広い意味で、だ。
俺達は2人兄妹だよ」
「ふうん?」
マサシは恐らく一部しか知らない。
満樹もどこまで耀の言葉を信じたものか悩んでいる。
言葉通りというのならば
ツイナも、ヨシノも、
失踪しているという南一族の少女も、
皆、父親は同じ。
そんなはずは。
「あー、もうダメダメ。
こんな暗い雰囲気じゃあ
他の皆と合流する時にどうするの」
マサシのダメ出しが入る。
「ねえ満樹。
他の仲間の事も教えてくれる。
それに京子ちゃんの事とか、……は」
うーん、と耀を見る。
「京子ちゃんについては
お兄ちゃんから聞くとしましょうか」
「俺から何を言えっていうんだ」
大したことは無い、と
耀は話し出す。
「思いついたら後先考えずすぐ行動。
かと思いきや、変なところでぐちぐち悩む。
リアクション大きい、騒がしい、
お腹が空いたらイライラし出す。
甘い物を与えておけば落ち着く」
だいたい、合っている。
ちょっと本人か疑ってもいたが
これは間違い無く、耀本人。
「それは、兄として心配にもなるわね。
まあ女の子って大体そんなもんよ」
大丈夫だって、と謎の励ましをかけられながら
耀は満樹を見る。
「妹が、迷惑をかけているな」
「あ、うん、いや、気にするな」
「京子は大体そんな感じで」
そんな感じってフォローにもなっていないかもと
思いつつ満樹は続ける。
「あと、海一族のツイナ。山一族のヨシノ」
「本当に多一族揃いなのね」
「2人は今、砂一族の情報を求めて
そちらに向かっている」
「じゃあ、本当に京子は今1人か」
「1人じゃない」
「うん?」
「いや、もう1人仲間が居て」
仲間なのか疑問だが。
言うべきか、どうしようか
満樹は悩む。
「北一族の、チドリっていうのが
京子の側に、ついている」
「チドリ?北一族?」
うん?と耀が目を丸くする。
「男か?」
「あ、ああ」
北一族の男の軽い感じは
他一族でも名が知れていて。
「大丈夫、2人は付き合っている訳じゃない!!」
「それって、なおのこと
どうなのかしら?」
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