「出かけるぞ」
「今から?」
杏子は外を見る。
雪は解け、少しだけ、日差しも暖かい。
季節が変わろうとしている。
「今の時間、人に見られたら・・・」
「だったらなんだ」
「え?」
巧はひとりで支度を済ませる。
杏子も、外に行く支度をする。
「どこへ?」
「高子のところだろう」
「高子、て。病院へ?」
巧は答えず外へと出る。
杏子も続く。
深く、布をかぶる。
「ぬかるんでいるところもあるから、足元に気を付けろ」
杏子は、巧の後ろを歩く。
数人の西一族とすれ違う。
事情を知っているのか知らないのか。
杏子に気付き、驚いた様子を見せる。
「・・・圭のところにいたんじゃないの?」
「ほら、圭は、西を出て行ったのよ」
「いつよ?」
「年が明けてからかしら」
「棄てられた?」
「で、今度は巧のところに?」
「まあまあ。それは」
ひそひそ、くすくすと笑いながら、西一族は去っていく。
杏子は、布を、より一層深くかぶる。
巧は振り返らない。
病院について、巧は立ち止まる。
「ほら」
巧が云う。
「行って来いよ」
「ええ」
「高子の部屋はわかるだろ」
杏子は頷く。
「お前が来ると、云ってあるから」
杏子は、病院の中へ入ろうとして、巧を見る。
「あなたは?」
巧は答えない。
そうだ。
巧が一緒に来るわけがない。
杏子はひとりで高子の部屋へと向かう。
「杏子、久しぶりね」
部屋の中に入ると、高子が迎えてくれる。
「大きくなったわね、お腹」
「ええ」
「順調ね」
ベットに横になるよう、高子は指をさす。
診察が終わると、高子は診療簿を見ながら云う。
「予定通りいけば、初夏には生まれるわ」
「ありがとう」
「それまで、無理はしないで」
高子が云う。
「あなた、小柄だから」
杏子は頷く。
「必要なものがあれば、巧か沢子に云うのよ」
「私、本当に頼ってばかりね・・・」
「お互いさま!」
高子は微笑み、云う。
「本当にいろんなことがあったけど、今は自分の心配をして」
「ええ・・・」
「・・・何か心配事でも?」
「・・・・・・」
「圭のこと?」
杏子は答えない。
高子は、杏子を見る。
「手紙を、書いてみたら?」
「手紙・・・」
「そう、手紙」
杏子は小さく首を振る。
「ありがとう、高子」
「ええ」
杏子は、高子の部屋を出る。
病院の入り口へと向かう。
と、
「待ってくれてたの?」
巧の姿に、杏子は驚く。
巧は答えない。
歩き出す。
杏子は黙って、その後ろに続く。
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