雪が止み、久しぶりの晴れ間。
けれども、西一族の村は雪で覆われている。
巧は、早くから出かけていて、いない。
杏子は、暖炉の前で針仕事をする。
巧が持ってくるたくさんの布。
これを仕立てるのが自分の仕事だと、杏子は黙々と針を握る。
自身の服。
巧の服。
そして、・・・。
しばらく手を動かした後、杏子は立ち上がる。
お湯を沸かそうかと。
けれども、
立ちくらみがして、杏子は坐りこむ。
軽い貧血かもしれない。
杏子は、近くの長椅子に横になる。
大丈夫。
少し休めば、大丈夫。
身ごもった身体にも、慣れてきたところだ。
杏子は、目を閉じる。
・・・こつ
こつこつ
「・・・・・・?」
・・・こつこつ
「・・・あ、」
杏子はふと、目を覚ます。
いつの間にか眠っていたようだ。
こつこつこつ。
この音、は?
杏子は体を起こす。
「巧?」
杏子は呼びかける。
「巧・・・」
巧が、現れる。
「起きたのか」
「ええ・・・。いつ帰ったの?」
「さっき」
「・・・あの、ごめんなさい。食事の支度がまだで」
と
そこで、杏子は部屋の中の匂いに気付く。
「疲れているなら、横になってろ」
杏子は台所の方を見る。
巧が、食事の支度をしていたのだ。
巧は、台所へと戻っていく。
杏子は再度、横になる。
天井を見る。
外にも行けず、たいして体を動かすわけでもないのに
疲れている。
杏子は息を吐く。
巧が皿を持ってくる。
「ほら」
杏子は、横に置かれた皿を見る。
いい匂い。
粥が入っている。
「肉の出汁は食えるんだろ?」
「・・・肉を、もらってきたの?」
「その話はいいだろ」
巧は、自身の皿も持ってくる。
食べる。
「貧血だろうから、動物性のものも少しは食え」
杏子は起き上がり、皿を手に取る。
「ありがとう」
「あまり、無理はするな」
「・・・・・・」
「疲れやすいのは、当たり前だ」
巧が云う。
「ふたり分の命を抱えてるんだから」
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