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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」139

2016年03月01日 | 物語「水辺ノ夢」


「ねぇねぇ、
 弟の名前決まったんだよ」

向かいの家の子が
圭に話しかける。

西一族が珍しいのか
よく圭の所にやって来る。
弟とは先日生まれた子の事だろう。

「安土(あづち)っていうの」

ふぅん、と圭は答える。

「珍しい名前だね」
「父さんと二人で考えたんだ」
「あづち、か」

西一族ではあまり使わないが
南一族には
浸透した名前なのかもしれない。

「おれ、お兄ちゃんだから
 たくさん遊んであげるだ」

へへへ、楽しみ、と
その子は嬉しそうに言う。

「ああ」

そうか、と
圭は気がつく。

自分の子供は
その子と同い年になる、と。

「……自分の子、だなんて」

湶が聞いたら怒り出しそうな言葉だ。

いや、
湶ではなく杏子がなんと言うだろう。

放りだしてきて、
今は新しい生活を送っているというのに
圭が自分の子と言うのは
おかしいだろうか。

もう、関わらないで、と
言うかもしれない。

「……巧、か」

一応伝えておくと、
湶が杏子の相手を
教えてくれた。

元々社交的ではない圭は
村人の全てを把握している訳では無い。
ただ、
片腕の男と言われて思い当たる節はあった。

確か
狩りで仲間を庇って
腕を無くした者が居た。

そう言う人ならば
杏子の事を無下にはしないだろう。

「ねぇ、聞いてるの? 
 ねぇねぇ!!」

南一族の子供が圭の腕を引く。

「あぁ、ごめん。
 早く一緒に遊べるようになると良いね」

その子の頭を撫でてやると
嬉しそうに走っていく。

「弟が待ってるから
 早く帰らなきゃ」

待っている人。

「ここの生活に慣れなくちゃ」

圭は言う。

もう、西一族の事は
忘れた方が良いのかもしれない。
これからは
南一族で生きていくことを考えなくては。



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