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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」132

2016年02月05日 | 物語「水辺ノ夢」

雪の日が続いている。

西一族の村で雪が降り続くのは、珍しいこと、と
パンを運んできた、沢子が云う。

「今期は本当に寒いわ」
「そうなの」
「杏子、体を冷やさないでね」
「ありがとう」

杏子は暖炉を見る。

暖炉の火が絶えたことはない。

外に出ない限り、
いや、
外に出ることは出来ないが
ここにいれば、暖かい。

「ねえ、沢子」

杏子は呟くように、云う。

「南一族の村も、・・・雪が降っているのかしら」
「南一族の村?」
沢子は、杏子を見る。
「ええ。南一族の村も、こんな風に雪が積もっているのかしら」
「そんなことはないわ」
沢子は云う。
「寒くなることはあっても、雪は積もらないみたい」
「そうなの」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「圭のこと?」
「・・・・・・」
「心配?」

沢子の問いに、杏子は答えない。

「圭ならきっと大丈夫よ」
「・・・そうね」

杏子は外を見る。

降り続く、雪。

「沢子か」

巧が薪を抱えて戻ってくる。

「お邪魔してるわ」
沢子は微笑む、が、巧は目を細める。
「帰れよ」
「少しぐらいいいじゃない」

沢子が云う。

「杏子の話し相手だもの」
「おせっかいなやつだ」
「どうせ、杏子の相手はしてないんでしょ」
「なんで、俺が」

巧は、暖炉の近くに薪を並べる。
そうやって、湿った薪を乾かすのだ。

次に、野菜の入った袋を下ろす。

「ちゃんとやれよ」
「ええ」

杏子は立ち上がり、沢子のお茶を淹れなおす。
巧の分のお茶も入れる。

巧は、そのお茶を手にすると、暖炉の前に腰を下ろす。

杏子は、巧に近付き、ひざ掛けを差し出す。

「何?」
「帰って来たばかりで、寒いかと」
「やめろって」

巧は受け取らない。

「巧ったら」

沢子が云う。

「杏子のやさしさでしょ」

巧は答えない。

「何よ、もう」
「・・・いいの、沢子」
「そうね。杏子、それ自分で使いなさいな」

もうしばらく、杏子と沢子は、何気ない会話をする。

時折、
沢子は、巧にも話を振るが、巧は何も話さない。

時が経って、

「そろそろ帰ろうかしら」
「そう?」
「長居しちゃったわ」

沢子は、荷物を持つ。

「また、近いうちに来るわね」
沢子が云う。
「心細かったら、いつでも呼んで」
「・・・ありがとう、沢子」

杏子は、ほんの少し微笑む。

「私は、大丈夫」

扉に近付いたところで、沢子が云う。

「ねえ、巧」

沢子が振り返る。

「この時期に、その体で山に入るのはやめた方がいいわ」

巧は、沢子を見る。

「毎日、薪を取りに、山に入ってるんでしょう?」
「余計なお世話だ」
「薪を届けるよう、透に頼んでおくから」

巧は何も云わない。

「あなた、片腕なのよ?」
「・・・・・・」
「もし、何かあったら、」

「うるさいな!」

巧が声を上げる。

「同情ならやめろ!」

巧が立ち上がったので、杏子は慌てて巧に近寄る。

「巧・・・」

思わず、沢子に近寄ろうとしたのだろうが、
杏子を見て、巧は、立ち止まる。

舌打ちをする。

「帰れよ」

沢子は、杏子を見る。
「また、来るわね」
「沢子・・・」

巧は何も云わない。



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