「久しぶり」
巧は、その声の方向を見る。
そこに、湶がいる。
「・・・・・・」
巧は、湶を一瞥し、歩き出す。
水を運んでいる途中だった。
湶も、巧に続く。
声をかける。
「聞いたよ」
「・・・何を」
「東一族のこと」
「・・・・・・」
「杏子、お前のところにいるんだろ?」
巧は立ち止まらない。
水を汲み、運び、甕に入れ、また、水を汲みに向かう。
湶は、ただ、その様子を見ている。
「杏子は、元気か?」
「・・・・・・」
「今は、」
「今は、中で横になっているんだろ」
巧は、水を甕に入れながら、訊く。
「いつ、西に戻ってきたんだ?」
「俺か?」
「お前以外に誰がいる」
「まあ、数日前、と云うか」
「ひとりで来たのか?」
「そう」
「どうせ、また、南に行くんだろ」
「そうだな」
湶が云う。
「杏子に会えるか?」
「横になっていると云った」
巧が云う。
「起こすなよ。面倒くさい」
湶は、巧を見る。
「聞かないのか」
「何を」
「・・・圭のこと」
「・・・・・・」
巧は再度、歩き出す。
「あいつ、杏子のことを案じていると思う」
「・・・・・・」
「それを、わかってやってくれないか」
「・・・・・・」
「いろいろと、すまない」
巧は立ち止まる。
云う。
「その言葉の意味がわからない」
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