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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」133

2016年02月09日 | 物語「水辺ノ夢」

「あれ?」

圭は南一族の病院の前で立ち止まる。
薬が無くなりそうだったので
新しく貰いに来た所だった。

病院の前にある小さな畑で
村人が畑を耕している。

南一族ではありふれた光景。

けれど。

「あぁ、ええと。
 西一族の、なんだっけ?」

「圭、です」

「そうだ圭だ!!
 なんだ、薬が切れたのか?」
「まだですけど、
 そろそろかなって思って」
「そうか、じゃあ、
 ちょっと待っていろ。
 すぐに支度するから」

そうして、作業を中断したのは
この病院の医師。

「畑もしているんですか?」

「いや、こっちは趣味の範囲。
 でも中々手を付けられ無いんだよ」
「薬は次回でも」
「そういう意味じゃないから気にするな。
 本業あってこそだ」

医師の後に続き、
圭は病院に入る。

「で、お前は
 それ、どうしたんだ?」

医師が言うのは
圭が両手に抱えている袋のことだろう。

「途中で貰って」

通りすがる村人がくれた野菜だ。
持っていくように、と
半ば押しつけられるような形だったが。

「帰りに寄りますって
 言えば良かったのに」
「まだ、顔も名前も
 覚てないから」

こんな事、
西一族の村では無かったな、と
圭は思う。

南一族の地に早く慣れるようにと
気遣ってくれたのだろう。

「……お礼しないと」

身支度を終えて医師が戻ってくる。

「美味しかったですって
 言えば、それで良いんじゃね?」

「でも」

透や沢子のように
圭の体のことを知っていて
気遣ってくれる人は
むこうでは数える程しかいない。

いずれ、この村でも
何も出来ない役立たずだと分かれば
西一族での出来事の繰り返しになるのだろうか。

「何か、返さないと」
「気が済まないか
 真面目だな」

そう言う物じゃ無い、と
圭は内心否定する。

怖いだけだ。

「例えば、自分の家で取れた野菜を
 お返しするとか。
 あ、ちゃんと向こうが作ってない野菜にするんだぞ」

ややこしい事になるから、と
医師は笑う。
圭は南一族の家を思い浮かべる。

「畑は無くて」

「じゃあ、西一族の名産とか
 単純にお前の手作りの品とか、な」

「特技も特には」

ふぅん、と医師は言う。

「じゃあ、ウチの畑耕してみる?」

「え?」

「ほら、中々手が回らないって
 言ってるだろう。
 小さな畑だから趣味でする分には十分だ。
 西一族の野菜でも育てて配れば
 喜ばれると思うけど」

「それは」

思ってもいない事だ。

「そんな勝手な事」

「人の手が入らないと
 畑も使い物にならなくなるから
 俺も助かるんだが、どう?」

圭は小さく頷く。



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