「あら?出かけるの?」
上着を持っている圭に
母親が声をかける。
「村を見て回ろうと思って」
湶の言葉に従うのは癪だが
どうせ家にいても時間をもてあます。
圭は南一族の家を後にする。
寒い時期ではあるが
今日は天気が良い。
農業が中心の南一族の村には
広い畑が並ぶ。
西一族の家にも畑はあったが
規模が違う、と
目を凝らす。
名産だという豆の時期は過ぎているのだろう。
耕された畑では違う野菜が育てられていて
村人もそこで作業を続けている。
皆、頬に逆三角形の印。
南一族の証だ。
「こんにちわー」
「こんにちはぁああ」
わぁわぁ、と声を上げながら
南一族の子供が2人走って来て圭を取り囲む。
女の子と男の子。
「え?え?
あ、こんにちは」
「西一族だ!!湶兄ちゃんの家族??」
「……!!」
「ねぇ、違うの??
お友達なの??」
「いや、家族であってるよ。
弟なんだ」
「へぇ、おとうとだ!!」
「おとうとすごい!!」
何が楽しいのか
その子供達は嬉しそうに笑う。
「おれもおとうとだよ」
「それでね、私はお姉ちゃん」
2人は姉弟なのだ、と
圭は気がつく。
女の子は黒い髪。
男の子は白い髪。
南一族のもう一つの特徴は
黒髪・白髪が混在すること。
黒髪の家系と白髪の家系が存在すると思っていたが
同じ家族でも毛色が違う事に
圭は驚く。
「おーい、こら、
2人とも待て~」
2人の父親だろう人物が
追いかけて走ってくる。
「いや、悪い悪い」
お、と圭の顔を見て
父親は声を上げる。
「あぁ、あんた知ってるよ。
越してきたばかりなんだろう。
騒がしくしてすまんな」
「いえ」
「南一族の村は慣れたか?」
「まだ。
今日は見て回っている所で」
「そうか、ウチは近所なんだ。
困ったときは声かけてくれ」
「……ありがとう」
「まぁ。そうじゃない時も
ぜひ寄ってくれよな」
さぁ、畑に行くぞ、と
父親が子供達の手を引く。
「また今度な」
「じゃあね」
「ねー」
そうして、親子は畑の方へ歩いて行く。
そうか、と圭は納得する。
父親の髪は白髪だった。
そうすると母親は黒髪なのだろう。
この一族は白髪も黒髪も関係が無い。
そういう村なのだ。
「お腹の子は」
杏子のお腹に居る子供は
一体どちらなのだろう。
白髪であれば、
西一族で過ごしていけるだろう。
もし、黒髪であれば。
「俺も杏子も南一族で
この村で生まれたならば」
きっとその子は
何の問題も無く生きて行けた。
ただの、想像の話だ。
家に戻ろうとして、不思議な気持ちになる。
両親と湶が南一族で長年暮らしている家。
南一族独特の造りもあちこちに見られる。
まだ、他人の家に間借りをしている気分になる。
いずれ慣れてくるのだろうが
圭にとっては
西一族の村のあの家が自分の家だった。
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