早起き鳥 

【未明混沌】今日も必ずお元気で…!

rakuten

生涯現役 5章

2006年12月31日 10時39分17秒 | 生涯現役
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5.
「ただいまから男子100メートル平泳ぎタイムレース決勝を行います。選手のコース順を申し上げます。第2コース横山君KTPたけふ、第2コース榎本君KTPつるが、第3コース立花君新田SC福井、第4コース山本君大飯アクア、第5コース津田君ベルSS、第6コース林田君新田SC福井、第7コース谷口くん福井SS、第8コース富田君ベルSS以上」
このアナウンスの間、プールサイドからは
「サンコース、サンコース…!」「ロッコース、ロッコース…!」と満、林田が所属するクラブが陣取っているプールサイドから声援が飛んでくる。林田は手を振って答えている、満は口元を緩めてゴーグルのしたから笑みをこぼした。そして二階席の佐藤の奥さんが回すVTRに向かって反応した。
満は一旦コース順の紹介の時に立ったがまた深々と座っている。他の選手は立ったまま、手を振り、太ももを手で叩き、顔をパンパンと叩き気合を入れている。足はブルブルと振動させている。誰しも緊張の一瞬、満はまだ座っている。
審判員のホイッスルが鳴った、満は天井を見てそして二階席に視線を向けそしてコース台の上に立った。ゴーグルを眼に押し付けた。両足の親指をコース台にかけて、腰を折って、緊張の瞬間のを待った!
「よう~~い!………号砲一発金属音」
選手は一斉に飛び込んだ。誰一人浮き上がってこないまず最初に浮き上がったのは4コースの山本、そして6コースの林田、7コースの谷口、3コースの満はまだ浮き上がってこない。そして一番遅く浮き上がった、他の選手がピッチ泳法であるなか、立花は大きなうねりで泳ぐタイプ、初速度を有効に活用して最初25メートルのラップをねらいに行くのは、ピッチ泳法の立花以外の選手達であった。
「水の感触は悪くないな…!大きなフォームでのスタート、まずまずだ、前半、いかに手を抜けるかが僕にとっては勝敗の鍵、彼らに惑わされてはいけない。ラスト25メートルの勝負にかける。今はまだスタート25メートル手前!山本は早いな…、でも射程距離だ。2身長なら挽回できる…!」
山本がターンの態勢に入った。と同時に左手前方視野の中にも二人の泳者の影が確認できるほぼ同じラップで林田、谷口がターンした。満は遅れながらもターンして折り返していった。
25メートルから50メートルにかけてはさほど大きな変化は無い、各人のペースのストロークが刻まれて50メートルのターンに差し掛かった。
……僕のペースはこれでいいのだろうか…?なんとしても山本には負けられない。と言っても彼は記録保持者!僕は未知数だ。どこまでやれるのか、僕自身、興味がある。正直今の状態は前半押さえ気味のペース配分ではあるが、山本に水をあけて先を泳がれると辛いものがある。マイペースとは言いがたい。ともかくついていこう。彼がターンしていく。何か苦しそうだ。水中姿勢に精彩を欠いているのでは…?良し、いくぞ!
満は力強くターンして折り返して。水中での一かき一蹴り…!懸命に筋肉を爆発させながらイルカのような紡錘形の水中姿勢をとる手先は指の先にまで足は足指の爪の先まで神経を集中させて伸びきった。そしてストロークに入る。ここからが勝負だ。満は山本には勿論の事、谷口、林田にも差は広げられていない。どことなく誰しもが減速してくる頃だ。残り15メートルでラスト75メートルのターンである。このターン次第で山本を抜く事ができる。抜くだけではなく抜ききってさらにベストを尽くして記録の挑戦があるのだ。と満は思った。
…ガッツポーズがしたい。表彰台の一番上から2階席で廻るビデオカメラに向かって最高の笑顔、それは僕のために用意されたシーンなのだ。
 ここで谷口がスパートして来た。さすが若いな、でもあまり遠くて見えない。かすかに見える敵艦という感じでしか満の視野には確認できない。でも谷口は後半勝負にでた。そしてその反応を待っていたかのように林田もスパートをかけた。まるで谷口林田のストロークは25メートルのスタートダッシュのようである。後、泣いても笑っても20ストロークくらいで勝負は決まる。
 満はこの若い二人のスパートをしかと確認した。山本と若い二人の囲まれた満は最後のターンにさしかかった。
……さあ、最後だ、後悔の無いように最後まで泳ぎきろう。
……しかし自由形のようにがんがんピッチを上げてのスピードアップはその身体の動きが失速の原因となる。そしてその失速は更なる姿勢に支障を与え、更なる失速を来たすのだ、この駆け引き、技術が平泳ぎには要求されているのである。
アテネ五輪金メダリストの北島康介の洗練された芸術のような泳ぎ、荒削りな感じのアメリカ、ハンセン!
タッチの差で負けたハンセンは北島康介の最初からの飛び出しによる、精神的プレッシャーのわずかな機微が敗因となった。それだけにメンタルな種目平泳ぎなのである。
林田は満と同じスイミングクラブ所属でお互いライバルである。そしてこの二人が県マスターズ中高年の水泳を引っ張っていると言っても過言ではない。そんな存在なのである。林田の今までの試行錯誤はピッチ泳法に大きなうねりで泳ぐ方法といろんな泳ぎを試して。ピッチ泳法に収斂してきたのである。多少の減速は無視して筋力でぐいぐい引っ張っていくイメージである。彼の二ノ腕上腕の筋肉は素晴らしいものである。この林田がたどり着いた泳ぎで今先頭を谷口と争っているのである。しかし林田も75メートルと折り返すと苦しそうである。彼はなかなか仕事が忙しくクラブのプールで練習する時間を得ることが難しく、自主トレ中心の一人で民間プールで泳いでいるのである。そしてそれよりも独自に筋肉トレーニングに励み腕っ節を強くしてる林田である。
さあ、最後の力を振り絞って懸命に泳いでいる。林田はノーブレ、息をしていないように見える。
さて、50歳台の立花、山本のラストに話を戻そう。
 満はこのレースに
満は若き頃の栄光を夢見ている。「優勝」「自己新記録」「大会新記録」という言葉をどれだけ夢見て若い頃泳いでいた事か…!苦しい練習を続けるモチベーションはこの言葉このタイトルを自分の物にするだけのために頑張ってきて、そして挫折、そして故障、はたまたクラブ内の不協和音や、いざこざ…!自分だけの管理ではなく、クラブ全体をまとめ上げなければならない。言ってみればプレイングマネジャーである。若かりし高校生には過酷な期待である。当然のように傷つき、挫折の毎日を過ごし、しなくても良い苦労をして来たのである。
「満!お前進学するのか?どうすん…!」と友達に聞かれた時
「俺は水泳しかないから泳ぐ事しか考えられない!」と満は言っていた。同級生が夏の大会を終えると同時に進学のための準備に入った頃、三年生の満は一人で後輩の練習メニューを検討していた。言ってみれば満の頭の回路は直列回路だったのであろう。
 結果は満は推薦入学となり近畿大学に推薦入学を果たした。それも水泳ではなく、農学部なのだ。主将としてチームをまとめてきた満にとって、将来に渡って水泳や体育を職業として教育者や指導者として生きていくことの的確性は無いと判断したのだろう。彼はもともと学力も悪くなく理数系クラスにいることもあり、学校としても極端な上を望まねば入試で苦労する事も無いのある。でもその彼が体育大学を志望しなかった事は大きな波紋を呼び一時クラブで大きな噂、波紋が広がった。満は最後の卒業式まで水泳部の部室で冬季の練習を後輩達と一緒にこなしたのである。それだけに水泳に対するなんともいえないこだわりのような、あきらめのような。もう二度と競泳はしないと言った気持ちをめまぐるしく心の中でうごめいたいた。
そんな記憶が満の脳裏をかすめた。そして満は最後ターン手前で山本に身体一つ以上の差を明けられた。  
 誰の目にもこの差を短縮するのは厳しいものがあった。
…僕は勝つ、勝たないわけが無い。今まで生まれてきて負けたことなんか無いんだ。でも後25メートルはなんて辛いんだろう。もう楽になりたい…!本当に強い者はこれからが勝負だ。山本に食いついてタッチの差で勝ちを奪ってやるとのそれはそれは強い気持ちが伝わってくる。二階席のビデオカメラがこの僕の今まさに追いつき追い越す瞬間をとらえ様としている。ともかく伸びるんだ。伸びるんだ。とそのイメージで突き進むんだ。

満は壁を力強く蹴りだした。耳の後ろで両方の二の腕を合わせるように、全身の神経を集中させて一切の抵抗がかからないような水中姿勢を維持した。そしてラスト25メートルの追い上げに必要な初速度を得るために水中で満自身が自らの筋肉を爆発させ一かき一蹴りの動作で推進力を得た。そして浮き上がりにこの日最大の推進力を得て山本に食い下がった。この水中でのストロークと絶妙な浮き上がりで山本との差が一気に縮まった。
 縮まったというよりも、まるで山本が失速したように見えるのである。そしてその差は少しずつ詰まり、残り十数メートルでの挽回が可能性を帯びてきた、そんな展開となった。
最後まで早いピッチでグングン引っ張っていく山本の疲労は大変なものである。そして満の泳ぎはラストと言っても見てる限りはゆったりとうねりを使った大きなストロークであることから、二人の泳法の違いが如実に現れまさにデッドヒートである。満はラストスパートにピッチを上げるのだが、なかなか上がらない。そして山本はピッチは落ちないものの、思うような推進力が得られないような形勢である。
 そんな中、谷口がゴールした。1分25秒台だ。そして今、林田、山本、立花が並んだ。山本はゴール前で失速!林田、立花とタッチの差でゴール、林田1分26秒台、立花1分27秒台、山本1分28秒台でそれぞれがゴールした。
 満は食い入るように電光掲示板を見つめている。1分27秒68の大会記録をわずかに更新して1分27秒13の記録である。これは大会記録更新であることを信じて疑わなかった。満は顔面硬直、片手を天高くかざしてそのまま水面を叩きガッツポーズ。
山本が握手を求めてきた。
「君は強かったよ。完敗だ!おめでとう。100メートルの記録を塗り替えられたのは悔しいけれど、俺はまた来年鍛えなおしてやってくるから、また勝負だ…!」
「山本さんありがとうございます。こんな嬉しい事は無いです。山本さんに懸命にあきらめないでついて行きました。最後まであきらめないでよかったです。ありがとうございます。」
と祝福の握手を受けていると場内にアナウンスが流れた。
「大会記録更新のアナウンスを致します。ただいま6コースを泳ぎました。立花君の記録1分27秒13は本大会新記録であります。」
どよめきがプールサイドから起こった。
「ロッコース!ロッコース!」
「おめでとう!おめでとう!」
満はこの喜びをどう表現していいかわからなかった。
プールから上がった満はプールに深々とお辞儀をし、計時員に「ありがとうございました。」とお礼をして、表彰台で待機した。
 満はレースを振り返った。なんと言っても勝因はラスト25メートルであきらめなかった事、そして勝つという意識が最後のターンで大きな推進力を得る事が出来たのである。
…こんな感動は、今まで味わった事がない。最高だな…!二階席で廻るVTRを意識して絶対に勝とうとそう思った。僕のモチベーションもある意味不純だな…!自己顕示欲の何物でもないな。とはいえ50歳を過ぎて1分27秒台はすごい。高校生の時1分30秒を切ったら先輩からなかなか、こいつやるじゃないかと注目されて水泳選手としての練習が始まった訳だし。27秒台の記録は自慢できる記録だよな。
 同じクラブに林田と言うライバルがいて、いつも練習を陰ながらお互い意識して頑張ってきた。僕は結果が残せて嬉しい。林田の記録更新はならなかった。満が塗り替えたこの100メートル平泳ぎの記録がずっと残ると嬉しいけれど…。来年は満自らがこの記録に挑戦する事になる。楽しみだ。言い気持ちだ…
「立花さん。表彰をします。山本さん2位です。斎藤さん三位です。」
賞状を読み終えた大会会長が満面の笑みで立花を賞賛した。
「おめでとう立花さん。リレー、個人メドレーに続いて、平泳ぎとは恐れ入りました。スーパーマンですね。素晴らしい大会記録です。来年もまた頑張って参加してくださいね。そしてこの大会を引っ張って行ってくださいね。」
「ありがとうございます。来年もまた頑張ります。」
三人で握手をして表彰台を後にした。
 満は二階席からのVTRのレンズフォーカスを意識している自分がおかしかった。
「立花さん頑張ったね。」
「本当に彼はよく頑張ったよ。日々の練習で立花が一番真剣に練習していたし、手を抜くことなく精進してらしたよ。立花。クラブのメンバーの半分はレースを目標にしない健康増進が目的で水泳をしている人がほとんどだし、そんな中で頑張った立花の事、俺も大好きでね…!良い人と知り合えてよかったと思うよ。」
佐藤は二階席で奥さんと心からの祝福のエールを贈った。
 夢にまで見た大会新記録が満の現実となった今、今日のレースは大成功だった。まだ50メートル平泳ぎと最後の種目100メートルフリーリレーが待っているが満は有頂天の気持ちを抑える事が出来ない。疲れているのだがその疲れもなんとも癒される心地よい疲労感である。競技とは不思議なものだ敗北者の疲労感は並大抵のものではない。
満はプールサイドでクラブメイトの祝福を受け、ジャグジーに消えた。
次のレース50メートル平泳ぎの戦略を立てなければならない。とそう満は思っている。ジャグジーでリラックスしていると、年配の老夫婦が、声をかけてきた。
「あの!お尋ねしますが、あなたは今のレースで大会新記録で優勝されたお方ですよね…」
「はいそうです。今嬉しい気持ちを押さえきれないでいます。」
「私達、レースを見ていて感動しました。二人で午前中に出場した25メートル平泳ぎで最後まで泳いで、ばあさんと一緒に午後のレースを応援しているところなんだけれど、身体がちょっと冷えてきてこのジャグジーに来たところです。あなたに声をかけられるなんて幸せです。」
「いやいやそんな大それた事を言わないで下さい。僕はまだまだ50代前半のかけだしです。お見かけしたところ、まだまだお元気そうには見えますが、70歳台後半ではないかとさえ思えます。間違っていたら失礼なのですが…!本当にお元気そうで何よりです。私もあなた方の年齢になっても同じようにレースに夢中になっていたいとと思うのです。お近づきになれ、親しくお話が出来た事、とても嬉しく思います。頑張って下さいね。」
「ありがとうございます。私達は60になってから水泳をはじめました。週に二回プールに通っているのでが、我々は何もすることの無い年寄り…!水泳でも何でも楽しい事を見つけて続けてさえいれば何とかなります。でもあなたは職場でも管理監督者の年齢。今まさに一番責任の重い時、大変な時と思います。そんなときに選手として活躍され、そしておまけに大会新記録を更新するなんてことは快挙です。値千金、心から祝福します。おめでとうございます。練習大変だったでしょうに…!」
「なんとも嬉しい気持ちでいっぱいです。実はいろいろありました。身体も壊したし、仕事でも失敗も繰り返しました。ただたた、いろいろな事があったけれど、プールの中でその日一日の憂さを晴らして、心と身体を鍛えてここまで頑張ってきました。続けることの意味を思い知りました。本当の値打ちはこれからの継続だと思っています。どうか80になってもずっと生涯泳ぎつづけてくださいね。また来年もお元気な顔を見せてください。」
なんとも嬉しい会話をジャグジーですることが出来た。満は心の芯までリラックス、クールダウンでくつろぐ事が出来た。
 ジャグジーで話題にでは満のこれまでの練習、それは確かによく頑張ってきたものである。今までの出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡っている。そんな揺らいだ気持ちで身体を拭いているところに
「満!良かったね。まだ今日のレースは済んでいないんだ。次のレースでも記録ねらいでいくんだぞ!」と佐藤の熱い激が飛んできた。
「えぇっ……!もう僕は十分です。精根尽き果てました。でも50メートルのレースも全力で泳ぎます。残った力を振り絞って頑張ってきます。」
次のレースの召集まであまり時間が無いのだ。リラックスはしているが、ちょっとというかかなりの興奮気味である。

 

つづく

生涯現役 6章

2006年12月31日 10時37分26秒 | 生涯現役
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 6.
…次の50メートルは一回のターンでお仕舞いだ。スタートの飛び込みのノリで最後まで行く感じだ。スタート勝負というところか…。さあ、召集が始まる。頑張ってくるぞ!
 満は召集場に消えた。
 そこには、興奮冷めない。100メートルの役者がそろっていた。
「立花さん、えらいのんびりですね!余裕だね。」
「僕は勝ったけれど、記録更新には至らなかった。立花さんが羨ましい。この50はもらいます!」と谷口!意気込んでいる。
「何かね夢のようにレースが済んで、終わってみれば記録更新となっていて、こんな気持ちすごく興奮していてね。まだ、心臓が漠々なんです。」
山本はうつむき加減で話の仲間に入ってこない。
「林田さん!どうしたんですか、眉間にしわを寄せて!」
「うん!どうも肩が痛くてね。」
「無理したんじゃないですか…」
100メートルの役者達の召集場での会話はさっきとは打って変わって一度レースを消化した後だけに和ごやかなものである。
満は密かに50メートルもねらっており、筋肉のストレッチとリラックスに余念が無い。一人で50メートルのレースのイメージを組み立てているのである。この50メートルは100メートルと違って参加者も多く、谷口、林田たちの45歳代のクラスと立花達とは違う組で泳ぐことになる。従って満は100メートルに引き続き山本だけをマークしておけば良いのである。
 そして当の山本は100メートル敗北のリベンジに燃えているはずである。満は考えている。50メートルだ…!前半をセーブするなどと言った姑息な考えは捨て、最初からぶっ飛ばすつもりで行こうと思っている。とは言え体力の消耗を極力押さえるためにピッチは上げずに大きな泳ぎを心がけ、やはり山本とはゴールまえでタッチの勝負と踏んでいる。
満は100mを大会新記録で制した!50mはおまけだとの気持ちと、世代交代の圧力を山本先輩に与える絶好のチャンス。ここで粉砕しよう。との気持ちが交錯している。朝から4つ目のレースはかなり疲労が感じられる…。でも50も制したい。頑張るんだと、
と闘志のエネルギーが充満してきている。
 コース順、立花山本は2組目、山本が4コース、立花は5コースである。そして他全員50歳代の選手である。50メートルとあってエントリーしている選手も多い。
…ちょっと朝からのレースで疲れているかもしれない。100を制した感動の余韻でちょっと筋肉のスイッチが入らないかもしれない。ともかくスタートは何も考えず大きなリズムでしっかりとストロークしよう!山本さんは相当まいっているな…!精気が感じられない。ひょっとするとひょっとするぞ。
「ただいまから男子50メートル平泳ぎ第二組のコース順を申し上げます。…。」と選手の紹介を受け、選手はコース台に上がり号砲を待った。
…「ヨウイ」から号砲までワン、ツー、スリーだ。号砲を聞く必要は無い。ワン、ツー、スリーの「リ」コース台を蹴ればジャストタイミング、トップでスタートできる。
「ヨーウイ…」そして号砲とともにストップウオッチがスタートした。林田、谷口は次の組でスタート台の後ろの椅子に座りレース展開を見ている。
満の読みは的中、満はスタート時に身体半分リードの形となった。反面、山本はスタートを若干遅れた格好となった。山本はいつに無く満よりも早く浮き上がり、ピッチを上げてのスタートダッシュである。その割には推進力が今一つといったところ、しかし前半の伸びはさすが記録保持者の山本である。満をグングン追い越しての25メートルターンに差し掛かった。
 満には相当の余裕が感じられる。100を制した余裕から、リラックスできる泳ぎが出来ている。力まず、スタート時の初速度に上手く乗って25メートルを泳ぎきった。そして満も山本に少し遅れてターンに入った。
「100メートルの75メートルターンと全く同じだ、このターンで一気に山本を捕らえる事ができる。」と満は確信した。
25メートルのターン、そして浮き上がってきた山本と満、山本が優勢、満はピッチが上がらない。しかし満には余裕が感じられる。山本の2ストロークに満の1ストロークと言う感じである。そしてプールの半分の地点まで来た。さあ、ラスト勝負、お互い苦しい勝負ところ。
「ツイテル、嬉しい、楽しい、ついています。…」と満は心で唱えた。このリズムはゆっくりとした大きいストロークである。抵抗の無いすべるような泳ぎである。見ていると、山本が失速したように見える。ゴールは身体半分リードして満が50メートルも制した。
時間39秒60 山本が持つ大会記録の38秒65には及ばなかったものの、満は平泳ぎ2種目制覇を成し遂げた。
 嬉しさをかみ殺すように満はプールサイドのクラブメイトの方に手を振った。そして佐藤の奥さんが撮影してくれているVTRにもにっこり笑顔で応えた。その嬉しさの裏には山本の惨敗という結果が山本を打ちのめした。
個人種目三冠の満はこれ以上ない幸せに酔った。
表彰台で満は大会会長に満面の笑みで応え表彰を受けた。
「立花さん、今日の活躍は素晴らしいですね。こんな50台の選手は記憶に無いです。見事です。これからも身体を鍛えて頑張って下さい。」
「ありがとうございます。」
…僕はなんて幸せもんなんだろう。学生時代からアスリートして頑張り、社会へ出ても常にアスリートとしてナンバーワンを目指して頑張って来た。そして今まさにナンバーワンの表彰を受けた、実力だ。努力の結果だ…。そう思う満であった。
 男子50メートルのレース5組が終了して、最後のレース男子100メートルフリーリレーの召集が始まった。新田SCのエントリー選手は上坂立花林田佐藤だ区分は200歳以上福井SSチームとの一騎打ちだ。
ここに来て選手は四人ともそれぞれ個人3種目を泳いでおり、朝一番のメドレーリレーを含めて今日最後のレースは5レース目。その疲労は通常の練習並みである。それにそれぞれ集中の連続、疲れきっている。
 第一泳者上坂、第二泳者立花、第三泳者佐藤、第四泳者林田でフリーが専門の上坂のスタートダッシュの勢いをゴールまで引き継ごうとの戦略である。第一、第三泳者の上坂佐藤はスタート側、立花、林田は反対側に移動してスタートを待った。
参加4チームはもうお祭り騒ぎである。結果なんかどうでも良い、ただただプールが熱狂の渦に巻き込まれて、泳者に激励の掛け声をかけるのである。
 さあ、号砲が鳴った。レース展開がどうなっているのかそんな見る暇は無い。お目当てのチームに集中するだけだ。
上坂から立花への引継ぎは上手く行った。立花はもう最後まで息をしていない、その水しぶきはものすごいものである。泳法もあったもんじゃない。選手は一様にブッちぎり、やけくそで突っ込んでいく、そして佐藤に引継ぎ、佐藤も年齢を感じさせない素晴らしいピッチで突っ込んでくる。そしてアンカーの林田に引き継いだ。林田のダイナミックなピッチ泳法はまさに魚雷が水面を突っ走る感じである。そしてゴール。
 ゴールタイムは58秒51、なんとこの記録も大会新記録である。
今日この大会、満はエントリー種目5種目のうち全種目制覇で3種目は大会新記録を樹立したのである。
「佐藤さん!おめでとうございます。」
「いや満こそ、お疲れ…、よく頑張ったよな。俺、今年の大会ほど興奮した事は無いよ。みんなが燃えているし、満に負けてはいられぬと。お前に触発されて、今までに無く興奮させてもらったよ。レースって興奮するよな…。どうだろう、今夜みんなで酒盛りだな」
リレーメンバーは夜反省会をすることを約束してそれぞれクールダウン、ストレッチとめいめいの行動に分かれた。

 

つづく


生涯現役 7章

2006年12月31日 10時35分50秒 | 生涯現役
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 7.
全てのレースが終了し、プールサイドの人たちがぞろぞろ帰る仕度を始めたころ、満はメインプールでクールダウンをしている人に混じってゆっくりと身体をほぐしながら泳いでいる。
…長い一日だったな。今日一日済んでしまえば、なんとエントリーした5種目完全制覇だな。これって実感湧いてこないな…!そしてとうとう病み付きになってしまったみたいだ。でも水泳は楽しいし、年齢5歳刻みでそれぞれにドラマがあるし。五年毎にやってくるルーキーイヤー!そのルーキーイヤーはトップスイマーにとっては絶好の記録更新のチャンス。満はきっちりとものにした。でも来年は、また林田らにやられてしまうんだろうな。それにしても嬉しいな…
とウキウキの満のところに、林田がやってきた。
「立花さんおめでとうございます。良かったですね。僕は立花さんのようなツキがなくて…」
「そんなこと無いじゃない、きっちり25、50と制覇したじゃないですか?」
「そうなんですけれど、僕はやはり、100はダメです。今の泳ぎでは100はもたない…!今までもいろいろ試してきたんだけれど、結局のところこういう形になってきたわけで、どことなく消化不良のようなところもありましてね。」
「そうなんですか、でも僕達、学生の時のように若くないし、基本的に楽しみとして泳いでいるマスターズスイマーなんだし、それぞれの水泳に対する考え方があって良いと思います。これでなくちゃって言うものは無いし、自由に楽しみたいですね。」
「そうですね。僕達ももう50、いやまだ50です。楽しんで泳いでいきたいです。怪我や病気だけはごめんですがね。それはそうと、立花さん、50、100は強かったですね。あの山本さんとさっきちょっと話したんだけれど、立花さんの存在が近くなってすごい悔しい気持ちが湧いてきたって言ってました。ともかく自分に対する後悔、どうしてあの時
スパートできなかったんだ。って、
 立花さんがターンして、水中で差を詰めてきた事は察してたそうです。でもその時山本さん、どういうわけか戦意が消失するというか、言いようの無い虚脱感が全身を襲ってきたそうです。その気持ちは山本さんが言うには自分でコントロールできる、乗り切って頑張れる範囲の状況だったのにどうして頑張らなかったのかと悔やんでました。
 彼が自分で分析するに、それは年齢だと言ってました。彼は52歳です。このレースに負けたところでどうってことないさ…!という気持ちが湧いてきて立花さんの迫力に負けてしまったと言っていました。」
「そうですか、その気持ち僕も痛いほどわかります。でも僕は負けても良いから、その時その瞬間、自分でできるベストを尽くしたいと思いますね…。でもこれは勝ったものの台詞で負けた人には不愉快でしたね。」
「立花さん!立花さんは本当に頑張って練習してましたから、レースでの勝負はその時の運です。でもレースに至る練習をどういうモチベーションで、どういう気持ちで頑張ってきたかはその人だけが評価できることです。」
林田はプールの中でレースを振り返り、満と昨年以上に親密感を覚えるのであった。
…今年も済んだな、レースが済んで師走に入り、これから仕事も忙しくなるし、忘年会シーズンちょっと摂生も中断!ご褒美の不摂生も許されるだろう。
満は思った。
「林田さん、今晩飲みましょうね。佐藤さん、リレーメンバーで飲もうって…!」
「良いですね。夕方必ず行きます。」
と会話を交わして林田はプールから上がり更衣室に消えた。
満はもう少し泳ぐことにした。

 

つづく



生涯現役 8章

2006年12月31日 10時34分08秒 | 生涯現役
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8.
 「皆さん!昨日の県マスターズ大会の成績を発表します。」
とコーチから練習前のストレッチ体操の前にセレモーをして満たち大会参加者は賞状の授与式を受けた。満たちは気分最高で良い笑顔で終始した。クラブもメンバーは賞賛の拍手を贈り、健闘を称えた。
…来年以降もったたくさんの人の参加があるといいな!なかなか大会となるとしり込みするし、ましてや人前で競技をするなんてなかなかでてみようかと思う人は少ない。とは言え自分達の仲間がレースで活躍している事を実感して盛られれば僕らも幸せだ。
 と満は満面の笑みで終始した。
そして流れるようにその日の練習メニューが発表となり、また新しいステップに向かって頑張ろうとそんな気持ちに燃える満達であった。
 その日の練習は試合直後と言う事で軽めのメニューとなり、練習が始まった。
そして満達のクラスは簡単にウオーミングアップを済まして、個人メドレー4種目各泳ぎのドリルの練習に入った。まず最初はバタフライのキック25メートル、次に片手スクーター右左各25メートル、そしてコンビネーション25メートル。これをバタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、クロールと進めていた。
 満はバタフライ左手の片手スクーターをしていた時に左肩に奇妙な痛が走った。何か変だな。と違和感があったがそのまま泳ぎには支障が無いと判断し、練習を継続した。そしてクロールに来た時に左手が上がらない状態となってしまった。今まで経験した事の無い痛みというか何ともいえない左手が前方に突き出せない。浮力の助けを借りてさえ、左腕全体の重量を支えきれない…!
……なんという事か。
 満は一時的なものと深刻にはならなかった。
しかし平泳ぎしか出来ない状態だ。要するに左手を右手で支える状態でストロークを続けるのである。左手は腕全体から力が抜けていくような錯覚を覚えた。
「佐藤さん、僕の左腕どうなってしまったんでしょうか…?」
「満、それは四十肩だよ。いや君の場合はもう五十肩だよ。それは老化現象で、なってしまってはもう仕方ないよ!俺だって経験があるよ。シニアには誰にも経験する事だ…!」
と佐藤は満を慰めた。佐藤は常々練習前のストレッチは入念にしており、こういう怪我や故障といつも裏腹の関係で苦労してきたのである。幸い満には言ったが、五十肩にはなっていない、佐藤独特の満に対する優しさの現れである。
 確かに満は練習前にストレッチを重視してこなかった事は事実である。プールに来て着替えて足の太もも・ふくらはぎ・アキレス腱のラインをプールのスタート台に手をついて伸ばすだけでスグに水の中に入っていた、そして満の泳ぎは全ての種目ともキック主体と言うよりも腕で引っ張る泳ぎである。だから肩・腕には大きな負担がかかっていたのだろう…!
 翌朝、全く左手は上がらなくなった。服を着ることさえ差し障りがあり、左手不能状態である。日常生活にも支障が出ており、車の運転も左手は全く運転席ダッシュボードのエアコンのスイッチさえ入れられない。
……なんと哀れな事か、県大会で驚異的な記録の残したその年が明ける前に故障とは!これも定めなのか…!
 満はマッサージで物療を試みたが全く変化は無い。ただ泳いでいて、クロールが出来ない事はない、わずかの距離なら大きくローリングする事で練習にも耐えることができる、それに平泳ぎはいろいろ不自由だが何とか練習もできる。足腰を鍛えるには良いだろうとそう満は否定的に考えずに、仕方の無い事と受け入れたのである。
 そして冬、雪の季節、満の運動はプールだけとなった。
 しかし肩の故障とはいえ満は週三回の練習には足しげくプールに通い、バタフライなどの種目はキックだけの練習として、コンビネーション練習は平泳ぎに徹した。彼は内心平泳ぎに専念できるから好都合とさえ考えた。
「満、手が痛々しいな!みるみる筋肉が削げ落ちるようだな。使っていないんだから仕方ないけれど…!でも少し動くようだったら無理してでも動かすようにしないとダメだぞ。かばってばかりいても回復が遅いからな…」
「ありがとうございます。なかなか不自由で困ります。」
「満、腐るなよ、あくせくしてもトップスイマーは水泳人生短いけれど、我々マスターズスイマーは残りの人生全て現役だ。だから焦らずに精進!レースにも出続けることが大切だいつかまた復活すると強い意志をもつんだぞ…!」
と佐藤は満を励ましたのだ。
しかし満はどうして佐藤がそこまで親切に言ってくれるのかわからないでいた。満に降りかかった肩の故障が記録にどれだけ影響するか10年先輩の佐藤には痛いほどわかっている。だが、満に佐藤ほどの不安は感じていないのである。
 満はこの時点では、軽い怪我でよかった。利き腕でない事、平泳ぎが全く泳げない事無いと不幸中の幸いとさえ満は感じているのである。

 

つづく


生涯現役 9章

2006年12月31日 10時31分27秒 | 生涯現役
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9.
1月が過ぎ、2月が過ぎても肩の具合は一向に回復しなかった。そんなとき4月に富山県で「日本海マスターズ水泳大会」の要綱が届き満も手にした。
満は迷うことなくエントリーした。参加者は満一人である。
思うように練習できなかった満ではあるが記録がどうか興味があるところで早速満はレース前の精神状態になるよう肉体的な準備はさておいて心の高揚を進めた。
 しかし、思うように肩が回復しない事、そして仕事も年度変わりということでとてもレースに出場できるだけの準備が整わなかった。止む無く棄権の手続きをとることとなった。
昨年の秋に素晴らしい活躍をして脚光を浴びておきながら、あっという間に奈落の底に落ちた満はなんとか前向きに肯定的に考えようとするのだがなかなか思うように身体が動かずに気が滅入り、練習においても笑顔が消えてきている。
「満、夏の市民大会があるんだが、僕の地区出身として出てくれないか…?」
「良いんですか?僕は郊外の町居住だし、偽ってのエントリーはまずいんじゃないですか?」
「みんなしてる事だし、どうってことないよ。お遊びだ…!一緒にやろう。」
佐藤は満に励ましの気持ちも含めて夏の市民大会を進めてくれ、満も同意し、秋の県マスターズのリベンジに向けて頑張ろうと満は密かにそう思うのだ。
しかし、満の状況は良い方向には回復しないのである。
そして5月末、義父が他界するのである。満は喪主を仕切る事となり、暫らくの間水泳から遠ざかった。四十九日が済んだ7月の暑い日に満はプールに復帰した。どういうわけか右足首が捻挫したような違和感がある。正座のし過ぎだろうか…?左肩に右足首と自分の身体のようには思えない、制御不能状態である。でも泳ぐには右肩の問題はあるが平泳ぎをするくらいでは特段支障はなさそうだ。でもフィットネスジムでは歩く事さえおぼつかない。ランニングも出来ない!痛みではないが、まさに違和感。宇宙から舞い戻った足腰のような気がする、気長なリハビリが必要!そんな気がする。
 きっと満は水泳に頼りすぎた結果、歩く事、走る事などを怠ったことにより、基礎体力が激減し、思うような体力をあらわすことが出来なくなったのである。骨に異常が無いか念のために整形外科で診断をしてもらったが骨に異常は見つけられなかった。そして肩は五十肩といってもさほど大した事はない、どうって事は無いです。との診断である。
…違うんだ。僕はアスリートなんだ。普通の人の回復では困るんだ。
と思ってもそれを復活させるのは医師の問題では無い。満自身で身体を鍛えるしかない。でも肩に問題が生ずる前から、仕事がら、満はほとんど歩かなくなって来ている。単に五十肩の問題ではなさそうだ。根本的な生活習慣として、アスリートとしても肉体は崩壊しつつあったのだろう。
 「満!右肩の筋肉がすっかりやつれて見る影も無いな…!筋肉の退化はおそろしいもんだよな…。」
「本当ですね、普通に生活している分にはどうってこと無いのかも知れないけれど、記録を争うアスリートには衝撃的な出来事なんですよ。」
「でも仕方ないじゃないか、来月の市民大会で体力を試すといいよ。今回は長水路だから、ちょっとは苦しいが、記録は良い参考データになると思うよ。」
「わかったよ!頑張ってみるよ。結果を期待せずどの程度いけるか試してみるよ。ありがとうございます。」
 佐藤は気持ちが落ち込んでいる満に気晴らしの意味で佐藤の居住区からのエントリーを満に勧めたのである。まあ今年の記録は期待できないにしてもこれから、新明言う地区の立花と定着すればそれで良い事だと考えた。
 練習は満にとって仏事があった事もあり、ほとんど満足いく泳ぎこみは出来ていない。そして身体もどことなくしまりが無く、レース前にした状態には程遠い。

 2005年7月福井市民大会 50メートル平泳ぎ43秒26
50歳台(市民大会は10歳刻み)での成績は入賞せず。

市民大会の結果は大きな記録ダウンを来たし、満も大きなショックを受けた。満は左腕は効かずとも持ち前のキック力でたとへ50メートルの長水路といっても一本勝負で40秒そこそこの記録がねらえると踏んでいた。
…どこまで記録が落ちるのだろう。腕はつかえないけれど、結構泳いでいるし、体力は鍛えているつもりなのにフォームはバラバラだし、スピードにも乗れない、どうなってしまうのだろう。満は一人取り残される危機感を感じている。
 でもレースはレース!くじけずに練習は休まずに通った
「立花さん!無理しないで下さいね。見ていてとても痛々しいですから…!」
「心配かけてごめんね。でもさほど落ち込んでないし、どうせ記録は元気であっても55歳になって区分が1階級上になった時に狙うからその時までは休まないでボチボチやるからね…。それに肩の故障が直るまで水泳休むと完全に運動できる身体じゃなくなってしまうからね…」
 クラブのコーチからはいろいろ配慮をしてくれているのだが、なんとも気持ちが晴れない満だが、仕方の無い事と受け入れている。これから長くマスターズスイマーとして生きていくからには、今の故障はまさに良い教訓であると同時に、記録ばかりが全てではない、50歳から水泳を始めて年を重ねるごとに早くなっていく人もいれば、80歳90歳になってもレースを楽しんでいるシニアもいる。記録、記録と意識する事も無い。それは単なる一指標でしかない。そう満は思うのである。

 2005年10月 日本海マスターズ。長水路(50メートルプール)
50メートル平泳ぎ 44秒02 
100メートル平泳ぎ 1分38秒66

2005年11月 県マスターズ大会 短水路(25メートルプール)
50メートル平泳ぎ 43秒09
100メートル平泳ぎ 1分33秒92

2006年 4月 日本マスターズ富山大会 短水路(25メートルプール)
50メートル平泳ぎ 41秒97
100メートル平泳ぎ 1分34秒51

 2006年 7月 福井市民大会 長水路
50メートル平泳ぎ 44秒49

 2006年10月 日本海マスターズ 長水路
50メートル平泳ぎ 44秒54
100メートル平泳ぎ 1分42秒80

 2006年11月 県マスターズ大会 短水路
50メートル平泳ぎ 43秒57
100メートル平泳ぎ 1分36秒58
と、まるまる肩の故障をしてから2年間が経過した。
満は改めてこの記録を見て感じている2年前に打ち立てた100メートル平泳ぎの1分27秒13の大会記録は未だに破られていない。2年経過して10秒もダウンしている。これは致し方無い。
 満はこの悔しい思いを秘めて、日々練習に精を出している。この二年間の屈辱と挫折は言い様の無い想いであった。


 

つづく