浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

アメリータ・ガリ=クルチ 佳き時代のパリを聴く

2006年06月19日 | 歌もの
アメリータ・ガリ=クルチというコロラテューラ・ソプラノ歌手がコッペリアのワルツを歌うレコヲドがある。現代の歌手では聴くことのできない可憐な高域、ころがるやうな音階、決して声を張り上げないベルカント。僕は声楽に通じているわけではない。けれども、こういう歌い方が完全になくなったのには何か理由があるはずで、そのことが僕には気に掛かる。

オリジナル楽器や当時の奏法でバロック以前の曲を演奏するやり方は、ブリュッヘンやマンローによって確立され、今では当たり前のようにそういう演奏を聴くことができる。しかも、現代の楽器で演奏するやり方も共存して、双方のニーズを満たしてくれている。

「マリア・カラス」の再来はあっても「ガリ=クルチの再来」は当分現れないだろう。それは、そういう声を人々が望んでいない間は絶対に出てこない、という意味である。

刺激の多い世の中ではより刺激的な音を求めるのはある程度わかるやうな気がする。しかし、心が弱り果てたときには、ガリ=クルチの可憐なコロラテューラを聴いてみてほしい。きっと、素直に心に染み入ってくるはずだ。映画「火垂るの墓」のエンディングが、ガリ=クルチでなく現代の歌い手の「ホーム・スヰート・ホーム」だったとしたら、それはもう全然余韻のない作品となり、涙も感動も半減したに違いない(と、僕は妄想する)。

今日は、父の日。お気に入りのガリ=クルチのCDを引き出し、古き佳きパリを味わった。コッペリアも心地よいが、ピエルネのセレナードもとても良い。

盤は、英國ロモフォンの復刻CD 81004-2。


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