浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

ブラームスのクラリネットソナタ第2番が聴きたい夜

2007年11月13日 | 器楽奏者
ブラームス晩年の室内樂、生涯最後の変奏曲、クラリネット或いはヴィオラでも演奏可、これらのキーワードから思ひ浮かぶイメージがあるだらう。ブラームスの深遠な世界を知り、永らく音楽に浸ってきた人々には何も語らずとも伝わる心情がある。

創作意欲を喪失しつつある老人が、ある人との出会ひを契機に最後の力を搾り出すやうに珠玉の名曲を書き上げるのだ。この人との出会ひがなければ、僕たちは2曲の奏鳴曲、三重奏曲や五重奏曲といった作品を聴くことができなかったのだ。その人の名は、リヒャルト・ミュールフェルト、今宵はそのミュールフェルトの最晩年、1907年の録音でブラームス最後の室内樂、クラリネット奏鳴曲第2番を聴いてゐる(そんなはずはなく、本当はレオポルド・ウラッハによる半世紀後の演奏を聴いてゐる)。

第2楽章に歌い上げられる旋律はたとえやうもなく美しい。この美しさは、以前に紹介したツェムリンスキーのクラリネット三重奏曲に受け継がれてゐる。また、中間部の回想的な音楽はどこかで聴いた懐かしい響きで、このやうな音楽にどっぷりと浸ってゐると現実から逃避したくなる。どこか遠くの見知らぬ里山に宿を借り、しばらく何も考えずにこの音楽を聴いていたいと思ふ。

ウラッハの素朴な音色と、奥ゆかしく控え目なイェルク・デムスの伴奏が素晴らしい。残るは505日と、指折り数えて待つ僕の顔が、冷たい窓にひんやりと映ってゐる。

盤は、国内WestminsterによるリマスタリングCD MVCW19021。


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