浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

若き日のベートーヴェンを老大家の演奏で

2008年07月24日 | 器楽奏者
カザルスの鳥の歌は道徳の教材として子供たちに紹介されてゐるらしい。教師をやってゐる友人TSからビデオを持っていないか尋ねられて知ったのだが、いかにもその業界らしい切り口ではある。僕としては、失恋したベルリオーズが夢の中で恋人とその相手を殺害した話とか、シューマンがライン川に身を投げた話やチャイコフスキーのコレラにかかった理由などの方がよほどためになると思ふのだが。

今宵は暇なので、昔使ってゐた(主にうちわ代わりやハエタタキなどに使用した)楽譜を引っ張り出してベートーヴェンのセロ奏鳴曲第1番をカザルスとゼルキンの演奏で聴いてゐる。

それにしてもカザルスの唸り声はかなり耳障りだ。本人も録音に入ることを分かってやってゐるに違いない。グールドと同じく確信犯である。この2人が協演したらさぞうるさくなり音楽を楽しむどころではなくなったことだらう。ひょっとすると歌の邪魔をするなとお互いに摑みあいの喧嘩になったやも知れぬ。ゼルキンで良かったと思ふ。

アレグロ・ヴィヴァーチェの85小節から116小節までの流れを久々に聴いて、心がしっとりと水分を得たやうな気分になり、青春時代の切ない想いまでもが蘇って来る。嗚呼、なんと美しい調べだ。101小節からのゼクエンツは、一瞬シューベルトを聴いてゐるやうな錯覚に囚われる。

それにしても、「ウー」「オエー」「アウー」とカザルスの唸り声はとどまるところを知らない。しかし、76歳とは思へぬ情熱溢れる歌だ。

盤は、英國CBSによるリマスタリングCD 515304-2。

ベートーヴェン:チェロ・ソナタ
カザルス(パブロ)
ソニーレコード

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