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海外のメディアから得た情報を書こうと思います。

2013年 グータ化学兵器事件 ムアダミヤ

2017-06-21 23:53:31 | シリア内戦

 

サリンは重いガスで、風がないと地上を漂い、低い地下室などへ流れる。背の低い子供には影響が大きい。

8月21日未明、ダマスカスの気温は午前2時から5時にかけて低下し、重いガスが地表付近にとどまった。建物の下層階に避難した場合、被害が拡大した。

国連の報告書によると、「攻撃は最大限の効果を発揮する条件で行われた。当時は気温の低下に伴って空気の流れが下降しており、サリンガスも地面近くに滞留。その結果、多くの市民がガスを浴びた」。

攻撃があったのはダマスカスの郊外2か所であり、南西の郊外のムアダミヤと東の郊外のザマルカである。

ムアダミヤとザマルカは互いに16㎞離れているが、どちらもグータ平原にあり、「グータへの化学兵器攻撃」としばしば言われる。国連の報告でも「グータ事件」と言われている。

グータはダマスカスの東と南に広がる平原であり、田園地帯となっている。ダマスカスに近い部分は市街化している。そこでサリン事件が起きた。

事件直後の様子をシリア人権監視団が書いている。

=====《Attasks on Ghouta》=======

            Human rights watch

 Analysis of Alleged Use of Chemical Weapons in Syria

 

 8月21日の朝、多くの死者の映像がYouTubeに現れ始めた。投稿者は化学兵器の結果だと説明した。これらのビデオは数十本あった。病院に収容されたされた犠牲者も映されており、彼らは毒ガスによる症状を示していた。多数の動物も死んでいた。羊、犬、猫の他に野鳥も死んでいた。これらのビデオを投稿したのは地元の市民活動家のようだ。

続いて詳しい情報がもたらされ、攻撃があったのはダマスカスの郊外の2か所であり、互いに16㎞離れた場所である。どちらも反政府軍の支配地である。住民の話によれば、東グータのザマルカが攻撃されたのは午前2時から3時頃であり、西グータのムアダミヤが攻撃されたのは午前5時頃であり、朝の礼拝が終了した時だった。

被害者の症状は次のようなものである。

①窒息 ②呼吸困難 ③けいれん ④はきけ ⑤口から泡を吹く ⑥目や鼻から水が出る ⑦めまい ⑧目がかすむ ⑨目元がただれる ⑩目の瞳孔が小さくなる

これらの症状はサリンのような神経ガスの影響だとされている。シリア内戦で、最近サリンが使われるようになった。

          《西グータのムアダミヤ》

ムアダミヤのラウダ・モスクの近くの共同住宅にロケット弾が落ちた。その直後現場に到着した人が人権監視団に語った。

「午前5時ごろ、私たちがモスクにいた時、ロケットの着弾音がした。我々は音がしたほうへ駆け付けた。それはモスクから400mほど離れた場所だった。我々は普通の爆弾だと思っていたが、現場に近づくと誰かが「毒ガスだ! 毒ガスだ! 」と叫んでいた。ロケットは4階建ての建物の2階に落ちていた。全員が寝ている間に死んだ。建物の破壊は小さく、壁に穴を開けただけだった。毒ガスだ、という叫びを聞いたので、人々は水につけたシャツで顔をおおった。空気は何のにおいもなかったが、人々は気絶し始めた。私は濡れたシャツで顔を覆い、倒れた人々を医療センターへ運んだ。ガス弾が着弾した建物の中へ入るのは危険だと私は思った」。

5日後国連の調査団がその場所に来てロケットの残骸を調査した。証言者は、5日後も現場はそのままであり、ロケットの残骸は同一であったと語った。

もう一人の証言者はムアダミヤの報道センターで仕事をしている人物で、彼は次のように語った。

「ムアダミヤの2か所に7発のロケットが着弾した。ラウダ・モスクの隣に4発、同モスクから東へ500m離れたところ(Qahweh 通りとZeytouneh通りの間)に3発である。7発のロケットはすべて同型だった」。

 

人権監視団はラウダ・モスクの隣の道路に落ちたロケットの映像を見て、それがソ連製の140㎜ロケットだとわかった。M-14地対地ロケットと呼ばれるものである。ロケットの最後尾に10個のノズルと電気接触盤がある。これはソ連製の140㎜ロケットの特徴である。ロケットの表面に製造工場を示す数字が記されている。179という数字により、ノボシビルスクの工場であるとわかる。ソ連時代ここは、砲とロケットの最大規模の工場であり、140㎜ロケットもここで生産されていた。

現場に残っていたのはエンジン部分(推進部)であり、弾頭部分は残っていなかった。

シリア政府が140㎜ロケットを所有していたことが記録に残っている。140㎜ロケットの発射機として用いられるのは、1950年代に開発されたBM-14である。1967-1969年に、ソ連は200機のBM-14をシリアに引き渡した。同時に140㎜ロケットを含む大量のロケットを引き渡したと推測される。以上は、武器の流れを追跡しているストックホルム国際平和研究所(SPRI)の資料で確認できる。

140㎜ロケットの弾頭は3種類ある。

   ①Mー14ーOF   破壊力の大きい爆発物質

   ②Mー14ーD        煙を含む白燐(リン)

   ③2.2キログラムのサリンを含む化学弾頭

8月21日ムアダミヤを攻撃したロケットの弾頭については、

   ①爆発の仕方についての証言

   ②弾頭部分が残っていない

   ③被害者の症状

などから、爆発弾や燃焼弾ではなく、化学弾であると推定できる。

 

140㎜ロケットの射程距離は3.8km以上、9.8km以内である。ムアダミヤの2人の証言者によれば、ロケットはマッゼ軍事空港と第4機甲師団基地の方角から来た。前者は着弾地点から4km離れており、後者は5-7㎞の距離にある。攻撃された場所はいずれの基地からも射程内にある。それ以外にもいくつかの政府軍基地、訓練所、対空ミサイル基地などが射程範囲内にある。

人権監視団はこれまでに政府軍が使用してきた武器の種類を記録している。

①住宅地への240㎜迫撃砲 ②対人地雷 ③6種類以上のクラスター爆弾 ④市民に対し燃焼弾 ⑤弾道ミサイルによる無差別殺戮

8月21日に使われた140㎜ロケットは、これまで記録されておらず、この日新しく登場したものである。人権監視団は反政府軍が140㎜ロケットやそれの発射機を所有しているという情報を得ていない。

===================(人権監視団終了)

ムアダミヤに打ち込まれた140㎜ロケットの種類が特定されていることは、犯人を特定する手がかりとなる。シリア政府がこれを所有していたようである。しかしそれは45年も昔の話である。シリアは化学兵器の開発を重視しており、化学兵器用のロケットも更新している。シリア軍が犯人であるとすれば、大量にある現役のサリン用ロケットを使わずに、すでに退役した古いロケットを使ったことになる。

各国の軍事装備を記録するグローバル・セキュリティのシリアの項目に記録されているのは、新型のBM-21であり、シリアはこれを300台所有している。BM-14は保有していないことになっている。そもそも持っていないのか、新型のBM-21に取って代られたので、記録からはずしたのか、わからない。ウイキペディア(日本版)を読むと、BM-14 が旧式なロケットであることがわかる。BM-14は140㎜ロケットの発射機である。 

 

 

==========《BM-14》===========

  

BM-14は、BM-8/BM-13 カチューシャの代替として使用されていたが、ソ連軍では1963年以降は順次新型の122mm口径BM-21に更新されて退役した。

BM-14はキューバやアルジェリアなどが装備し、1993年からのアルジェリア内戦で使用されている。現在でも世界中のゲリラ組織がBM-21と共に使用しており、レバノンのヒズボラやアフガニスタンのタリバン、イラクの武装組織などが使用している模様。

=================(ウイキペディア終了)

BM-14は古い兵器であるが、非正規軍の間では現在も使われている。イラクの武装組織がBM-14を使用している、とあるので、ヌスラやイラク・イスラム国がBM-14を所有していたことになる。

 

イラクの武装組織の中にはシーア派民兵もあり、彼らはアサドのために戦っている。2013年の時点で彼らは人数が少なく、彼らがBM-14を所有しいた可能性は低い。

 

ヒズボラがBM-14を所有している意味は大きい。ヒズボラはアサドの重要な同盟軍である。

 

反政府軍がBM-14を手に入れた可能性は他にもある。

 

①アルジェリアのBM-14がフランスの仲介により、反政府軍に渡った。

 

②タリバンのBM-14がサウジアラビアの仲介により反政府軍に渡った。

 

現在BM-14は非正規軍の間で広く使われており、反政府軍が使った可能性がある。シリア軍が倉庫に眠っていたBM-14を使ったとは限らない。

 

 

 

ソ連ではBM-15は1963年に退役したと考えられている。しかしロシアは現在もBM-15を保有している、という情報もある。Igor Stuaginによれば、実際にロシアはBM-15を公開しているという。

 

シリア軍は倉庫に眠っていたBM-14を取り出して使ったのかもしれない。しかし現在BM-14は非正規軍の間で広く使われており、反政府軍が使った可能性もある。アサドの同盟軍であるヒズボラの可能性もある。 

 

ストックホルム国際平和研究所(SPRI)の資料には、

19671969年に、ソ連は200機のBM-14をシリアに引き渡した」と書かれている。

 しかし、ロシアはこれを否定している、という。

 インディペンド紙によれば、「ロシアはBM-14をシリアに渡していない」。

 =====《Gas missiles 'were not sold to Syria' 》====       

         The Independent 921日 2013

 821日のグータの事件について、ロシアが所有する新しい証拠が出回っている。その中には、攻撃に使用されたロケットの輸出についての情報が含まれる。ソ連は1967年製のロケットをアラブ諸国に売却した。イエメン、エジプト、リビアである。ロシアはこの種類のロケットをシリアには売却していない。

 これについて、ロシアは文書によって説明していない。

 グータの事件について、プーチンは重要な発言をしている。『サリン攻撃をしたのはアサド軍でない、とオバマは知っている』。しかしプーチンはそれ以上詳しく話さない。

 

====================(インディペンド終了)

 

 

人権監視団の記事について、もう一点説明したい。

 

2番目の証言者によれば、着弾したロケットは7個である。「モスクの隣に4個、東へ500m離れた所に3個」とある。

1番目の証言者は爆発音を聞いて、すぐに爆発地点へ向かった。彼は「そこはモスクから400m離れたところだった」と語っている。モスクにいた彼は、モスクの隣に落ちた4発について何も語っていない。

140㎜ロケットは小型である。弾頭の大部分はサリンであり、火薬は少なく、爆発音は小さい。400m離れたところに落ちた場合、爆発音が聞こえるだろうか。

           〈国連の報告〉

ムアダミヤの報道センターの報告者は7個のロケットが着弾したと述べている。モスクの隣に4個、東へ500m離れた所に3個」としている。

国連のチームが調査したのは2個だけである。その報告書からは、調査した場所がどこかわからない。「共同住宅の2階に衝突した」とあるので、モスクの隣ではなく、モスクから400-500離れた場所のようである。上記人権監視団の記事の中で、1番目の証言者が「ロケットは4階建ての建物の2階に落ちていた」と述べている。「その場所を国連が調査した」とも述べている。国連が調べたもう一個は「そこから65メートル離れた場所」である。

国連は「モスクの隣に4個」については調べていない。「モスクの隣の4個」は根拠がないように思えるが、「ラウダ通りが最も被害が多かった」という証言もある。モスクの名前はラウダ・モスクである。モスクから東へ500m離れた場所はQahweh 通りとZeytouneh通りの間である。

国連の報告の中から、ムアダダミヤに落ちたロケットに関する部分を抜粋する。

======《ムアダミヤの事実》===========

 Report  of the United Nations Missionto Investigate Allegation of the Use of Chemical Weapons in Syria

調査チームは共同住宅の裏庭の着弾地点を調べた。住民の話によれば、8月21日この建物の周辺が攻撃され、毒物の影響により人々が死亡または負傷した。その場所で、裏庭には石のタイルが敷かれており、その一部に衝突による小さなくぼみがあった。くぼみの周辺には土、石のかけら、金属片が散らばっていた。さらに興味深いことに、くぼみを引き起こしたと考えられるロケットのエンジン部分が残っていた。エンジンの先端には土と石のかけらが付着しており、それらはくぼみの周辺に散らばっている物と同一である。くぼみとその周辺には爆発の影響がなく、弾頭は別の場所で爆発し、エンジン部分だけここに落ちたのである。くぼみの近くにある、格子状の垣根が破損しており、ロケットは最初東側の共同住宅の2階に衝突し、弾頭が爆発した。エンジン部分だけが垣根を突き破り、裏庭に落ちた。

調査チームはこれらの場所からサンプルを取り、毒ガス検知器(LCD3.3)で計ったが、計測値はゼロだった。

チームはこれらの場所の写真を撮り、調査の過程をビデオに取った。

目撃者たちと話し合ったうえで、東側の共同住宅の調査に向かい、ロケットの最初の衝突による石造の建物の破片とそれより小さな金属片を発見した。ロケットのまとまった残骸はなかった。建物の内部と外の地面からサンプルを採取した。

この共同住宅の住居者が毒ガスのため死んだり、負傷したということである。

    <発見されたエンジンの特徴〉

色 :明るい灰色

文字①外側に黒文字で97-179 

      ②円形の底部の刻印    

サイズ 長さ 630Mm  太さ 140mm

エンジンの底部には10個のノズルが並んでおり、中心に電気接触盤がある。

      

    〈予想される弾道〉

エンジンの特徴から判断すると、これはM-14ロケットの一種である。弾頭は残っていないので、ロケット本来の弾頭であったか、独自に作成したものを取り付けたか、わからない。

発射されたロケットは共同住宅の2階に衝突し、エンジン部分だけが生け垣を貫き、裏庭に着地し、石畳に浅いくぼみをつくった。生垣と窪みを結ぶ線は35度である。発射されたロケットの弾道の方位角はその逆であるから、215度である。

65メートル離れた所に場所に着弾したもう一つのロケットの方位角も215度である。この2発は同一の連弾発射機から発射されたと考えられる。

         〈調査の限界〉

2か所を調査し、サンプルを取る時間が限られていた。調査の前にも調査中にも、この場所は人の出入りがあった。破片や他の証拠が変更されたり、他所から持ち込まれたことは明らかである。

==================(国連の報告終了)                                                                

 ロケットの射程距離と飛来した方向から、政府軍の支配地で発射された可能性が極めて高い。これは決定的な証拠に近い。ただし、北方と北東は政府軍の支配地であるが、東北東と東方は反政府軍の支配地である。ロケットの射程距離を示した地図を見れば、マッゼ軍事空港の東側一体が反政府軍の支配地であることがわかる。射程範囲を示す赤字に黒斜線のため、見えにくいが注意しして見るとわかる。北東と東北東の違いはわずかである。

 方位角215度を調べたら、南西と南南西の中間である。ロケットは発射地点からこの方角に飛んだ、ということらしい。 着弾地点から発射地点を見た方位は北東と北北東の中間となり、間違いなく政府軍支配地である。

方位角215度が正しければ、ロケットは政府軍の支配地から発射されたことになる。


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