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海外のメディアから得た情報を書こうと思います。

ロシア軍を支えるウクライナの軍需産業

2014-11-15 14:12:15 | ウクライナ

     ドニプロペトロフスク   大陸間弾道弾の工場がある

          

   <ロシア最初の製鉄所をウクライナに建設>       (写真)SEO

ロシアで産業革命が起きたのは、19世紀末アレクサンドル3世の時代である。蔵相ウイッテが中心になって推し進めた。英国の産業革命より100年遅れ、フランスの産業革命より50年遅れたが、ロシアの産業革命は急速に発展した。フランスの資本がもとになった。この時代、ウクライナに最初の製鉄所が建設された。それ以来、ウクライナ東部はロシア第一の重工業地帯となった。鉄道の蒸気機関車はハリコフでつくられた。

 ハリコフの蒸気機関車工場は、ソ連時代になると戦車を製造するようになった。ナチス・ドイツの機甲師団と戦ったことで有名な戦車T-34はこの工場でつくられた。冷戦時代にはT-64とT-80、現在はT-84型の戦車が製造されている。

 この工場は現在マールィシェウ記念工場と呼ばれ、戦車の他にもジーゼルエンジンや農業機械を製造している。

 

ロシアにとってウクライナは国家の第二の中核といえるほど重要な地域である。

 2008年、プーチンはウクライナの分割をポーランドに打診した。2014年2月の政変後ロシアはクリミア併合した。ウクライナ東部について、ロシアは「ウクライナ東部を分割する意図はない」と語り、政治的交渉による解決を優先してきた。しかし相手の友好的姿勢が疑わしくなった場合、ロシアは2008年に意図した「ウクライナ分割」を実現するかもしれない。

 ウクライナの現政権はロシアからの完全独立を悲願としているが、経済的に最も重要な東部と南部はロシアとの結びつきが強く、これらの地域の経済的価値は、帝政ロシアとソ連が築いてきたものである。「歴史的にロシアの土地」と言ってもよい地域を、ウクライナが「我が国の不可分の領土」とかたくなに主張すれば、事は簡単にすまない。現にロシアはクリミアを併合した。

 4月、ロシア軍によるウクライナ侵攻の危機が高まり 、ウクライナが分割されるのではないかと恐れられた時 、ウクライナ東部の軍需工場とロシア軍との密接な関係について、いくつかの記事がネットにのった。それらの記事を以下に抜粋する。

 最初に紹介するのは「戦争は退屈」というブログの5月6日の記事。

 

            <ロシアの大陸間弾道弾はウクライナ製>

               

                       

ロシアがウクライナを核攻撃すれば、ウクライナ国家は地上から消滅する。しかしロシアの核ミサイルはウクライナの部品がなければ目標に向かって飛べない。

ウクライナがロシアに供給する軍需品の30%はウクライナ以外の工場では生産できない。

ウクライナの軍産複合体がロシアへの輸出を停止した。これはロシアの戦略ロケット軍にとって致命的な打撃だ。 SS-18型のICBM(大陸間弾道弾)を設計・生産し、整備しているのは、ウクライナの国有企業ユズマシである。ユズマシはドニプロペトロフスクにある。

SS-19 型とSS-25型はロシアで設計・生産されているが、誘導システムはウクライナの企業が 製造している。ハリコフにあるハルトロン社である。

ロシアの戦略ロケット軍が保有するロケットの80%以上は上記の3種の型に属する。

(たぬき注: 最新のSS―27型について述べられていないが、ロシアは電気・ハイテク産業の遅れを改善できていないので、誘導システムはウクライナ製である可能性が高い。)

                <ジェットエンジンはウクライナ製>

Motor-Sich社がロシアのすべての輸送機のジェットエンジンを製造している。そしてすべての戦闘・輸送ヘリコプターのエンジンを製造している。

また同社は新鋭戦闘機スホーイの27型・30型・35型の部品を製造している。それは舵面を操作する油圧系と減速用パラシュートである。

ロシアの平和・軍事目的の核施設で使用される天然ウラン鉱石の約20%はウクライナ産である。

本文 Russian Military Needs Ukrainian Spare Parts

 <https://medium.com/@warisboring/russian-military-needs-ukrainian-spare-parts-dd4fda8cf09f>

 

次は「自由ヨーロッパ」の3月28日の記事。ロシアはウクライナを支配下に置きたいが、戦争をすれば、軍需工場が破壊されてしまう、というジレンマに苦しむという内容。

         <ロシアがウクライナを攻撃することは自分の足を射るような行為>

 皮肉なことに、クリミアやウクライナとの国境沿いのロシア軍の武器の多くはウクライナの工場で製造された。戦闘ヘリコプターのモーターはすべてウクライナ製であり、海軍の艦艇のエンジンのほとんどはウクライナ製である。ロシアの戦闘機に装備されている対空ミサイルも半分がウクライナ製である。

 ロシアがウクライナを攻撃することは、自国の軍需工場を攻撃することであり、つじつまが合わない。自分の足を射るような行為である。だからといって、ロシアは戦わないという単純な話にはならない。

ロシアとしては、いかに大きな犠牲を払ってでも、これらの工場がある地域を支配下に置きたいのである。

自由ヨーロッパの軍事通信員ヴォロノフが次のように述べている。

「ウクライとの関係が断たれれば、ロシアの防衛計画に壊滅的な打撃を与える。西欧からの武器輸入を止められることよりはるかに大きな打撃となる」。

本文 Complex Ties: Russia's Armed Forces Depend On Ukraine's Military Industry 

March 28, 2014        By Charles Recknagel

http://www.rferl.org/content/russia-ukraine-military-equipment/25312911.html

 

          ハリコフとドニプロペトロフスクの位置

             

(説明)                             (地図)Aljazeera

東端にルハンスク州とドネツク州がある。地図の薄いオレンジ色の部分。ルハンスク州の西隣がハリコフ州である。ウクライナ語表記ではハルキウである。ドネツク州の西隣がドニプロペトロフスク州である。

次はブルームバーグ5月7日の記事から。

          <東部と南部がロシア領となることは極めて有益である>

ウクライナ東部にはロシアの最重要な軍事産業の施設がある。50以上の工場群が輸送機やヘリコプターのエンジンなどをロシアに供給している。20年前にこの供給を保障する貿易協定が結ばれた。

「これらの軍需工場群があるウクライナの東部と南部がロシア領となることは、軍事的にも経済的にもロシアにとって極めて有益である。」と、モスクワの軍事専門誌のバラバノフ編集長が語った。

2013年12月、ロシアはウクライナへの150億ドルの援助をヤヌコビッチ大統領に約束した。その際、両国の軍事産業をさらに密接に結び付ける契約がなされた。

ウクライナの政変後、プーチン大統領は「ウクライナからの供給が途絶することは、ロシアの軍事力を大きく損なう」と事態の重大性を指摘している。先週彼は「ロシアへの供給を失うことは、ウクライナの軍事産業にとっても破局的なダメージとなる」と語った。

(たぬき注; ウクライナの軍需品は完成品が少なく、ほとんどはロシア向けに特化した部品であり、他に振り替えることが難しい。)

 「ロシアの核兵器製造施設の半数以上はウクライナにある。これには核ミサイルの巡航システムも含まれる。」と、ウクライナの軍事コンサルタント誌のズグレツ編集長が述べている。

 本文 Ukraine's Arms Industry Is Both Prize and Problem for Putin

By Kateryna Choursina and James M. Gomez May 7, 2014

http://www.rferl.org/content/russia-ukraine-military-equipment/25312911.html

 

次はモニターの4月10日の記事である。

          <敵に武器を供給するのは、きちがいじみている>

               

追い詰められたウクライナの臨時政府は「ロシアへの武器輸出のすべてを停止することになる」と警告した。「われわれを攻撃するつもりでいる軍隊に武器を供給するのは狂人の行為に等しい」とウクライナ第一副首相は述べた。

そのような動きが現実のもとなれば、ロシアの軍事力に深刻なダメージを与えるだろう、と多くの専門家は指摘する。ロシア軍が現在すすめている抜本的な近代化は、ウクライナの工場を前提としており、それらを移転したり、代替工場を新設するとなれば、新たに膨大な費用が必要にる。

2008年のグルジアとの戦争の際に、ロシア軍の戦備に重大な欠陥があることが露見した。戦後、ロシア政府は軍に近代化を命じた。

タス通信の軍事専門家のリトフキンは次のように述べる。

 ーー 今はロシアにとって非常に不愉快な時期だ。ウクライナとの軍事協力はロシアにとって不可欠だ。ソ連時代ほどではないが、現在でもウクライナの部品は、ロシアの近代兵器の重要部分に多数組み込まれている。その品目の多さはは驚くほどだ。

ロシアの輸送機を生産しているのは、キエフにある国営アントノフ設計局だ。同社は新型AN-70を含め数々の有名な輸送機を生み出している。

 (たぬき注: 同社は現在世界最大の輸送機であるAn-225ムリーヤを製造したことで有名。同社の工場はキエフとハリコフにある。)

 ロシア空軍はピカピカに新品の短距離滑走路で離着陸できる航空機60機を受け取る予定だった。しかしキャンセルされそうだ。ーー

以上がリトフキンが語ったことである。

 キエフの軍事研究所のバドラク所長によれば、「イリューシン輸送機の最新型 Ⅱ―476は、製造はロシア中部のウリヤノフスク市でおこなわれているが、ウクライナの部品が不可欠である。

ウクライナの20数社が、ロシアの安全と防衛にとって重要なプロジェクトを共同で行っている。

 本文 Can Russia's military fly without Ukraine's parts?

By Fred Weir, Correspondent April 10, 2014

 貼り付け元  <http://www.csmonitor.com/World/Europe/2014/0410/Can-Russia-s-military-fly-without-Ukraine-s-parts>

         世界最大の輸送機アントノフ      (写真)ウイキペディア

                 

           ブランを搭載したAn-225   t通称ムリーヤ(夢という意味) 

上記の記事に次の一節があったが、論旨が異なるので省略した。改めて紹介する。

ーーロシア政府はウクライナの武器輸出停止発言を真剣に受け止め、プーチンは閣議で緊急の対策を命じた。「前に進むのだ。ロシア国内で代替生産できる企業を調べて、計画を立てなければならない。資金は政府が準備する。」ーー

プーチンはウクライナ支配をあきらめ、軍事工場をロシアに移転・新設することを考えているのである。しかし、コストが大きいので、これが実際に進捗するかは、わからない。

プーチンが政治解決の方針を変えないかどうかは不明である。また彼が真の独裁者なのか、については疑問がある。彼は軍部を統制できるのか。またロシアの真の支配者はFSB(旧KGB)かもしれず、彼は代理人にすぎないかもしれない。

 

     < ロシアにとって重要なのは、ドネツクとルハンスクだけではない>

           予想分割ライン=ロシアが最低でも獲得したい地域

                

 (説明)                            (地図)  ABC

① 赤い境界線は、2010年の大統領選挙の結果を示す。東・南部でヤヌコヴィッチが勝利し、西・北部でティモシェンコが勝利した。歴史的にロシアとの結びつきが強い東・南部の住民はヤヌコヴィッチを支持した。

② オレンジ色と薄黄色の色分けは、ロシア語話者の割合を示す。オレンジ色の地域はロシア語話者が多く、薄黄色の地域はロシア語話者が人口の30%以下である。

8月末のロシア軍による反撃の後、ヤツェニュク首相が「ロシアがねらっているのは、東部だけではない。ウクライナ全部だ。」と語った。これは正しい。ロシアとしては、軍事的な面では、ウクライナの主権を認めたくない。ソビエト時代、東欧諸国の主権を制限したように、ウクライナの独立を形式的なものにして、実質的には保護国にしたい。それが不可能となった時、ロシアは地図に示された赤い線を分断ラインとして、ウクライナを分割するかもしれない。

            <ニコラエーフの黒海造船所>

ロシア領となったクリミアにとって、対岸のケルソン州が重要なことは言うまでもないが、ケルソン州の西隣のニコラエーフ州には造船所がある。ソ連時代には、巡洋艦と空母を建造するトップクラスの造船所であったが、ソ連崩壊後、海軍造船所としては無用となった。黒海造船所は民間の船舶の造船所となった。プーチンの再軍備と軍の近代化時代になって、海軍造船所として再びよみがえろうとしている。

FC2ブログ 「ロシア海軍報道・情報管理部機動六課・ACS」から引用します。中国の空母「遼寧」が、空母「ワリャーグ」を改装して造られた経緯が語られています。

---空母「ワリャーグ」は1985年12月6日起工され1988年11月25日進水したが1992年工事中断しました。1998年3月、未完成のままマカオ企業へ売却、中国の大連へ回航され、2012年9月25日に「遼寧」として就役しました。黒海造船工場の「空母」建造にも終止符が打たれました。

 黒海造船工場は、これらの「空母」建造と並行して民間船(漁船など)の建造も請け負っており、利益をもたらしたのは、「空母」よりも民間船の建造でした。

ソ連邦解体後はウクライナの造船所として存続しましたが、ロシア海軍の仕事は全く無くなり、ウクライナ海軍の仕事と民間船の建造や修理で会社を維持して来ました。

そこで、ウクライナ海軍だけに頼っていては充分な仕事を確保できないと見た黒海造船工場は、外国(ロシア)海軍の仕事を受ける用意があると公式に表明したという事です。

  黒海造船工場の生産ポテンシャルは非常に高いとのですが、何しろ、かつては8万トン級の「原子力空母」の建造まで手掛けた造船所が、今や2500トン級コルベットしか建造していないのですから、「ポテンシャル」は有り余っています。

   現在、ロシア連邦の「2011-2020年までの国家軍備プログラム」により、ロシア海軍の近代化が進められています。黒海造船工場も、このプログラムへの参入を狙っているのでしょう。ーー

 <http://rybachii.blog84.fc2.com/blog-entry-695.html

最後に、確認として、ワシントンポストの「ウクライナに依存するロシア軍」という記事の地図を転載します。 

 輸送機のジェットエンジンとヘリコプターのエンジンを製造するMotor-Sich社の工場はザポロージェにあります。ザポロージェ州はドニプロペトロフスク州の南隣に位置し、アゾフ海に面しています。ウクライナ語表記ではザポリージャといいます。 

             

説明)① ロシアの戦艦の60%がニコラエーフで製造されるギアを必要とする。

② アゾフ海の石油とガスはロシアが独占している。

③ ロシア領となったクリミアは食量を空輸するか、または船で運ばなければならず非常に困難である。

④ ゾフティヴァディで産出される天然ウランはロシアの需要の20%を満たしている。

This map shows how Russia’s military relies on Ukraine

 By Adam Taylor and Gene Thorp May 9

 <http://www.washingtonpost.com/blogs/worldviews/wp/2014/05/09/this-map-shows-how-russias-military-relies-on-ukraine/

 

 

 

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