たぬきニュース  国際情勢と世界の歴史

海外のメディアから得た情報を書こうと思います。

軍閥化する自由シリア軍

2013-05-25 21:27:12 | シリア内戦

 

昨年の12月に見た自由シリア軍の映像では重火器の姿はなかったが、今回見た映像では対戦車砲とロェット砲が写っていた。ロケット砲といえば、第二次大戦の独ソ戦で、反撃に転じたソ連軍がロケット砲を射ちまくる場面が印象的である。大砲は一発ずつうち、威力があり、命中精度も高い。ロケット砲はこの点で大砲に劣るが、連続して発射することで一定範囲を制圧する。連続発射の効果は大きく、ドイツ軍に恐れられた。この時使われたソ連のロッケット砲の名前がカチューシャ。カチューシャの発射音が連続して鳴り響くと、ソ連軍の反撃開始の合図のようにきこえた。クルスク戦車戦と呼ばれる戦いで、世界最強と言われた独軍の戦車部隊にむかって、ソ連軍は反撃を開始した。その象徴がカチューシャの連続発射でした。

二つの重火器の映像に続いて、戦車が出撃していく様子が映し出されました。昨年12月の自由シリア軍の装備といえばライフルだけだったので、最近彼らの装備が強化されたことは一目りょうぜんでした。

 

昨年秋に、反政府軍の攻勢が進み、12月には世界のメディアが、アサド政権の崩壊近し、と伝えました。しかしその後、政府軍の砲撃と空爆の威力の前に、反政府軍は苦戦を強いられ、一進一退を繰り返しました。この間、政府軍の空爆の破壊力はすさまじく、シリアの都市は廃墟となりました。第二次大戦の時,世界最強の英米両国の空軍によって、ベルリンは徹底的に破壊されました。そのときのベルリンの映像と、廃墟となったシリアの都市の映像はよくにています。最近シリアに入ったロシア人リポーターは、破壊されたダラヤの町をスターリングラードにたとえています。誰が見ても、戦闘がおこなわれたシリアの都市は、第二次大戦の時に破壊された都市に似ていると思うのです。

 

今年の二月と三月に反政府軍は行き詰まりました。そして反政府軍を支援すべきだという声が高まり、オバマ大統領はこれに応じますが、「非軍事的」という条件を付けました。大統領自身の軍事支援を控えたいという考えは変わらず、しかし反政府軍の苦境という現実に対応せざるを得ず、その微妙な立場の表現が「反政府軍に対する直接的、非軍事援助」という言い回しになりました。。

                                    オバマ大統領の「非軍事的援助」発言の後、自由シリア軍は南部で新たに攻撃を開始し、着々と支配地を広げていきました。今までの北部を中心にした戦いに加え、南部でも激しい戦いが始まり、アサド政権は再び苦境に立っています。

四か月ぶりに、アサド政権の崩壊近し、という声がきかれるようになりました。

 

しかし、アメリカの政策決定者にとって深刻な悩みがあります。これまでの戦いの中心だった北部の反政府軍の問題です。北部で最も戦闘力のある部隊はあいかわらず、アルカイダ系イスラム原理主義集団のヌスラですが、世俗的な自由シリア軍も着々と力をつけ、軍閥へと成長し始めています。最近それぞれの武装勢力への武器援助が露骨になったと言われています。本来アメリカの支援対象であるはずの世俗的な自由シリア軍も、予期に反して、アメリカの意のままにならない危険な勢力として成長しています。つまり、アメリカがコントロールできる武装勢力は存在せず、しかも、いくつもの武装集団がそれぞれ強大化への道を歩んでいるということです。時間がたてばたつほど、アメリカは、影響力の行使という点で無力になっていきます。

 

はじめに反政府不軍の武器の充実と政府軍の空爆の激しさにについて書きましたが、今後ますます戦闘が激化することは避けられません。そして、激しく長い戦争の後に、アサドが中央政府の座を追われても、戦争は終わりません。アサドは地方勢力として残存し、一方、反政府は分裂し、互いに内戦をはじめるでしょう。また、イランは地方勢力となったアサドをとことん支え、これに対抗して、湾岸諸国は分裂した反政府勢力のいずれかを支持するでしょう。こうして内戦はさらに続くでしょう。アサドが言うように「これはシリアだけの内戦に終わらない。地域全体が大混乱に陥り、戦争は数十年つづくだろう。」

                                    第三者の私から見ると、サダム・フセインもハフェズ・アサド(バシャール・アサドの父)も非常に現実的な判断のもとに国家を維持しようとしていたので、予測不可能な危険性はなかったと思う。アサド父子はイスラエルにとって「信頼できる敵」と言われたほどだ。アラブ世界では、アサド父子は、アラブの大義よりシリア一国の利益を優先する指導者と考えられてきた。アラブの理念を裏切っても、自国の利益と安全を守るという現実的な姿勢によって、アサド体制は地域の安定要因になってきた。それが「アラブの春」でくつがえってしまった。そして地獄の内戦になり、地域大戦争の前夜となってしまった。「民主化」の代償はあまりに大きい。イギリスの清教徒革命、フランス大革命、ロシア革命を学ぶと、どうしても「民主革命」の恐ろしさ知って、たじろいでしまう。「中央政権が倒れて、政府というものが存在しなくなる。これほど恐ろしいことはない。」

コメント
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